第17話
言葉遣いが無茶苦茶です。貴族の時の自分と、平民になった自分が混在しています。大好きなシモン様に認められたくて頑張ったのに……魔力が無い、それだけで切り捨てられて……。苦しかった王妃教育を思い出して頭が混乱し始めると、ジェラール様とマックスが慰めてくれました。
「エルザ、落ち着け。悪ぃ、嫌な事を思い出させた!」
「エルザ嬢、落ち着いてくれ! あの時は王子であるシモンに意見出来たのは僕くらいしか居なかったんだ。だから、僕以外にもおかしいと思っていた人は居る!」
「それは、どなたですか?」
ああ、こんな事言いたくないのに。どうして意地悪な言い方をしてしまうの。
「調べて居ないから分からないが……その……」
「ジェラール様はお優しいですね。お気遣い頂きありがとうございます。ですが、忌々しい王妃教育のせいで周囲を観察するようになってしまったんです。あの時、わたくしを助けようとしてくれたのはジェラール様だけでしたわ」
そう。この人は本当に優しい。嘘の吐けない誠実で真面目な方。マックスの言う通り、ジェラール様が婚約者なら良かったのに。……駄目ね。わたくしではナタリー様の代わりは出来ないわ。
「ごめんな。嫌なこと思い出させて。エルザはもう平民だ。貴族のルールなんて忘れちまえ。あの国はホント変わんねぇ。クズばっかだ。関わらないのが一番だ。すぐにとは言わねぇから、過去は忘れて楽しく生きようぜ。テレーズ様には俺が会わせてやるからよ」
「ありがとう。マックスのおかげで今は幸せだわ」
「なんで俺のおかげ?!」
「マックスの協力がなければ今頃シモン様の婚約者に逆戻りよ。魔力が上がらないと知ったらシモン様がどんな仕打ちをするか、考えただけでも恐ろしいわ」
「そんなに自己中なのか? あの王子様は……」
「よく罵倒されてたわ。シモン様の仕事が遅れた時なんかは、終わるまで部屋から出してもらえなかったもの。最後に、わたくしのために厳しくしてるっていうのがお決まりよ。最後に優しくされただけで、シモン様は素敵な人だと思ってたんだからわたくしもずいぶんおめでたいわよね」
どうしたのでしょうか。感情を抑える訓練はしていた筈なのに、怒りが収まりません。わたくしの様子を見て、ジェラール様もマックスも慌てていますから、きっとひどい顔をしているのでしょうね。
「エルザは今は平民のエルだ。ジェラール様も黙っててくれるだろうから、連れ戻されたりしねぇよ。だから、な、落ち着いてくれ」
「エルザ嬢がシモンの婚約者に戻らないようにシモンを止める! だから、安心してくれ。すまない、シモンがそんなに酷い男だとは思わなかった」
「魔力至上主義な人は、大抵自己顕示欲が強いし、計算高いんですよ。ジェラール様は地位も高いし仲良くしておこうって無意識に思ったんじゃねえっすか? テレーズ様は、シモン様が傲慢だって言ってました。多分、シモン様はエルザを舐めてたし、姉のテレーズ様も舐めていたんでしょう。でねぇと一方的に婚約破棄した人の姉に婚約を申し込もうとしませんよ。ジェラール様が止めてくれなかったらテレーズ様がエルザみたいな扱いをされていたんじゃないですかね?」
「ありえるわね。すぐに動いて良かったわ。お姉様が無事結婚できてお幸せなのも、ジェラール様とマックスのおかげね。本当にありがとうございます」
「当然のことをしただけだ。テレーズ様がお幸せで良かった」
「ジェラール様はともかく、なんで俺のおかげなんだよ?!」
「あの時パニックになっていたわたくしをマックスが助けてくれたから、すぐにお姉様とお話できたの。でないと、間に合わなかったかもしれないわ」
「そうか……まぁ、俺は依頼料の分働いただけだ」
「そうだろうけど……マックスには感謝してるわ。わたくしが自立出来るまではずっとサポートしてくれたし、本当にありがとう」
「俺はジェラール様みたいに純粋にエルザを心配したわけじゃねぇ。遺体の偽装も、生活の面倒を見たのも、エルザが持ってる魔法の本の料金分の仕事をしただけだ」
「でもさっきもすぐ駆けつけてくれたじゃない。感謝してるわ」
「それは……確かにエルザを心配はしたが、それだけが理由じゃねぇ。俺はエルザが思うような善人じゃねぇよ」
マックスは真っ赤な顔をしてそっぽを向いてしまいました。マックスは悪ぶっていますがいい人ですわ。
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