第30話-1

「本当はもっとスマートに告白するつもりだったのに。貴女が相手だと余裕が無くなる。もうひとつの貴女の不安を言い当てようか。僕が今でもナタリーの事を愛してると思ってるだろう?」


「……はい。思っております」


「ナタリーの事は好きだよ。きっとこれからもずっと。けどね、彼女は亡くなってしまった。僕はこれからも生きるんだ。王太子である僕が、このまま結婚しなくても良いなんて思ってないよね?」


「……はい」


「どうせなら、愛する人と結婚したい。僕は貴女を愛してる。ナタリーよりもね」


「それは……」


「僕を卑怯な男だと思うかい? ナタリーの事をずっと愛していると言いながら、貴女を愛してると言うんだ。嘘吐きだと、思うかい?」


「思いません。ジェラール様は誠実なお方です。ナタリー様の事を忘れたと言われた方が信用出来ませんわ」


「ナタリーを亡くした傷が完全に癒えた訳ではないんだ。けど、エルザ嬢のおかげでようやく前に進めるようになった。留学してから、貴女はいつも僕を気にかけてくれた。僕はそれを全部シモンの気遣いだと勘違いしていたけど、今なら分かる。エルザ嬢のおかげだったんだ。それに気が付いたのは、貴女が居なくなってからだった。なんだかおかしい。そう思って魔力検査の後、色々と調べたんだ。僕が見ていたシモンは、エルザ嬢が沢山サポートしてくれているシモンだったんだね。魔力検査の後、慌てて貴女を助けようとしたけど間に合わなかった。マックスと貴女が出会って本当に良かったと思うよ。でないと、エルザ嬢は平民に馴染んで暮らせたか分からない。君は美しい。よからぬ輩が湧いて来るよ」


「そ、そんな事ありませんわ!」


「あるよ。マックスがどれだけ貴女を守っていたと思う? 街は良い人ばかりじゃないんだよ」


「……それは、確かにそうですけど……」


冒険者に登録をする時、たくさんの人達に声をかけられました。マックスが追い払ってくれましたけど、ひとりだったら上手く対処出来たか分かりません。


「ごめん、僕は……マックスに嫉妬してるんだ」


「へ?! し、嫉妬ですか?!」


「マックスと出会って良かったと思う。彼は凄く良い人だし、強いし、優しい。僕なんかよりマックスと結ばれる方が幸せだと思う。けど、駄目なんだ。僕はエルザ嬢を諦められない。貴女の偽装された遺体を見た時、初めて自分の気持ちを自覚した。恐ろしかったよ。だからエルザ嬢が生きてると知って、嬉しかった。もう、自分の気持ちに嘘は吐けない。エルザ嬢、何度でも言うよ。愛してる。好きだ。どうか……僕と結婚して欲しい」


真っ直ぐで、誠実なお言葉が心を突き刺します。ナタリー様の事を忘れたなんて言わない。それでも、わたくしを好きだと言って下さる。ジェラール様らしい誠実な告白が、嬉しくてたまりません。だけど……。


「わたくしも、ジェラール様をお慕いしておりますわ。けれど、わたくしは勘当された平民です」


王太子であるジェラール様と結ばれるなんて……可能なのでしょうか。王族や貴族は、好きだけで結婚出来る訳ではありません。


「エルザ嬢は、シモンの婚約者だったんだ。身分的にも能力的にも問題はないよ。シモンがエルザ嬢を追い出した事は各国の首脳も知っている。シモンが国王になるなら付き合いを考えようと思っている国も多い。けど、エルザ嬢が表舞台に帰って来て、僕のパートナーとして祖国と付き合いを続ければ……印象はガラッと変わるよね。ほら、僕と結婚すればメリットが沢山あるよ。ね、エルザ嬢。どうか僕と結婚してくれないか?」


いつも冷静沈着なジェラール様が、必死でわたくしを口説こうとなさっています。そのお姿が嬉しくて、この人と共に生きていきたい。そう思いました。


「ジェラール様、愛しております。ご結婚の話、お受け致しますわ」


「やった! ありがとう! 絶対に幸せにすると誓うよ!」


「嬉しいですわ。わたくしも、ジェラール様を幸せにすると誓いますわ」


「エルザ嬢、いや……エルザと呼んで良いかい?」


「はい!」


「僕の事も、ジェラールと呼んでくれ。実はずっとマックスが羨ましかった」


「マックスが?」


「エルザはマックスの事を呼び捨てにしていたじゃないか。マックスもエルザの事を呼び捨てにしていたし……小さい男だとは分かっているんだ! けど、僕はずっとマックスに嫉妬していた」


「なんだか、わたくしの知ってるジェラールと違いますね。そんな姿も素敵ですわ」


「……エルザ、それは無意識かい?」


静かに、ジェラールの顔が近づいて来ました。


「キスして良い?」


「そ、そういう事はいちいち聞かないで下さいまし。恥ずかしいですわ……。嫌なら嫌と言います。ジェラールに口付けをされて嬉しくない訳ありませんわ」


「可愛い……。エルザ、愛してるよ」


そう言うと、ジェラールがすぐにわたくしの唇を塞ぎました。初めてのキスは蕩けるようで、とても幸せでした。

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