第20話

「マックス、悪いが僕の泊まっている宿に来てくれないか?」


「え、ヤダよ」


友人になったふたりは、お互いを呼び捨てにするようになりました。マックス……馴染むのが早過ぎるわ。


「エルザ嬢の為に今後の作戦を立てたいんだ。ここじゃ出せない極秘資料もある。さすがにエルザ嬢を連れて行く訳にいかないだろう」


「エルザは平民のエルだ。そりゃ連れて行けねぇな。けどよ、それは俺も同じだろ」


「エルさんは別人だったが、彼女の知り合いが優秀な冒険者だった。彼に依頼してエルザ嬢を探してみようと思うと言うんだ。諦めた筈だったのに、そっくりな彼女を見てしまったら希望を持ってしまって……シモンの為にもハッキリさせたいんだ。という事にする」


「うへ……そう言って側近を騙すのか?」


「騙されてくれるかは分からないけど、そういうことにしてくれるよ」


「王族、やっぱ怖えな」


「マックスは平民だよな?」


「おう、生まれた時から平民だぜ」


「何故そんなに王族に敵意があるんだ?」


「あー……ま、エルザとジェラールなら話しても良いか。俺はな、母親を王族に殺されたんだよ」


「そう、だったのか」


ジェラール様がポツリと呟きます。


わたくしは、言葉が出ません。王族に家族を殺されたなんて……貴族であったわたくしにもいい感情はなかったでしょう。


それなのに、マックスは最初からずっと親切でした。先ほどの発言からも、マックスのお母様を殺したのはわたくしが住んでいたギルモ国の王族でしょう。国王陛下なのか、王妃様なのか、シモン様なのか……それとも、他の王族の方なのか。以前なら酷い事をする方達ではないと信じられましたけど、今はマックスの言葉の方が信じられます。


王城でお仕事をしている限り王族の方が平民を殺したとは聞きませんでしたが、わたくしの知らない所で何かあったのかもしれません。


「エルザ、そんな顔しなくて良いから。俺の母親が殺されたのはずいぶん昔だ。誰を疑ってるか分かんねえけど、エルザの知ってる王族じゃねえから安心しな。母親を殺したヤツもとっくに死んでる。もう、昔の話だ」


「けど……それなら貴族にもいい感情はなかったわよね?」


「ねぇな。貴族からの依頼は受けないようにしてたし、強引に依頼が来た場合は街から姿を消してた」


「なのにどうして、わたくしに親切にしてくれたの?」


「エルザはもう貴族じゃねぇだろ」


「そうだけど! それでも貴族と関わる事になるじゃない! あの依頼を断る事だって出来た筈よ!」


「商会に呼ばれた時は、エルザが元貴族だなんて知らなかったんだ。知ってたら俺はあの場に行かなかった。エルザが元貴族って知った時はしまったと思ったけど、エルザはすげぇいい子だし、自分はもう貴族じゃねぇって言うから気にしない事にしたんだ。今更だけど、断らなくて良かったぜ。エルザに会えて良かった。テレーズ様みたいな貴族も居るって初めて知った。ジェラールと友人になれた。全部、エルザのおかげだ」


「マックスは今までは貴族を見かけたら避けてたのか?」


「ああ、そこそこ有名になると指名が入るんだけど貴族からの依頼はいつも逃げてた。俺は逃げ足だけは早えからな。だから、ソロでやってんだ。名前も何度も変えてるしな。冒険者が貴族の指名を断るなんて普通しねぇ。仲間を作ると、みんなを巻き込んじまうからな」


「なるほどな。なら僕は平民のフリをしてマックスに依頼を出せば良いのか?」


「悪いけど、今は仕事中だ。しばらく他の依頼は受けられねぇよ」


「どういう事だ?」


「テレーズ様の依頼でエルザの護衛を頼まれた」


「……お姉様が?」


「ああ、テレーズ様、すげぇ心配してたぜ。エルザの顔が見たいって言ってたから後で連れて行くよ。エルザから連絡が来てすぐに大金を積んで俺を指名したんだと。あんな額積まれたら俺もギルドも断れねぇ。表向きは、亡くなった妹の話が聞きたいって事にしてくれたから調べられても大丈夫だと思うぜ。後でこっそり転移で会わせてやるよ。待ち合わせの約束をしたから。見たいだろ? お姉さんのウェディングドレス姿」


「ええ! 見たいわ!」


「プレゼントも直接渡せるぜ」


「嬉しいわ! ありがとうマックス!」


「おう。仕事だからな。気にせずどんどん頼れ」


マックスが顔を破顔させ、笑います。ジェラール様は小さく溜息を吐くと、ボソリと呟きました。


「仕方ない。依頼するのは諦めよう」


「そうしてくれ。悪りぃな。俺はしばらくエルザに付いてる。なんか分かったら教えてくれ」


「ああ、任せてくれ。エルザ嬢。いや、エルさん、またね」


「はい、また」


……ん?

また?


含みのあるジェラール様のお言葉に疑問を持ちましたが、お伺いする前にジェラール様はサッと姿を消してしまわれました。

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