第28話-2 【第ニ部 スタート】
※第27話の続きになります。これは2つ目のストーリーです。分岐の書き方が分かりにくいなど、ご意見がございましたら感想などでお知らせ下さいませ。
以下、本編をお楽しみ下さい。
――――――――――――――
わたくしは、このまま平民として暮らす道を選びました。貴族として人々の役に立ちたい。そんな気持ちもありました。
だけどわたくしは、今の暮らしが好きなのです。わたくしの身分は平民。これから貴族に戻る事はジェラール様の手を借りれば可能でしょう。ですが、貴族という地位に魅力を感じません。
平民となってからの日々は、短い15年の人生で最も穏やかで、幸せな時間です。あの日、たくさんの人々に睨まれ、親と兄に捨てられても強気に国を出る事が出来ました。だけどもう、貴族に関わろうとは思えません。本当はあの日は、国を出るまでとっても怖かったのです。勿論、ジェラール様やお姉様のように個人的に付き合いたい方はいらっしゃいますけどね。
今は自宅で翻訳の仕事をしております。知識は使用しないと忘れてしまいます。たくさんの言語に触れられる翻訳の仕事はとてもありがたいのです。マックスが言っていました。たくさん学べてラッキーだと。この知識はわたくしの財産です。しっかり使って、守っていかないと勿体ないですわ。
けど、全てが思い通りとはいきません。
残念ですが、今後は通訳の仕事を受けない事にしました。ジェラール様のようにいきなり知り合いに会う可能性もありますからね。
知識が鈍る事はありません。何故なら、わたくしを訪ねてくれる友人達が居るのですから。
「エルザ、これ食うか? 新作だってよ」
「ありがとう。食べるわ。紅茶を淹れるわね」
マックスは、お姉様の依頼だからといつも一緒に居てくれます。いくつか名前を使い分けて冒険者をしているマックスですが、今は本名のマックスとこの街で使っているモーリスだけにしたそうです。
マックスはあちこちの国で仕事をしていたので、3ヶ国語の読み書きが出来ます。喋るだけなら、5カ国も話せます。
以前は別人として仕事をする為ちょこちょこ姿を消していたマックスですが、今は仮の姿を減らしてしまったので、ほとんどわたくしと一緒に居ます。
「僕も貰おうかな」
「ジェラール、静かに現れんのやめろ。ビビるだろうが。王子の癖に暇なのか?」
「良いじゃないか。僕だってエルザ嬢と話したいんだよ」
ジェラール様も、週に3回は訪ねて下さいます。ジェラール様とマックスに協力して頂き、様々な言語で会話をすれば、得られた知識を忘れる事はありません。
「昨日の件ですわよね。わたくしなりにまとめてみましたわ」
ジェラール様は、わたくしが宰相様のお手伝いを楽しんでいたからという理由で、機密に触れないお仕事を頼んで下さるようになりました。
その為、わたくしの家のリビングはいつ誰が来ても良いように整えてあります。マックスの提案で、寝室には鍵をかけるようにしました。我が家にはマックスやジェラール様だけでなく、お姉様もいらっしゃるようになりました。
シモン様はマックスのおかげで諦めて帰って下さったようですけど、心配だからと誰かしら側に居てくれます。
本当に、ありがたいですわ。
少しでも恩返しをしたいと、完成した仕事をジェラール様に渡すと、何故かマックスとジェラール様が苦笑いをしました。
「やっぱ俺の方が有利だよな」
「そんな事無いぞ! エルザ嬢! 好物の焼き菓子を手配したんだ! 受け取ってくれ!」
「ありがとうございます。早速お出ししますわね。マックスから頂いたお菓子も出しますから、ゆっくりティータイムに致しましょう」
「な?」
「な? ではない! マックスだって大して有利ではないぞ!」
「鈍さは、世界トップクラスだからなぁ」
「……残念だが、同意するよ」
「あの? なんのお話ですか?」
「なんでもねぇよ。エルザは俺の買って来た菓子とジェラールが持って来た菓子、どっちが好きだ?」
「どちらもまだ食べてないから分からないわ」
「では! 食べてみてどちらが好きか教えてくれ!」
ジェラール様の必死な様子に、真剣にお菓子を吟味しましたが、どうしても決められませんでした。
「マックスのくれた新作のお菓子は、ラズベリーの酸味がとっても爽やかで美味しいわ。ジェラール様の持って来て下さったお菓子は、わたくしの好物ですわよね。わたくし、子どもの頃から大好きなんですの。おふたりとも、ありがとうございます」
「引き分けか」
「だな。引き分けだ。ま、俺のが有利だけどな」
「そんな事ないぞ!」
マックスはすっかりジェラール様と仲良くなりました。最近、ジェラール様が明るく笑っているお姿を拝見します。
マックスのおかげで、元気になられたようですね。
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