第36話-2
あれから、時折リリィと会いながらのんびり暮らしておりました。だけど、ついに恐れていた日が訪れてしまったのです。
「エルザ! 見つけたぞ!!」
シモン様が、わたくしの家を訪ねて来ました。
「本当に来るとはな。エルザ、計画通りやるぞ」
「ええ、分かったわ」
わたくしは、マックスと2人でシモン様が来た時の計画を立てました。マックスは姿を消して、わたくしの手を握ってくれています。
扉を開けて、シモン様を迎え入れました。
「あの冒険者はどうした?!」
「今はおりませんわ」
「そうか。ついでに今度こそ殺そうと思ったんだがな」
シモン様の身勝手なお言葉に、プツリと何かが切れました。この男、絶対に許さない。こんな気持ち、初めてです。シモン様の顔を引っ叩いてやろうとしたら、ぎゅっと優しく手を握る感触がしました。そうだ、ここでシモン様に文句を言っても始まらない。わたくしは、マックスと生きるのです。
「シモン様、わたくしを迎えに来たのでしょう?」
「ああ! ようやく分かってくれたんだな! 嬉しいよ! さ、転移で帰ろう」
「その前に、どうしてもお見せしたいものがありますの。ついて来て下さいまし」
返事を聞く前に、走り出しました。無理矢理帰らせたらシモン様を愛せませんわ。そう言ったおかげで止められる事なく町外れの崖まで来る事が出来ました。
「はぁ……はぁ……エルザ、もう良いだろ。早く帰ろう」
「嫌ですわ」
「ふざけるな! いい加減にしろ! さっさと帰って私の魔力を上げろ!!!」
「嫌ですわ。だって、シモン様はわたくしを愛してなどおられないでしょう?」
「……愛してるよ!」
「嘘吐き。嘘を吐く時、鼻を触る癖は変わりませんのね。ねぇ、マックスをどうするおつもりですか?」
「必ず見つけ出して、殺す」
「……そう。なら、わたくしが死ねばマックスを殺す理由はないわよね。シモン様、大嫌いです。さよなら……」
「エルザっ……!」
そのまま飛び降りました。すぐにマックスの魔法で転移して、崖の下に偽装したわたくしの身体を置きました。マックスが、魔法を研究して作り出してくれました。あの図書館に通い詰めてようやく完成したものです。今度は髪の毛なんかじゃない。わたくしの姿そのものですから、確実に騙されるでしょう。
シモン様は、わたくしの遺体を持って帰り魔力魔力と呟いておられるそうです。偽装がバレると困るので、頃合いをみてお姉様が偽の遺体を引き取って火葬して下さいました。ジェラール様も協力してくれて、わたくしは今度こそ死んだ事になりました。
それから、2年経ちました。暴れたシモン様に家を壊されてしまいましたが、マックスの隠れ家に引っ越しをして穏やかな日々を過ごしています。仕事はマックスが仲介してくれています。シモン様の手の者が街に潜んでおりますから、今のところ外出は出来ません。でも、もうすぐ自由に動けるようになります。
シモン様は全ての権力を失ってしまったのです。
祖国の魔力不足は深刻で、貴族だけでなく平民からも魔力を集めようと宰相様がご提案しました。多くの貴族の賛同を得られ、国内にも周知されこれで生活が安定するとみんなが歓迎しておりました。
ところが、国王陛下とシモン様が大反対したのです。王命を使い、魔力を提供するのは貴族の義務だ。早く魔力を出せと貴族達に迫ったそうですわ。そうこうしているうちに魔力不足で生活出来なくなった市民の不満が募り、クーデターが起きました。もう、シモン様に怯える事はありません。だって……もうすぐ彼は処刑されてしまうのですから。ジェラール様がなんとか処刑を食い止めようとなさっておりますが、王太子であるジェラール様が内政干渉する訳にいきません。望みは薄いでしょう。
クーデターを主導した方は平民で、王になりましたがうまくいかず国は荒れました。紆余曲折あり、現在はお姉様の旦那様が国王となり国を治めています。魔力は平民からも集めるようになりました。平民の報酬は金銭のみだそうですが、人数が多いので魔力不足は解消されました。むしろ余っているそうです。そんな状態なので、魔力の多い貴族が大きな顔をする事はなくなりました。お姉様の旦那様は、魔力がありませんからね。国のトップが魔力無しなのに威張るなんて王家に逆らうようなものですもの。
両親と兄は借金がかさんで爵位を手放しました。魔力を提供しながら細々と暮らしているそうです。両親や兄の魔力は、一時期よりも上がったそうですから暮らしていけるだけのお金は手に入っているそうですわ。
色々と思うところもあり落ち込んでいたわたくしに、マックスは豪快に笑って言いました。
「勘当した親兄弟を許してやるなんて優しいな。魔力が上がってんだから、きっとエルザのご両親やお兄さんも反省したんだろうぜ。エルザが会いたければ連れてくけど、会いたくなきゃ放っておけ」
「……話をして、両親やお兄様を嫌うのが怖いの。わたくしが嫌いだと思えば、魔力が下がる。それがとっても重くて……」
「なら、会うな。このまま放っておけば良い。エルザの力はエルザだけのもんだ。俺やジェラール、テレーズ様やリリィさんは魔力が下がってもエルザのせいだなんて思わねぇ。それくらい信じられるだろ?」
「ええ、もちろんよ!」
「それさえ分かってくれてりゃ充分だ。俺達は平民だ。気楽に生きようぜ」
マックスはいつも、わたくしの心を先読みしてくれます。あまりに的確なので、魔法を使っているのではないかと問い詰めた事もありました。でも、もう心を読む魔法は使えないのだそうです。俺は消えない、安心しろと抱き締めてくれました。
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