第32話-1
マックスの取り出した本は今まで見た本の中で一番豪華な装丁でした。わたくしには分かりませんが、魔力が溢れているとお姉様が呟きましたので、希少な本である事は明らかです。
「……そんな希少な本……どこかの王族が持ってたとしか思えない……マックス……君は一体……」
「あー……俺は生まれた時から平民だ。けど、俺の師匠がエルザやテレーズ様の国で姫さんやってたんだよ。魔力無しだからって迫害されてた姫さんだっんだ。師匠はエルザと同じ特殊能力を持っててな、欲深い奴等に散々実験されまくってたらしい。なんとか逃げたとこで、たまたま俺の母親が助けたんだ。俺がジェラールに渡した資料は、師匠が色んなクズに実験されて分かった結果だ。師匠は逃げる時に、自分の実験結果とこの魔導書を盗んだんだよ。この魔導書は特殊な魔法でねぇと写本出来ねぇんだけど、写本は1ヶ月で消えるらしいぜ。原本を師匠が盗んじまったから、魔法を使える奴が居なくなったって訳だ」
「待ってくれ! 僕が知ってる限り、王族が追放されたなんて聞いた事がない! 魔力が無いと分かるのは成人してからだ。……まさか、隠されていたのか?」
「いや、普通に外交もしてたし他国の王族に友人も居たし、婚約者だって居た。全員に裏切られたみてぇだけどな。200年も前だから、ジェラールも知らねぇと思うぜ」
「マックス……200年も生きてるの?」
「師匠が死んじまってから200年位だから、もうちょい長生きかな。この本、覚えられる人数が決まってるんだ。だから写本して使ってたらしい。俺も覚えちまったし、ジェラールが覚えたら消える。本当は、こんな魔法消えちまった方が良いんだ。けど、俺は師匠の遺産を……処分出来ねぇ。だから、ジェラールが使ってくれたらありがたい。面倒な魔法だけど、ジェラールならちゃんと使ってくれるって信じられるから」
「分かった。使ってみるよ。これで……良いのか?」
ジェラールが本に魔力を通すと、本が消えました。
「おう、まず俺に使ってみな」
「……読める。が、マックス……何を考えてるんだ。訳の分からない数字が頭の中に響いて来るのだが……」
「読まれるって分かってんのに余計な事考える訳ねぇだろうが。んで、次はこの魔法を使え。ジェラールならすぐ覚えられる」
「分かった。確かに簡単な術式だな。覚えたよ」
「さすがだな。使ってみろ。無詠唱でいけんだろ」
ジェラールが頷き魔法を使うと、マックスの口は開いていないのにマックスの声で訳の分からない数字が聞こえてきます。
「エルザ、聞こえた数字を声に出して言え」
「分かったわ」
わたくしが口に出した数字を聞いて、マックスは満足そうに頷きました。
「テレーズ様も聞こえてますよね?」
「え、ええ。聞こえてるわ」
「ジェラール、もう魔法を止めろ。魔力が足りなくなる」
「……ああ、分かった。だが、そんなに疲労はないな」
「今は時間が短かったからな。ジェラールなら、シモン様に対峙する間くらいは保つだろうけど、今後の為にどんくらい使えるか、信用出来るヤツに協力して貰って実験しておけよ。なんなら俺が協力してやるから」
「分かった。しかし……この魔法は恐ろしいな……」
「ああ。だから、使う時を決めておけ。俺としては、エルザを守る為だけに使って欲しい」
「そうするよ。決して多用しないと誓う。この魔法は、絶対に私利私欲や政治に利用してはいけない魔法だ」
「やっぱりジェラールに渡して良かったぜ。使い所は自分で考えられるな」
「ああ。大事に使うよ。マックス、大切なお師匠様の遺産を使わせてくれてありがとう」
ジェラールは、マックスに深く、深く頭を下げました。
「ずっと、これを託せる人を探していたんだ。ジェラールに渡せて良かったよ。ホラ、さっさとシモン様に話をつけて来い!」
「ああ……頼んだ。エルザ、待っててくれ。ちゃんと君が祖国と向き合えるようにして来るから」
そう言って、ジェラールはお姉様と共に消えて行きました。
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