第11話 押し通る!★

《大丈夫です。すぐに楽になりますから》


 カメラドローンの集音マイクが、エバさんの囁き声を拾う。

 メイン1,サブ9のカメラは依然としてホワイトアウトしていて、エバさんともうひとりの探索者、ケイコさんの姿を確認することはできない。


《慈母たる女神 “ニルダニス” よ》


 エバさんの柔らかな祝詞しゅくしが真っ白な画面から流れる。

 おそらくダメージを負ったケイコさんを癒やしているんだろう。


『コメント音声読み上げにしろよ!』

『スピーカー生きてるなら、読み上げにして!』

『エバさん、読み上げ、読み上げ!』


 僕はもう我慢できなかった。

 怒りの籠もった指先でキーボードを叩く。


『“狂君主レイバーロード” に追われてるんだよ! 読み上げなんかにできるわけないでしょ!』 


 エバさんがなんで小声で話しているかわからないの!?


《あ、ありがとう、楽になった》


《氷刃を浴びなかったのは運が良かったです》


《物凄い寒かった。田舎を思い出したよ……》


大気エーテルを瞬間的に伝播した冷気まではかわしきれません。“氷嵐アイス・ストーム” は “凍破ブリザード” の倍の威力があります。この程度の凍傷で済んだのは幸運でした》


『ケイコ生きてる』

『“凍破”の倍の威力って、どんだけなんだよ』

『ああ、コメント読んでないからやりとりできない! もどかしい!』

『状況がわからん!』

『Eva are you all right?』


《――今コメントを確認しました。追われているため音声読み上げにはできません。ここからは最低限の報告になりますのでご了承ください》


 こんな状況でも律儀に説明してくれるエバさん。

 

《わたしたちは現在一×一区画ブロックの玄室に身を潜めています。“狂君主” の甲冑の音は聞こえず、周囲に魔物の気配もありません。カメラドローンは五機とも健在ですが、冷気でレンズが霜に覆われています》


『レンズ、磨いて』

『カメラきれいにして』

『馬鹿、そんな悠長な真似してられるかよ』


《ケイコさん、わたしが警戒していますから、あなたがレンズを磨いてください》


《あ、あたしが?》


《そうです。ドローンのカメラが生き返れば、世界中の視聴者リスナーさんが周りを見張ってくれますから。生き残れる確率が一〇倍にもなります》


《わかった、やる》


 エバさんの言葉に、ケイコさんの声に力と冷静さが戻った。


(なるほど、巧い)


 僕は感嘆した。

 生還への希望を告げ、簡単な仕事を与えることでケイコさんの動揺を鎮めた。

 本当に場数を踏んでいるとしか思えない、エバさんの技術テクニック


《壊れてませんか? 扱い方はわかりますか? わたしはその……ドローンさんとは相性が悪いので》


《大丈夫。このタイプは寒いところでも使える奴だから。前も使ったことあるし》


《ケイコさんのご実家って……》


《北海道。熊に食べられるのが嫌だったから、東京に出てきたんだ》


 ケイコさんの照れくさげな声がスピーカーから流れる。


《これでよし! ――どうかな?》


『映った』

『映った』

『ケイコ、ナイス!』

『これは良い仕事』

『エバさんなら、こうはいかなかった』

『IT担当ケイコ!』

『IT担当(σ´∀`)σ』

『オヤジが紛れ込んでるな』


 コメント欄に溢れる、ケイコさんへの賞賛のコメ。

 まったく現金なんだから。

 やがてすべてのドローンから霜が拭われて、カメラが復活した。

 ダン配で使われるのは砂漠や寒冷地でも運用可能な、耐久性の高いドローンだ。

 値が張るけど上位魔法の強力な冷気にも、どうにか耐えられたみたい。


《OK、全部きれいになったよ》


《ありがとうございます》


《これから……どうするの?》


《ケイコさん、これからあなたが採れる選択肢オプション は三つあります。

 ひとつ目は、このまま身を潜めて “狂君主” をやり過ごし、地上に戻ること。

 ふたつ目は、ここで息を殺してもしかしたら来るかもしれない救助を待つこと。

 三つ目が、わたしと一緒にさらに下層へ向かうことです。》 


《そんな! 一緒に地上に戻ってくれないの!?》


《わたしはレ・ミリアさんたちと契約した迷宮保険員です。彼女たちの消失ロストが確認されない限り、被保険者の回収が何よりも優先されます。わたしの命よりも、もちろん被保険者ではない、あなたの命よりもです》


