第19話 パーティプレイ★

《回廊を進むときでも玄室に入るときでも、探索者は常に気を配り警戒しています。カメラドローンを潰すことで虚を衝き、現出させた一瞬の空隙くうげきに斬り込む手練の業。探索者もまさかドローンが攻撃されるとは思っていませんから当然、視聴者リスナーさんからの情報がなければ、わたしも危ないところでした》


 盾受けしていた“上忍ハイニンジャ” の忍刀を、エバさんが弾き返す。

 危険極まる殺人技を見せた “上忍” は軽々と、体重を感じさせない動きで間合いの外へ跳び退すさった。


(――!? 駄目だ、ここで戦っちゃ!)


 僕は唐突に気づいた。

 エバさんは回転床ターンテーブル落し穴ピットといった仕掛けを利用して、魔王に比肩する力を持つ “闇王ダークロード” さえ一蹴した。

 だけど――。

 ここは東西に真っ直ぐに伸びる回廊のど真ん中!

 利用できる罠どころか、逃げ込める扉すらない!


『場所ヤバい!』

『包囲される!』

『フクロにされる!』

『西に逃げろ!』

『ニワカかよ! 西に逃げても最後は行き止まりだ!』

『それじゃ縄梯子のぼれ!』

『敵の目の前で梯子上る馬鹿がいるか! ニワカ!』

『西には逃げるな! 逃げたら行き止まりだ! “闇王” が下りてきたら積むぞ!』


 視聴者たちも状況のまずさに気づき、動揺する!

 回廊は東西に真っ直ぐ伸び、どちらも突き当たりで南に折れている!

 東は五階への縄梯子が垂れる小部屋群に!

 西は長く真っ直ぐな回廊の末に袋小路になっている!


『逃げるなら東だ! 突破して東に逃げろ!』


 コメント欄なんて確認している暇がないのをわかっていながら、僕はキーボードを叩いた!

 敵はコンビネーションに秀でた手練れの七人パーティ!

 だけどエバさんなら突破できるかもしれない!

 


《離れていてください!》


 そして僕の予想どおりエバさんは背中を向けたまま、に叫んだ!

 エバさんは逃げない!

 逃げられない!

 逃げればケイコさんが嬲り殺しにされてしまう!

 硬直していたカメラさんが弾けたように、一区画ブロックほど距離を取る!

 それが戦闘開始の合図だった! 

 エバさんと敵パーティモンスターズが同時に動く!

 

「!? どうして “滅消の指輪ディストラクションリング” を使わないの!?」


 戦棍メイスと盾を構えて突進するエバさんに、僕は仰天した!

 エバさん自身が言ってたじゃないか!

 モンスター配備アロケーションセンターに挑戦するには、“滅消” の呪文が必要だって!

 勝率がまるで違うって!


 直後に、エバさんが指輪を使わなかった理由を理解した! 

 使わなかったんじゃない! 使えなかったんだ!

 猛然と迎え撃つ “レベル7戦士ファイター” ×2の動きを見れば、一目瞭然だった!

 “滅消の指輪” を使うには指輪を対象をかざし、魔力を解放するキーワードを呟く必要がある!

 呪文や加護の詠唱ほどでないにしても、それは明らかな隙!

 古強者ネームドに近い “レベル7戦士” たちが見逃すはずはない! 

 反対に屈強な前衛に守られた “レベル7魔術師メイジ ” ×2と “高僧ハイプリースト” ×2は悠々と、呪文と祝詞しゅくしを唱え始めていた!

 

 これが『モンスター配備センター』を難攻不落たらしめている最大の要因!

 MOBによるパーティプレイ!

 連携のとれたコンビネーションは戦力を乗算かけ算で増加させる!

 決して探索者の専売特許じゃないんだ!


 エバさんは乱数機動的な不規則なステップで、ふたりの戦士が直線上に並ぶようにポジショニング! その先頭に向かって鋭く踏み込んでいく!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330665238971310


(前衛と接近することで、後衛の魔法を封じる気!?)


 敵味方が入り乱れた乱戦になれば、強力な範囲魔法は使えない!

 “レベル7魔術師” ×2が唱えている “焔嵐ファイア・ストーム” も不発になる!

 巨大な戦斧バトルアックスを振りかざし、エバさんを迎え撃つ戦士!

 まるで翼を広げた鷲のようで、元々の巨体がますます大きく映る!

 華奢なエバさんとは大人と子供以上の差だ!

 振り下ろされる戦斧!


 パンッ!


「巧い!!!」


 頭上に振り下ろされてきた戦士のを盾で払うエバさん!

 大きく仰け反りがら空きになった胴に、すかさず戦棍の追撃を叩き込む!


『うおおっ! 盾パリィ決めた!』

『ナイス!』

『Excellent!!!!』

『お見事!』

『戦士でも充分やっていける!』

『肉弾系僧侶プリーステス!』

『殴り聖女の本領発揮!』


 コメ嵐が湧き立った次の瞬間、画面が真っ赤に染まった!

 魔術師たちが唱えていた二発の “焔嵐” が炸裂したのだ!

 絶句する僕!

 後続の “レベル7戦士” は咄嗟に避けたみたいだったが、エバさんにあしらわれた戦士は彼女ともども紅蓮の炎に包まれていた!


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669171036111


「エバさんっ!!!」


 僕はPCのモニターをつかんで叫んだ!


「ま、まさか味方を巻き込むなんて……」


《そ、そんな……》


 ケイコさんの絶望の呟きがスピーカーから流れる。


 キラッ……!


 燃えさかる炎に何かが煌めいた。

 業火の音に紛れて小さな金属音がキンキンッと、ケイコさんの足下に転がる。


「ケイコさん、その指輪を使うんだ!」


 僕は再び画面向かって叫んだ!

 通じないのはわかってる!

 伝わらないのはわかってる!

 でも! それでも! 叫ばずにはいられない!


 奇跡が声を届けてくれたのか!

 あるいはレベル5の探索者の底力か!

 ケイコさんは足下に転がった指輪をひったくるように拾い上げ、甲冑の騒音と共に突進してくる戦士と、その後方で次の呪文を唱え始めた魔術師たちに向けた!

 そして一度だけエバさんが呟いたキーワード、真言トゥルーワードを叫ぶ!

 

彼の敵マカ滅せよニト!》


 戦斧を振り上げたまま硬直したかと思えば、慣性に突き動かされて粉々に崩れ去る戦士!

 同様に呪文を詠唱したまま、ふたりの魔術師が塵と化した!


ネームドレベル8未満の生者に、最初の死者ニトの瘴気は耐えられません》


 猛火の中から響く、メゾソプラノ。

 現れる黒髪の僧侶プリーステス

 炎を浴びてだいだいに染まる純白の僧衣と僧帽には、少しのダメージも見当たらない。


「エバさんっ!!!」


 でもどうして!?

 最初の戦士を盾に直撃を免れたにしても、二発の “焔嵐” に巻き込まれたのは確かなのに!


《“氷雪の鎖帷子アイス・スノー・チェイン” 、“炎の指輪プロ・ファイア・リング”、“抗魔の首飾りマジックチャーム”、そして “魔女の護符アミュレット・オブ・アンドリーナ” ――わたしに炎は効きません》


 まさかケイコさんに指輪を渡すために、わざと “焔嵐” を受けたの!?


 戦力差1:7から、2:3へ。

 エバ・パーティの逆襲が始まった。



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ご視聴、ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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