第36話-1
「エルザ、マックスが来た。もうすぐ出産だから念の為しばらく城に留まってもらう事にしたよ。彼の治癒魔術は、悔しいけど僕より上だから」
わたくしの特殊能力で、どんどん魔力が上がるジェラールですが、魔法を覚える暇はありません。その為、魔法はマックスのほうが出来るそうです。マックスは、仕事以外の時間は全て魔法の研究に費やしています。マックスの魔力も桁違いですからね。
ジェラールは、マックスに城の図書館の使用許可を与えました。ですが、お姉様も同じようにマックスに図書館の使用許可を与えましたので魔法の資料が豊富な祖国によく行っているようです。だから、マックスと会うのはとても久しぶりです。
「マックス! 久しぶりね!」
「おう! すっかり王妃様だな。やっぱりその格好の方が似合うな」
「そう? あれはあれで楽しかったけど」
「なら、平民に戻るか?」
「いいえ、大変だけど今がいちばん幸せよ」
「そうか、良かった。俺はエルザの出産が終わったら隣の大陸に行く。なんか、面白い魔法があるって聞いたからな。いつ戻るか分からねぇし、会えて良かったよ」
「そうなの? 気をつけて行ってきてね」
「おう、エルザも身体大事にしろよ? しばらくは滞在するから、調子悪い所は早めに言ってくれ」
「分かったわ」
「話は終わったかな?」
「国王陛下は、気が短えなあ」
「そんな事はない。僕はずいぶん我慢したぞ」
「そうね。確かにジェラールは我慢してくれてたわ」
「……マジか。なんか色々言いたい事はあるけど、幸せそうだから良いわ」
ジェラールはマックスと会った日はとても機嫌が良いです。
「ええ、わたくしはとっても幸せよ」
そう言って笑っていると、急にお腹が痛くなってきました。
これは……もしかして陣痛ですか? 予定日はまだ1ヶ月も先なのですが……。
「エルザ、どうした?」
「お腹……痛い……かも……」
「すぐ出産を担当する医師を呼べ。俺は治癒は出来るが出産は専門外だ。産む手助けは出来ねぇ」
「分かってる! 数日前から専門医に城に滞在してもらっている。すぐ呼べ!」
それからは、痛いやら辛いやらでよく覚えておりません。3日も陣痛に苦しみ、体力が尽きかけましたがなんとか無事に子を産む事が出来ました。
ジェラールにそっくりな意志の強そうな目をした女の子が産まれました。
産まれた時は、城のみんなが大喜びしてくれ、ジェラールは感極まって泣いておりました。
わたくしに治癒魔法をかけ、娘の健康状態を確認したマックスは旅立ちました。次に会えるのはいつでしょうか。いや、もう会えないのかも知れません。なんとなく、そう思いましたが黙ってマックスを見送りました。
ありがとうマックス、貴方に会えて本当に良かった。貴方のおかげで、楽しく平民として暮らしていけた。貴方のおかげで、元気が出た。平民として仕事をする日々は、ささやかでしたが穏やかで幸せでした。あのまま平民として暮らしていたらどんな未来があったのか、それは分かりません。考える事も、しません。わたくしは、貴族として、今は王族として生きる道を選んだのです。
誰の指示でもなく、わたくし自身の意思で。
わたくしの働きで、救われる民が居る。それは、平民として暮らす日々では得られなかった大きな幸せです。
わたくしはこれからも、ジェラールと共に生きていきます。
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