第5話
すぐにお姉様から聞いた商会に行って、必要な荷物以外はお金に変えました。お姉様から、既に話がいっていたらしく、すんなり対応して頂けました。服も、平民の服を融通して頂きました。
この商会は、お姉様だけのお抱えなので両親も知りません。ありがとうお姉様。
要らない物を売って、1年程は生活出来る金額を手に入れました。
それから、隣国に急ぎの荷物を届けると聞きましたので、同行させて頂くよう交渉しました。
壊れては困る荷物を急いで運ぶとの事でしたので、お姉様から頂いたブレスレットの存在を明かして、わたくしが運搬を請け負いました。
運搬費用は要らない代わりに、わたくしを安全に送り届けてくれと頼みましたので、商会の方にとっても嬉しい提案だったそうです。
本来なら馬車で1週間の旅ですが、飛行の魔術を使える方がたまたま冒険者ギルドで見つかったらしく、その方とわたくしの2人で移動すれば数時間で済むそうです。
早く国を出たかったので、助かりました。
「ありがとうございます。確認なのですが、わたくしが運搬を請け負う事で護衛の仕事が無くなる等の不利益を被った方はいらっしゃるのですか?」
「いや、依頼は出してないから問題ありません。仕事が決まっていた者の仕事がなくなる事はありませんよ」
「そんな事まで気にすんのか?」
不思議そうに聞いてくるのは、冒険者であるマックス様です。魔力が高く、魔法が得意だそうです。飛行魔法が出来るとの事で急遽冒険者ギルドから派遣されました。
背が高く、顔も傷がたくさん目立ちます。きっと何度も死線をくぐり抜けて来られたのでしょう。
「いえ、普通は気にしませんわ。ですが、わたくしの場合は敵は少しでも少ない方が良いのです。なにせ、今まで使えていた権力はもう使えませんので。婚約破棄され、家からも捨てられたのですから」
「なるほどなぁ。でも、そんな急いで国を出る必要あんのか? しばらくしたら勘当も解けるかもしんねーだろ?」
「今は王子が魔力最高値だと城中がお祭り騒ぎですけど、すぐに日常が戻って参ります。その時、わたくしに押し付けていた仕事をやる人が居ないと気が付いたらどうなると思います? 両親も、今は追いかけて来ませんけど、そのうち困って家に置いてやるから仕事しろと言い出すかもしれませんもの」
「うへぇ。そんなに働かされてたのか」
「ええ。魔力がないならせめて役に立てと酷使される未来しか見えませんわ」
「飼い殺されるのはごめんだよな。ったく、相変わらずこの国は変わんねぇのな。エルザお嬢様は魔力はなくても語学力があるもんな。なら、さっさと逃げるが勝ちだな」
「ええ、国内に居たら連れ戻されて飼い殺される危険があります。わたくしもう平民ですし、王族や貴族が命令したら逆らえませんわ。一刻も早く、他国で戸籍を手に入れませんと。そうだ! わたくしはもう貴族ではございませんわ。どうぞ、エルザとお呼び下さいませ」
「分かった。ちょっとの間だけどよろしくな、エルザ。戸籍が欲しいなら冒険者になりゃ良いぜ。登録するだけで身分証が手に入る。偽名でも構わねぇから名前も変えちまえば良い」
「わたくしのような魔力無しでも登録出来ますの?」
「冒険者で魔力がある奴なんて2割程度だから、ありゃあ良いけど、無くても構わねぇよ。エルザは頭が良いんだろ? そんなら街中の仕事が見つかるかもしんねぇぞ。腕に自信がないなら、危ねぇ仕事はしねぇ方が良いしな」
「冒険者でも、安全なお仕事があるんですの?」
「冒険者は何でもやるからな。街の煙突掃除やドブ掃除をやる奴もいるぞ。まぁ、エルザはそんなのしないだろうけど」
「煙突掃除にドブ掃除ですか……素人で出来るものですか?」
「煙突の中に入れさえすりゃあ出来なくはないな。ドブ掃除はもっと簡単だ。出来栄えによって貰える金は違うけどその日の宿代くれぇは稼げる。俺も冒険者になりたての頃はよくやったぜ」