 冷厳に告げるエバさん。


《迷宮保険員は被保険者の回収と蘇生に身命を懸けます。そうでなければこの保険は成立ちません。もしもそれを破ってしまえば何が何だか解らなくなってしまいます。わたしが今回のミッションを配信しているのは、そのことを世界中の皆さんに知ってもらいたかったからです。わたしは迷宮でのサバイバルに必要な魔道具マジックアイテムをいくつか持っていますが、それも差し上げることも出来ません》


 言葉を失うケイコさん。


『厳しい』

『冷たい』

『いや、当然だろ。保険契約、舐めてんの?』

『当然』

『そもそもケイコが勝手にきたわけだしな』

『エバさんが正しい』

『正直、すこし幻滅した>エバさん』


《わたしはもう出発しなければなりません――どうしますか?》


《行くわ……一緒に。それしかないじゃない》


 スクッと立ち上がったエバさんに、ケイコさんが吐き捨てた。

 賢明な判断だと思う。

 おそらくそれが一番生き残れる可能性が高い……。


《わかりました。ご一緒しましょう――ですが、これだけは覚えておいてください。ここから先はあなたの力量レベルでは本来、足を踏み入れることの適わぬ領域。だから常に冷静でいてください。力も技もないあなたが生き残るには考え抜くしかありません。武器も魔力も有限ですが、冷静でいる限り、悪巧みの資源リソースは無限です》


 ガシャン……!


 ケイコさんがうなずくよりも速く、あの重々しくも禍々しい甲冑の音が響いた!

 そして轟く、獣じみた鳴声めいせい


《走ってください!》


 玄室の扉を荒々しく蹴破り、エバさんが回廊に躍り出る!

 そしてケイコさんを先導して、狂戦士の雄叫びから逃走RUNする!

 ケイコさんは軽装だけど、エバさんは重い装備を背負っている!

 それでもエバさんは、ぐんぐんと加速していく!

 耐久力、敏捷性とも種族上限に近い、まさに熟練者マスタークラスの動きだ!

 すぐにふたりは螺旋らせん状に渦を巻く回廊に達した!

 地下三階への階段は、この先にある!

 そしてその前に立ち塞がる、地下二階にいるはずのない鎧を着た男Man in Armor

 “徘徊する魔物ワンダリング・モンスター” 、遭遇エンカウント


《あ、あいつの仲間!?》


《違います! これは重剣士ソードマン! 迷宮中層に出現する戦士系の魔物です!》


 “認知アイデンティファイ” の加護で即座に、敵の正体を見抜いたエバさんが告げる。

 “狂君主” とは対照的な銀色に輝く鎧をまとった騎士が、大剣と盾を構える。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330664772200770


《エバ・ライスライト、押し通ります!》


 エバさんは速度を緩めない!

 挑戦の声を上げると、重剣士に向かって突き進む!

 薙ぎ払われる大剣!

 エバさんは前方回転ローリングで飛び込むと、紙一重の間合いで刃を掻い潜り回避!

 勢いのまま剣士の背後で立ち上がり相手が振り返るよりも速く、無防備な後頭部に戦棍メイスの重撃を叩きつけた!


『ロリスタ!?』

『リアル、ロリスタ!?』

『rolling backstab!!!』

『すげー、初めて見た!』

『DARK SOULS!!!』

『Demon's Souls!!!』


《走って! 振り返っては駄目です!》


 エバさんはケイコさんを守って、立ち塞がる魔物を蹴散らし蹴散らし、螺旋回廊をひた走る!



--------------------------------------------------------------------

ここまでのご視聴、ありがとうございました

お気に召していただけたら、フォロー、★★★、をいただけるとエバさんがとても喜びます

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330664504261993

--------------------------------------------------------------------

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

--------------------------------------------------------------------

実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る