第3話
使用人のおかげで、最後にこっそりお姉様とお会い出来ました。お姉様は、泣きながら1羽の鳥を預けて下さいました。
お姉様は、魔力を動物に変えて扱う事ができます。偵察も出来ますし、おしゃべりも出来ます。
「エルザ、この子を連れて行って。少しなら危険から守ってくれるし、おでこにエメラルドのような宝石があるでしょう? ここを押すとわたくしと話せるわ。わたくしからお話しする時は、この宝石が光るから、話せたらお話ししましょう。困った事があったらすぐ相談してね!」
「ありがとうございます。ですがこの鳥をずっと出しているのは負担でしょう?」
「毎日、魔力が100くらい減るけど大した事ないわ」
普通の人なら半分程度は魔力を消費する事になります。お姉様は魔力が高いですから、あちこちで魔力の提供を求められている筈です。
それなのに……わたくしの為にこんな鳥を用意して下さるなんて……。わたくしに……魔力があれば……お姉様にご負担をかけなくても良かったのに……。
わたくしが泣き出したら、お姉様は扉を開けて部屋を出ようとしました。
「やっぱりお父様を説得しましょう。エルザが出て行く事ないわ」
「いえ、お父様も、お母様も、お兄様も……わたくしに魔力がなければ価値がないとお考えのようですから……この家に居ても冷遇されるだけです。下手したら家の恥だと殺されますわ」
「そんな……そんな事しないわ……」
「わたくし、王妃教育で習ったのです。魔力無しでも才能を開花させる方も居る一方で、一部の貴族や王族は、魔力こそが人の価値だと考えていると。そんな人は、魔力無しの身内を容赦なく殺すそうです。今では、そのような事をしないようにと法律は変わりましたが、まだそのような価値観をお持ちの方はいらっしゃるそうですわ。特に、魔力の高い方にそのような選民思考がおありだとの事。王妃様は、魔力があろうとなかろうとそれだけで人の価値を判断するなと教えて下さいました。シモン様も王妃様からそう聞いていた筈なのに、わたくしを捨てました。シモン様は魔力無しを婚約者にするなんて王家に敵対する意思があるのかと仰いました。国王陛下や王妃様もその場にいらっしゃったのにシモン様を諌めませんでした。どんなに取り繕っても王家の本音はそうなのでしょう。わたくしが家に居れば、王家から睨まれるとなれば事故に見せかけて殺すくらいしますわ。わたくしが家に居るのはデメリットしかありません。それに、わたくし自由になりたいのですわ。幸い、王家の秘密はまだ教わっておりませんでしたから、王家から追手が来る事は無いでしょう。国から出て行けば、誰からも命を狙われる事なく暮らせます」
「……そんな……そんな考えがあるの……?」
「ええ、今では表立って言う方は居ませんが、シモン様がわたくしに婚約破棄を命じた時、意見を言って下さったのはジェラール様だけでした。親友だった筈のマリアンヌからも睨みつけられましたわ。きっとマリアンヌのお家も、うちと同じなんでしょうね。わたくしも魔力無しと言われなければ、魔力無しの方を蔑んだのかもしれません」
「そんな事ないわ。エルザはわたくしの恋人が魔力無しでも仲良くしてくれたじゃない。エルザのおかげで宰相様の助手になれたのよ。……婚約は認められないけど……」
「お姉様が、好きな方と添い遂げられれば良いなと思ってサポートしておりましたが、お父様達の本日の態度を見ると厳しいかもしれませんね。実の娘も捨てるのですから。お役に立てなくてごめんなさい。あまり長居をするとまずいので早々に姿を消しますわ。お姉様、お姉様だけはわたくしの家族で居て下さいますか?」
割り切っていたつもりなのに、お姉様の優しさに触れていたら涙が溢れて参りました。お姉様だけでも、わたくしを家族と呼んで下さるでしょうか。
「もちろんよ、エルザはわたくしの可愛い妹だもの」
そう言って、お姉様はわたくしを抱きしめて下さいました。
「そのお言葉だけで充分ですわ。お姉様のおかげで、荷物も持っていけます。恐らく、お姉様が反対しなければ着の身着のまま追い出されたでしょうから」
「あの様子だとあり得るわね。そうだ、エルザは成人したばかりだから知らないだろうけど、わたくしのお抱えの商会があるの。紹介状と地図をあげるから、そこで荷物をお金に変えると良いわ。これは、魔力がなくても荷物を入れられるブレスレットよ。わたくしが作ったものだから、お父様に取り上げられる事もないし、これから旅をするなら必要になるでしょう? お父様達は、エルザが部屋から持ち出せる物は僅かだと思ってるけど、あの部屋の物はエルザの物なんだから、全部持って行きなさい」
「お姉様……これは、プレゼントに用意されていた物でしょう?」
もうすぐ、お姉様の恋人の誕生日だった筈です。魔力無しでも使えるなんて、プレゼント用に決まっています。
「構わないわ。また作るし、彼にはこれからも会えるもの。でも、エルザにはもう会えないかもしれない……魔力なんてどうでも良いのに。わたくしも、やりたくもない仕事ばかりさせられるし……」
お姉様は、毎日のように王城で魔力を提供しています。お姉様1人で何十人分もの魔力があり、提供された魔力は、様々な事に使われております。上下水道や、台所で使う火など庶民の生活にも欠かせません。ですから、魔力の高い人はそれだけで価値があるとみなされます。
王妃様も毎日魔力を提供しております。義務ではありませんが、慣例というものもありますし、わたくしが魔力を提供出来ないと婚約破棄されても仕方ないのでしょう。
ああ……いけませんわ。なんだか気持ちが沈んでしまいます。この国に居ては、ずっとこんな気持ちのままでしょう。
気持ちを切り替えて、さっさと出て行って幸せになりましょう。お姉様も、その方が喜んで下さるわ。わたくしを気にかけて下さっているのはお姉様だけですものね。
……ああ、あとジェラール様も……ですね。わたくしの頑張りを認めて下さって嬉しかったですわ。もうお会いする事もないでしょうが、素敵な伴侶と出会える事を祈ります。
「お姉様、この鳥さんでいっぱいお話ししましょうね。わたくし、お姉様が大好きですわ」
「わたくしも、エルザが大好きよ。お願い、無理だけはしないでね」
「はい! 必ず連絡します。どうかお元気で」
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