第35話-1

それから起きた事を、ご説明致しますわ。


真っ青な顔で会議の場を去ったお父様は、爵位を返上したそうです。


シモン様は、ジェラールの提案を拒絶しわたくしを無理矢理連れて行こうとしました。ですが、ジェラールが魔法でシモン様を止めました。そして、国王陛下と王妃様の許可を無理矢理取ってシモン様の魔力を測りました。シモン様の魔力は100でした。


わたくしが悪い。そう詰め寄るシモン様に、ジェラールは魔法を使い大勢の人々にシモン様の本音を聞かせました。わたくしの尊厳など一切考えない身勝手な本心を聞いた方々は呆れ返り、国王陛下も王妃様もフォロー出来ませんでした。だって、お二人とも似たような事をお考えになっておられたのですから。シモン様、国王陛下、王妃様の考えを全てジェラールが暴いてしまったのです。


公式の場で身勝手な発言をするシモン様達に疑いの目を向けた方もいらっしゃいました。ジェラールが魔法でシモン様を操っているのではないか。そんな声も上がりました。ジェラールは『嘘の吐けなくなる魔法』をシモン様達に使ったと言いました。『嘘の吐けなくなる魔法』は、実際に存在します。心を読める魔法の存在は明かせませんので、似た効果の魔法をマックスと探して習得したそうです。


『嘘の吐けなくなる魔法』を世界中で使える方は、数名しか存在しません。そして、使い手をすぐ呼ぶ事は不可能です。


実際にジェラールは、『嘘の吐けない魔法』を習得して、試しに何名かにかけて効果を証明し、もう二度と使用しないと魔法契約しました。


不自然さはあったかもしれません。ですが、ジェラールの嘘は暴かれませんでした。誠実な外交を行なってきたジェラールの積み上げた信頼の賜物だと思います。ジェラールは相当無理をしていたらしく、会議が終わると倒れてしまいました。


わたくしは必死で看病しました。目覚めたジェラールはすぐにわたくしとの婚約を整え、わたくしは正式にジェラールと婚約しました。ジェラールのご両親はとても喜んで下さいました。わたくしはナタリー様のお家の養子となりました。ナタリー様のご両親は、また娘が出来たと喜んで頂けました。毎月ジェラールとナタリー様のお墓参りをします。その時はたくさんナタリー様に相談をするのです。新しい両親も、いつも喜んでくれます。


シモン様は一人息子でしたが、王位を次ぐ器ではないと貴族全員が反対して王となる事は出来ませんでした。国王陛下と王妃様は必死で貴族達を説得したそうですが、貴族全員が反対している事を強行できませんでした。


国王陛下と王妃様も信用を失い、国王陛下の弟君のご子息、つまり、シモン様の従兄弟に爵位が継承されました。


彼は魔力なしだと王家を追放され、子の居ない公爵家の養子となりひっそり暮らしていました。実は、お姉様の旦那様です。お姉様よりも10歳年上で落ち着いておられ、宰相様の補佐の仕事も完璧だったので城の文官からの強い推薦があったそうですわ。


血筋も問題なく、いつもなら問題となる魔力がない事も、シモン様が落とした信頼を回復するには、魔力がない国王の方が国が変わった事を内外にアピール出来ると宰相様が仰ったそうです。


新しい国王は、とても素敵な方で仕事も出来ます。最初は混乱もありましたが、国内の情勢はすぐに安定しました。魔力のない国王など初めてだと批判もありましたが、全て結果で黙らせたそうです。


新しい国王陛下の提案で、魔力の提供も変わりました。平民でも魔力を提供し対価を得られるようになり魔力の多い貴族が大きな顔を出来なくなりました。平民は、魔力は少なくても数が多いので、充分国内を賄えるようになったのです。魔力の多い方に負担が集中する事もなくなりました。


対価は、主に金銭となり魔力提供を仕事にする平民も出始めました。平民となった両親と兄も、魔力を提供して生計を立てているそうです。以前のように遊び回ることもなく、慎ましく暮らしているそうですわ。もう会う事は無いと分かっていても、両親と兄が無事に暮らしていると分かって安心しました。実は両親や兄から謝罪したいと連絡がありましたが、あの日の言葉をお伝えしてお断りしたのです。お姉様の話ですと、両親や兄は反省しているそうです。でも、会ったらきっと……わたくしの特殊能力を求めるでしょう。そしたら今ある魔力も失ってしまうかもしれない。魔力が高くないと魔力提供で生計を立てるなんて不可能です。両親や兄の魔力に、わたくしの特殊能力が影響していないとは思えません。もしわたくしが両親や兄を嫌いになったらと思うと怖いのです。そうお姉様に伝えたら会わない方が良いと言って頂けました。家族では無い。そう言われた傷はジェラールに愛され、新しい家族が出来た事で癒えました。今は、両親や兄の幸せを祈る事は出来ます。けど、その気持ちは砂で出来たお城のようなものなのです。風が吹けば、雨が降れば崩れてしまうような脆い気持ちなのです。だから……このままそっとしておく。そう決めました。


冷たいでしょうか? そうジェラールに相談したら、わたくしの決断を支持して下さり優しく抱き締めてくれました。お姉様も、マックスもそれで良いと笑ってくれました。新しい両親も、ジェラールのご両親もわたくしの気持ちを理解して下さいました。とても、幸せです。


お姉様は、もっと幸せになりなさいと言ってくれます。お姉様と家族で、本当に良かったと思いますわ。


お姉様は、今ではほとんど魔力を提供していないそうです。以前はお姉様が毎日魔力を提供しないと魔力不足になる程でしたのに、ずいぶん変わったものです。


多くの魔力を提供すれば、今までのように願いを叶えられる事は変わりません。ですが、無茶な願いは出来なくなりましたし、多く魔力を提供した人を極端に尊重する事もなくなりました。


魔力が多いと威張る者たちは、国王が魔力なしなのに何を威張ってるんだと笑われるようになりました。


魔力不足が危ぶまれる時には、魔力の多い方を尊重しないと拗ねられたら困るからと我儘が通りやすかったのですが、今は魔力はみんなから集めるものです。ひとりの提供が無いくらいでは困りません。今では魔力の有無は特技のひとつ程度の位置付けとなりました。


国王となったジェラールと祖国は以前よりも仲良くなり、お姉様ともたまに会えるようになりました。シモン様や元国王様、王妃様がどうなったかは知りません。お姉様も言いませんし、私も聞きません。


一応、生きてはおられるみたいですけど……。


そんな事、気にしている暇がないのです。だって今わたくしは……。

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