第34話-1

ここは、国際会議の場です。


シモン様が、婚約者を奪われたとジェラールを訴えました。わたくしは多くの王族の前で、事情を説明するように指示されました。


お父様が、小さくなって震えています。


わたくしを勘当したとジェラールの前では言ったそうですが、今はわたくしが勝手に出て行ったんだと訴えております。


ジェラールが、見た事がない険しい顔でお父様を見つめています。


ジェラールは、お父様とシモン様を睨みつけています。ですが、ジェラールが口を開こうとするとシモン様達がお父様に帰るよう指示を出しました。


お父様は震えながら姿を消し、シモン様が優しくわたくしに近寄って参りました。


「エルザ、私が間違っていたよ。魔力なんて無くていい。愛してる。どうか私の元へ帰って来ておくれ」


シモン様が、優しく微笑みます。

以前のわたくしなら、簡単にシモン様について行っていたでしょう。けど、今は。


わたくしはシモン様と距離を取り、ジェラールに寄り添いました。


「魔力無しの役立たずを婚約者にするなんて、王家に反逆の意思でもあるのか」


シモン様と、国王陛下、王妃様の顔色が変わりました。


「婚約破棄は決定事項だ。公爵家にも正式に抗議する。魔力無しなど、恥でしかない」


ここには、多くの王族が居ます。魔力無しの方も、当然いらっしゃいます。


「そう言って、わたくしを捨てたのはシモン様ですわ。国王陛下も、王妃様もいらっしゃったのに、何も仰いませんでした。あの時、わたくしを庇ってくれたのはジェラールだけでしたわ。わたくしは、ジェラールと生きていきます」


「何か勘違いをしているようだね。君は魔力無しでショックを受けて、記憶が混濁しているんだ。僕はエルザが魔力無しでも構わないよ。それにほら、魔力無しでも特殊能力がある場合もあるのだから」


「そう言ってシモン様を諌めて下さったジェラールに、魔力無しの慰めに過ぎない。魔力が無ければわたくしは不要だと切り捨てたのはシモン様でしょう」


「おい! いい加減にしろ! エルザは私の……」


シモン様が怒鳴ろうとして口を閉じました。周りの目が厳しい事に気がついたのでしょう。すかさずジェラールが、風魔法で紙を配りました。


「皆様、こちらの資料をご覧下さい。エルザは、魔力はありませんが特殊能力を持っています」


ジェラールの宣言に、シモン様、国王陛下、王妃様が反応しました。


「ジェラール、お前は訴えられているんだ! 黙れ!」


「僕が弁明する機会くらい与えられるべきだろう。国際会議の場をなんだと思っているんだ。ここは裁判所じゃない。真実を話す場ではあるけれど、黙っている必要なんてない」


「くっ……それは……!」


「シモンはエルザの特殊能力が欲しいだけですよ。僕は、エルザの特殊能力なんて要らない。彼女が居れば、それで良い」


ジェラールは、淡々とわたくしの特殊能力を説明しました。案の定、わたくしを舐めるような目で見る方々もいらっしゃいました。けど、大丈夫です。


この程度、笑顔で乗り切ってやりますわ。


「シモン様、わたくしはもうシモン様のお役には立てませんわ。だってシモン様はわたくしの特殊能力が目当てでしょう? ジェラールがお配りした資料の通り、わたくしを本心で好いて下さる方しか特殊能力は効かないそうです。その資料は、信頼出来る友人の冒険者から譲り受けた物ですわ。ですから……今シモン様の魔力が下がっておられるのは、シモン様自身のお気持ちのせいではありませんか?」


