第4話
すぐに部屋に忘れ物をしたと言って戻り、すべての荷物をブレスレットに収納しました。
わたくしとお姉様を会わせてくれた使用人はお姉様に忠実です。部屋の中が空っぽである事はしばらくバレないでしょう。
ブレスレットに小鳥を収納し、服の中に隠し鞄だけを持って、両親と兄に挨拶をします。
「ふん、荷物はそれだけか」
「持ちきれませんので」
「さっさと出て行け。お前は私の娘ではない」
「そうね、わたくし達の子は2人よ」
「承知しております。お世話になりました。最後に部屋の荷物の持ち出しを許可頂いた事、感謝しております。どうか、お元気で」
「挨拶はいい、早く、出て行け」
「はい。今までありがとうごさいました。わたくしの15年間が、たった一瞬で消え去ったのは残念でなりません。わたくしの家族は、お姉様だけです。わたくしがやりかけている仕事の引き継ぎは出来ておりませんが、勘当されたらやる義務もありませんわよね。皆様が困ろうとどうしようと、感知致しませんわ」
未来の王妃だからと、過酷な日々を送っておりました。その傍ら、お兄様やお父様のお仕事をお手伝いしたりもしていました。
でも、わたくしはもう不要なんですものね。先程までは寂しかったのですがなんだか吹っ切れてしまいました。今は、物凄く腹立たしい気持ちなのです。
魔力検査が行われるまでは、魔力のあるなしは判明しません。それなのに、わたくしの部屋には大量の魔法の本がありました。
全て、両親と兄のプレゼントです。わたくしも読み込んでおりましたから、内容は覚えております。
お姉様だけは、魔力検査の結果が分かるまでは必要ないと仰っていました。今ならお姉様の優しさが分かります。
お姉様だけはわたくしを普通の妹として可愛がってくれました。両親も、兄も、次期王妃だから魔法の知識は幼い頃から覚えておくべきだと言って魔法の話ばかりでした。面倒な仕事は、王妃教育の一環だとわたくしに押し付けて魔力提供をした際に貰える奨励金で遊んでばかり。
お姉様が魔力検査で最高値を記録した時も、さすが私の娘、俺の妹としか言ってませんでした。
わたくしもお姉様も、価値は魔力量だけだったのでしょう。
シモン様とも仲良くしていたつもりでしたが、考えてみればわたくしがどんなに王妃教育が辛いと言っても、王妃になるなら当然だとしか仰いませんでした。
王妃教育が上手くいけばお優しかったので誤解していましたが、両親、兄、王家やシモン様にとっては、わたくしは都合の良い道具だったのでしょう。
道具に不備が見つかれば捨てる。それだけ。
捨てられて良かったですわ。仕事も、王妃教育もしなくて良いのですものね。
王家の機密事項は成人してから学びますが、その他の一般技能や語学、政治などは幼い頃から叩き込まれました。
幼い子どもには辛い日々でした。それも、全てシモン様のお役に立つ為。
わたくしは、シモン様を心からお慕いしておりました。シモン様は、普段は厳しいですがお優しい時もありました。
シモン様の優しさは気まぐれでした。優しくされると天にも昇る気持ちでしたわ。
でも、思い返せばシモン様がお優しかった時はいつもわたくしが何かをした時でした。
やりたくない仕事をわたくしが代わりにやった時。
探していた魔法の本をプレゼントした時。
……なんだ、わたくしはシモン様に愛されてはおりませんでしたのね。
ジェラール様が、わたくしはシモン様に尽くしていたと仰いましたが、確かに周りから見ればわたくしは物凄くシモン様に尽くしていたのでしょう。
今思えばどうしてあんな男に尽くしてしまったのでしょうか。
……ああ、王妃教育のせいですね。シモン様を支え、シモン様の願いを実現するのが王妃の仕事だと……教わりましたもの。
だから、シモン様が嫌がってやらない公務も必死で学んで代行しました。シモン様はとてもお優しくて、わたくしが婚約者で良かったと笑っておられました。
だから、頑張ってしまったのです。大好きなシモン様のお役に立ちたい、それだけの気持ちでした。
失礼ですが、わたくしの方がシモン様より公務が出来ます。シモン様は、魔法の本を読む事が大好きで、いつもこれは一番大事な仕事なんだと仰っていました。そんなシモン様の為に、わたくしがシモン様の仕事を請け負っていました。
知ってるのは宰相様だけですけど、これからシモン様はご苦労なさるでしょうね。でも、助けようとは思いません。
愛とは、こんなに簡単に冷めてしまうのですね。
両親や、お兄様を愛しておりました。プレゼントされた魔法の本を、言われた通り暗記する程に。でも、両親やお兄様への気持ちも冷めてしまいましたわ。
……もう親でも兄弟でもない……そう言われましたもの。
呆然としている元家族に、決別の意を込めて呼びかけます。
「パスカル公爵、パスカル公爵嫡男、パスカル公爵夫人、わたくしに押し付けていた仕事や、社交界の情報収集頑張って下さいませ。ああ、お姉様はわたくしと違って魔力が潤沢ですから、魔力なしのわたくしが出来ていた仕事を押し付けたりなさいませんように。でないと、お姉様もこの家を出て行ってしまわれますわよ」
実際、お姉様ならあっさりこの家を出て行けます。お姉様を止められる程の魔力がある人は居ないし、魔力をある程度献上している者は、王家に願いを叶えて貰う事も出来ます。全てではありませんが、家から縁を切って好きな殿方と婚姻するくらいは叶うでしょう。
お姉様はあんなに魔力を提供しておりましたもの。後でご提案してみましょう。
「「「なっ……」」」
あら、鳩が豆鉄砲を喰らったようなお顔をなさっておられますね。これくらいの嫌味、受け止めて下さいませ。
「お姉様! わたくしの家族はお姉様だけですわ!」
最後に大声で叫び、元家族に背を向けます。
わたくしこれからは、誰の助けも借りず強く生きないといけないのですから。
ドアを閉めて駆け出しました。
怒鳴り声が聞こえますが気にしません。だって、もうわたくしはこの家の娘ではないのですから。
婚約者に捨てられ、親にも兄弟にも捨てられましたが、お姉様はわたくしを助けようとしてくれました。
ジェラール様も、庇って下さいました。
2人、味方が居ただけで充分です。元々敵だらけの王妃教育をしてきたのです。この程度、乗り切ってみせますわ。
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