第3話 エバさん、後ろ! 後ろ!★

『エバ、後ろ、後ろ!』

『後ろ、後ろ』

『エバちゃん、うしろ、うしろ!』

『後ろ、後ろ、エバさん、後ろ!』

『うしろ! うしろ!』

『後ろ、後ろ!』

『志村、後ろ!』


 深層心理?にすり込まれているのか、こういうとき人は同じネタに走るみたい。

 “後ろ、後ろ” の大合唱が、コメント欄を埋め尽くす。 


「エバさん、後ろ! 気づいて!」


 僕もスマホに向かって叫び続ける。

 もちろん配信者へのマイクはOFFになっているので、声は届かない。

 それでも叫ばずにはいられなかった

 だってこの娘、隙がありすぎるんだもん!


『やべ! 初心者狩りだ!』


 誰かがコメントした。

 初心者狩り。

 それはの迷宮に逃げ込んだ、犯罪者たち。

 司法の手を逃れた強盗、強姦、そして殺人などの凶悪犯が徒党を組んで、与し易い駆け出しの探索者ビギナーを襲う。そして食料の乏しい迷宮で飢えている奴らは……。

 そういう連中をMMORPGのPKに見立て、ダン配では初心者狩りと呼んでいた。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330664349752173


 初心者狩り――五人のみすぼらしい風体の “野盗ブッシュワーカー” たちが、ドローン4-Bのカメラから4-Aのカメラに入った。

 エバさんが使っているドローンには、二台のCCDカメラが搭載されている。


 ドローン1 

 エバさんの前上方に位置し、Aカメラで進行方向を、Bカメラでエバさんを映す。


 ドローン2

 エバさんの右上方に位置し、Aカメラで右方向を、Bカメラでエバさんを映す。


 ドローン3

 エバさんの左上方に位置し、Aカメラで左方向を、Bカメラでエバさんを映す。


 ドローン4

 エバさんの後上方に位置し、Aカメラでエバさんを、Bカメラで後方を映す。


 ドローン5

 エバさんの近くを飛行し、AカメラBカメラとも彼女の表情を映す。


 エバさんのヘッドカメラ

 エバさん視点の映像を映す。


 エバさんの背中を映す4-Aのカメラに、足音を殺して忍び寄る五人の “ 野盗” が映り込んだ。


『なんで警報鳴らないんだ!?』

『ドローンの動体センサー入ってない!?』

『この女、ド素人じゃねえか!』

『No! Eva!』

『コメント見ろ!』


 コメント欄が悲鳴で埋め尽くされる。

 通常配信者は周囲をパーティの仲間に守られながら、スマホを確認しながら進む。

 配信者は視聴者とやり取りをしつつ、ドローンやパーティメンバーのカメラを常に確認し、視聴者も異変に気づけばコメントで教える。

 単独行ソロのエバさんは、それができない。

 忍び寄った “野盗” たちが、どこで手に入れたのか赤錆びた蛮刀を振りかざす。


「エバさん!」


 スマホに向かって叫んだ瞬間、彼女が右手に握っている戦棍メイスを微かに振ったように見えた。

 直後に振り下ろされる五本の鈍刀!


 キンッ! キンッ! キンッ! キンッ! キンッ!


 金属質な音が響き “野盗” の刀はまるで見えない壁を叩いたみたいに弾かれた!


「え!?」


 くるりと振り返るエバさん!

 すくい上げるように振り抜かれた戦棍が、“野盗A” の顎を真下から粉砕する!

 もんどり打って倒れる男には目もくれず、さらにエバさんは “野盗B” に突進!

 戦棍が再び振るわれる!

 慌てて粗末な蛮刀を立てて防ぐ “野盗B” !

 しかし遠心力の乗った柄頭つかがしらは、赤茶けた刀身をスナック菓子のようにへし折り、伸び放題の髭に覆われた顔面を横殴りに叩き潰した!

 

 戦いはそれで終わりだった。

 予想外の逆襲に恐慌をきたした残りの三人は算を乱して、こけつまろびつ闇の中に逃げ散った。

 ビュッ! と戦棍に血振りをくれるエバさん。

 エバさんと五人の初心者狩りとの戦いは……エバさんの完勝だった。


「あの人たちは近づいてくれば臭いでわかります。お風呂に入っていないのでとてもバッチイのです」


 僕も……世界中の視聴者も、呆気にとられてコメントできない……。

 数秒後。


『うおおおっ! 鳥肌立った!』

『すげえ! エバさん強ええ!』

『マジ!? やらせじゃないの!?』

『やらせだよ、やらせ』

『やらせじゃねえよ! カメラ切り替えてみろ! 頭完全に潰れてるだろうが!』

『信じられねえ』

『FANTASTIC!』

『Yah! She is great priestess!』


 一転してコメント欄に溢れかえる、驚きと賞賛といいねとスパチャの嵐。


(戦い慣れてる……こんな鮮やかな戦闘、視たことないよ……)


《時間を取りました。先を急ぎます》


 エバさんは怒濤のコメントに気づくこともなく、再び歩き出した。


『あ~、もう! コメント読めよ!』

『駄目だ、やっぱりダン配がわかってねえ!』

『そもそもソロじゃ、コメント見ながら探索なんてできないよ』

『この子、レベルいくつなんだ?』

『レ・ミリアとどっちが強い?』

『戦士と僧侶じゃ比べられないだろう』

『いい勝負……というより、エバさんの方が強そう』

『あ!? レ・ミリアの方が強いに決まってんだろうが!』

『戦利品確認してない! 金貨、金貨!』


 時間が惜しいのか倒した “野盗” の懐を確認することはせずに、エバさんは回廊を北に進んだ。突き当たりの曲がり角を東に折れる。

 息を乱すどころか、汗を浮かべている様子もない。


『エバさん、レベルいくつ?』

『ステータス出して!』

『だーかーらーコメント読めえ!』

『コメント、コメント!』

『コメント、コメント!』


 世界中から書き込まれる、コメント読めやゴルァヽ(`Д´ )ノ のコール。


《――あ、そうでした。配信ではコメントを確認するんでした》 


 そして視聴者たちの願いが天に届いたのか、エバさんがハッと気がついた。


《え、え~と、確かこの腕時計みたいなスマホで見るのでしたよね……あれれ? ど、どうやるのだったでしょうか?》


 相変わらずのIT音痴ぶりを発揮する、エバさん……。


《あ、あははは……あ~、取りあえず次の休憩で頑張ってみます》


 直後に書き込まれたコメントが、すべての視聴者の思いを代弁していた。

 

『凄いんだかトロいんだか、わかんね……』



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ご視聴、ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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