「そうなのですね。ひとつ仕事の当てが出来ましたわ。ありがとうございます。マックス様」
「……え、やんの?」
「わたくしが出来そうな仕事が他にもあれば、道中教えて下さいませ」
「ははっ、なんだよ。勘当されて泣いてるお嬢様じゃねーのな。なら教えてやるよ。冒険者になるなら、敬語はやめとけ。舐められる。冒険者で敬語を使う奴は二流だ」
「そうなんですか?」
「ああ、上下関係が分かっちまうだろ? チームで野盗を討伐する時なんかに、リーダーが分かったら狙われるからな」
「なるほど……理にかなってますね。敬語以外で話した事などないので、頑張って練習致しましょう」
「おう、頑張れ。じゃあ急ぎだから行くぜ。旦那、いつもの支部に持っていきゃあ良いんだな?」
「ああ、頼む。依頼料はあちらで受け取ってくれ」
「了解、急ぎで呼び出したんだから弾んでくれよ?」
「いつもより多めに払うようにと、配達を頼んだ手紙に書いてある」
「まいどあり~」
「エルザ様、お気をつけて」
「ありがとうございました。助かりましたわ」
「こちらこそ助かりました。また荷運びの仕事があれば、お声がけさせて頂きますよ。あちらで拠点が決まったら教えて頂ければ嬉しいですな」
「かしこまりました」
「んじゃ、急ぎだし行くぜ」
「はい! よろしくお願いします! ところで、どうやってわたくしを運びますの?」
「こうやって、だよ」
マックス様がわたくしを横抱きにして、空高く舞い上がりました。
「え、え、ええっ?!」
「じっとしてろ。エルザを落としても周りには結界が張ってあるからすぐは落ちねぇが、助けるのに手間がかかる。俺の集中が途切れたら危ねぇから大人しくしててくれ。ああ、会話くらいは大丈夫だぜ。暇だからなんか話しててくれよ」
わたくし……男性に抱き抱えられたのは初めてです……ですが、騒いでマックス様の集中を途切れさせてはいけませんので、大人しくしておく事に致します。
移動の最中には、マックス様に冒険者のお話を聞かせて頂きました。わたくしは護身術程度しか出来ませんが、冒険者は出来るのでしょうか?
不安に思っていたら、冒険者の資格を持ってても街で働いてるヤツもたくさんいる。王妃教育に比べたら冒険者になるなんて楽なもんだとマックス様に励まされました。
道中、なんとか敬語を止めようと努力していますが、思いの外難しいです。自分の事をわたくしと言うのは、丁寧過ぎると言われたので、頑張って私にしました。
「王妃教育は確かに頑張ったわ。あの日々が無駄になったのは悔しいけど、王妃教育より楽なら頑張れるかしらね」
「学んだ事は無駄にはなんねぇよ。エルザにとっちゃ腹立たしいだろうけど、タダで色々学べてラッキーと思えば良いんだよ。王家が金出したのか公爵家が金出したのか知らねぇけど、エルザが王妃教育の金出した訳じゃねぇだろ?」
「そうね。そもそも、私はさっきまで自分のお金を持ってなかったわ」
「ああ、成人したばっかりならそりゃそうか。あのな、学ぶのだって金がかかるんだ。エルザは10ヶ国語話せるって言ったろ? 平民はそんなに学べねぇ。教本だって、高級品なんだから」
「そうか……そうね。確かにラッキーだわ。そうだ、マックス様は魔法の本に興味がある?」
「めちゃめちゃあるぞ! なかなか手に入らねぇんだよなぁ」
「私、大量に魔法の本を持ってるの。お仕事が済んだら、見てみませんか?」
「マジかっ! やったぜ! ありがとうエルザ!」
マックス様が嬉しそうに笑っておられます。本は買取して頂けなかったので全て残っております。忌々しいから捨てようかと思いましたが、持って来て良かったですわ。
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