第37話-2

「ちょっとジェラールに呼ばれたから行ってくる。1時間くらいで戻るから」


「わかったわ。いってらっしゃい」


マックスはジェラール様の魔法の研究を手伝っているそうです。マックスの魔力はどんどん上がっているらしく、どんなに魔力量が多い魔法も簡単に使えるそうですが、マックス以外使えない魔法が多すぎて困るとジェラール様がぼやいていました。


「あら……? 扉が開いてるわ」


マックスのいない間にお掃除をしようとしたら、書庫の扉が開いていました。いつもは閉まっていますから、ドアを閉めようと中に入ると数冊の日記のようなものが開いたまま置いてありました。何故か気になって、吸い込まれるように手に取り読んでしまいました。


「……なに……これ……?」


読み進めた日記や手記によるとマックスは魔法で生きながらえていて……もう、あまり保たないと書かれていました。それからマックスは……以前話をしていたお師匠様が好きなのだそうです。見た事のあるマックスの字で、優しい愛の言葉がたくさん綴られていました。


悲しくて、悔しくて、もう、ここには居られないと思いながらも、気になってどんどん読み進めてしまいます。


わたくしを好きだと言ってくれたのに……あれは嘘だったのでしょうか? でも、どうしても……マックスが嘘を吐いたとは思えません。


「エルザ、何してんだ?」


あまりに夢中になっていて時間を忘れてしまったようで、気がつけばマックスが目の前に立っていました。


「なんで泣いてるんだ」


「え……? 泣いてなんかいませんよ」


「泣いてる事にも気がつかねぇのか。それ、読んだんだな。どっから見つけてきた。隠してあった筈なのに」


マックスのぶっきらぼうな言い方に思わずイラッとしてしまい怒鳴り返します。


「嘘つき! 机の上に堂々と置かれていたわ! わざわざドアまで開けて! 気がついてくれと言わんばかりじゃないの! わたくしの面倒を見るのが負担ならちゃんと言ってよ! 信じてたのに!」


そのまま、走って部屋を出ようとするとマックスに腕を掴まれました。いつものように優しくなく、強く掴まれ痛いくらいです。


「どこ行く気だ。ここは森の中だ。死ぬ気かよ」


「どこだって良いでしょ! 何よ! 師匠の事が、好きなんでしょ?! わたくしに言ってくれた言葉は、なんだったのよ!」


わたくしを愛してる。そう言って欲しいと願ったのに、マックスは不機嫌です。低い声で、わたくしを問い詰めます。


「読んだの、これだけじゃねぇのか?」


「もっといっぱいあったわよ! 楽しそうな日記とか、いっぱいね!」


「この本以外は処分した筈だ! どこで見た?!」


「どこって、ここにあった……あれ?」


先程あった筈の本が、全てありません。綺麗さっぱり消えています。


「無い……。さっきまで読んでたのに……」


その時、聞いた事のない綺麗な女性の声がしました。


『いつまでも隠そうとするからバラしてやったんだ』


「はぁ……師匠、人が悪いっすよ」


『マックス、私にしておかないか?』


「嫌ですよ。俺を振ったのは師匠でしょう。俺はエルザを愛してるんです」


『そうか……その言葉が聞けて、良かったよ。エルザさん、マックスは不器用だけど、いい男だ。よろしく頼む』


それっきり、不思議な声は聞こえなくなりました。


「説明するから、聞いてくれるか?」


「はい」


「俺は、200年以上生きてるって話はしただろう? 寿命はとうに尽きてる。魔法で無理矢理生きてるんだ。師匠はとっくに死んでる。さっきの声は師匠だ。あの人、性格悪いんだよ。こんな事しやがって……!」


「けど、お師匠様が教えてくれなきゃわたくしはマックスの事を知らないままだったわ。教えて、マックスの事。お師匠様の事も」


マックスは、たくさんの事を教えてくれました。以前の暮らし、お母様が亡くなった理由。お師匠様が好きだった事も。気になる事は全て聞きました。マックスは、隠す事なく全部教えてくれました。


「俺は師匠がずっと好きだったよ。エルザと会うまでは師匠の事しか考えてなかった。師匠の遺した研究をどうにか信用出来る人に渡したくて、冒険者になったんだ。エルザと会った時点で俺の寿命は尽きかけてた。エルザが魔力を上げてくれたから生き延びられたんだ」


「マックス……死んじゃうの?」


「死なねぇよ。ジェラールも協力してくれて、俺は普通の人と変わらないくらいは生きられる。心配かけたくなくて言わなかったんだ。ごめんな」


「わたくし、マックスと一緒に居ても……良いのよね? お師匠様は……?」


「師匠の事は好きだったけど、全く相手にされなかった。なんも、なかったんだ。さっきの話、聞いてたろ? 俺は、エルザが好きなんだ」


「わたくしも……マックスが好きです。愛してますわ」


「良かった。もう、待ったり手加減すんのはやめだ。エルザが不安にならないように、俺がどんだけエルザを好きか教えてやるよ」


嬉しくて、幸せで、充分にマックスの愛情は感じたのですが、マックスはなかなか離してくれませんでした。


「身体が動きませんわ……」


「ちょっとやりすぎたけど、これならエルザは逃げられねぇな。最初からこうすりゃ良かったぜ」


「ちょっとは手加減して下さいませ!」


「俺は優しくないって言った筈だぜ? そんな俺を選んだのはエルザだろ?」


「そ、そうですけどっ……」


「ジェラールんとこ行けって何度か言っただろ。でも、エルザは俺を選んでくれた。嬉しかったよ。だからさ、エルザを残して死にたくないって思ったんだ。エルザが見つけた本は、なんとか生きられねぇかと色々研究してたやつなんだ。日記とかは全部焼いた筈だったんだけど……昨日、夢に師匠が出て来て教えてくれた。最後に悪戯してやったんだと。師匠、ずーっと笑ってた。もう満足したから生まれ変わるんだって。次の親は、魔力無しでも大事にして貰えるって言ってた。俺よりいい男を捕まえるってさ」


「マックスより素敵な男性なんて簡単に見つかりませんわ」


ああ、まただわ。みっともない。でも、止まらない。


「嫉妬してくれたのか?」


「しますよ! 200年も好きだったなんて……わたくしは、マックスと会って数年なのにっ……!」


「俺はエルザだけを愛してる。年数なんて、関係ねぇよ」


「……ごめんなさい。マックスが愛した方に嫉妬するなんて……」


「俺が愛してんのはエルザだ。嫉妬するくらい俺が好きなんだろ?」


黙って頷くと、マックスが力強く抱き締めてキスをしてくれました。


「頼む。どこにも行かないでくれ。逃してやるほど俺は優しくない。俺の隣が最高だって一生思って貰えるように努力するから、俺と結婚してくんねぇか?」


「結婚……?」


「結婚式、しようぜ。貴族みてぇな豪華な式は出来ねぇけど、テレーズ様達を呼ぼう。約束したんだろ? 結婚式でヴェールを贈りあうって」


「はい! マックスと結婚出来るなんて嬉しいですわ!」


「俺もだ。エルザ……愛してる」


「わたくしもマックスを愛しておりますわ」

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