「……エルザ……意地悪言うのはよしてくれ。私は今でもエルザを愛してる。頼む……私の婚約者に戻ってくれ」


「お断りします」


「なっ……! そうか……分かったよ。エルザは、私を裏切るんだね……」


ああ、この顔もよく見た事がありますわ。わたくしはいつも悲しそうなシモン様の顔を見れば頑張ってしまっていました。


だけど……。


「わたくしを捨てたのはシモン様ですわ。裏切ったのもシモン様です」


「これだけっ……!」


シモン様の口が動くのに、声が聞こえません。一瞬の出来事でしたけど、ジェラールが魔法を使ったと分かりました。すぐにシモン様の声が響き渡りました。


「ふざけるな!! エルザは私の命令通り魔力を上げれば良いんだ! くそっ……ジェラールめ! どうにかしてエルザを連れて帰り、監禁して私だけを愛するように躾けなければ!」


一瞬で、場の空気が変わりました。シモン様へ批判的な目を向ける王族の皆様に、国王陛下が慌ててシモン様の口を閉じさせようとします。ですが、国王陛下の本心も会場中に響き渡ります。


どれも身勝手で、わたくしを利用しようとするものでした。


「いくらなんでもあんまりだ。皆様、僕はエルザを愛しています。証拠に、僕の魔力をここで測ります」


そう言って、ジェラールは魔力を測りました。ジェラールの魔力は、9000に増えておりました。騒がしくなりましたが、シモン様は無言です。おそらく、ジェラールが魔法を止めたのでしょう。


「増えておりますわね……」


「エルザが僕を愛してくれている証明だね。おかげで、色んな魔法が使えるようになったよ。さて、シモンはエルザを愛しているのだろう? エルザは愛情を渡せば返してくれる人だ。魔力を測ってくれ。そうすれば、シモンが本心からエルザを好いているか分かるから。そうだねぇ……魔力が1000を超えていれば、シモンの訴えを聞こうかな」


無茶苦茶な理論です。ジェラールの発言が可笑しい事は皆様分かっておられます。ですが、わたくしは笑顔で微笑みジェラールの言葉を肯定しました。ジェラールは、各国の王族を牽制しているのです。


その場で、わたくしに好意的だった王族の方に魔力を測ってみないかとご提案しました。賭けでしたけど、試しに測って下さった方は魔力が1200ありました。元々200位しか無かったそうです。魔力を重視しない国の国王陛下でしたから、面白い特殊能力だなと豪快に笑っておられましたけど、魔力を重視する国の王族の方々は目の色が変わっておられました。


目の前で見せられた確かな数値に、魅せられておられるのでしょう。


何名か魔力を測り、全員上がっていた事を確認しました。これ以上は良いでしょう。そう言ってジェラールが止めました。明らかにホッとしている方もいらっしゃいました。


わたくしは、ジェラールにシモン様に好意はあるかと問われました。


「今は、以前のような愛情はありません。ですが、シモン様が本当にわたくしを大切に思って下さっているのなら、とてもありがたいと思います。シモン様のお言葉が本当なら、嬉しいです。きっと、この場にいらっしゃる王族の皆様のように魔力が上がっておられるでしょう」


「エルザ……私は……」


「シモン、魔力を測ってみるかい? もし、シモンが僕より魔力が高ければ僕はエルザを諦める。けど、少しでも僕の方が魔力が高いなら諦めないよ。だって、エルザが愛しているのが誰なのか明確に答えが出ているだろう?」


「ははっ! 面白いな! ワシはジェラール殿とエルザ嬢の婚姻を祝福するぞ! この資料はよく分からんが、ワシの魔力が上がったのは間違いないからなぁ! まぁ、ワシの国は魔法はほとんど使わんから、魔力なんて無くても構わないけどな」


最初に魔力を測った国王が豪快に笑います。この方は以前からわたくしに好意的でした。シモン様は野蛮な国だと蔑んでおられましたけど、わたくしが外交をお手伝いするようになって貿易が盛んになりました。わたくしが追放されてから、輸出はしないとお怒りになっておられたそうです。宰相様が謝罪をし、お姉様が外交を担当する事でなんとか今まで通りの関係が続いています。


彼の発言がきっかけとなり、我々の味方が増えました。シモン様を支持する方は、誰一人おられません。


「シモン、魔力を測ろう。エルザが、必要なんだろう?」


そう言って微笑むジェラールは、腹黒い笑みを浮かべていました。

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