地下三階
第12話 エバ式『石兵八陣』
《慌てず、急いで、正確に!》
するすると縄梯子を下りながら、エバさんが頭上に声を掛けた。
数メートル上でケイコさんが
正確だが、とても急いでいるとは言えない。
ケイコさんのレベルは5。
だけど一階で
『もどかしい!』
『ケイコは盗賊だろ! もっとこうスムーズに下りられんのか!』
『高さ10mだぞ。人間が一番恐怖を感じる高さ。自衛隊のレンジャーもその高さで訓練する』
『HURRY-UP! KEIKO!』
『エバさんが下なのは、もしかしていざというとき確保するため?』
(もしかしてもじゃなくて、彼女は当然そのつもりだよ! エバさんがケイコさんとロープで身体を結んだの見てなかったのか!)
ケイコさんよりもコメ欄の書き込みにイライラする僕。
ふたりは今、地下二階から三階への縄梯子を下りている。
普通なら縄梯子に不慣れなケイコさんのペースでゆっくり慎重に下りるんだけど、今の状況は普通じゃない。
追跡者の “
《もう少しです! 最後、慌てて飛び降りて足を挫かないように!》
先にフロアに下りたエバさんが励ます。
冷静だけど声に柔らかさはなく、張り詰めている。
自分よりもレベルの高いMOBに追われるプレッシャーは、画面越しの
でもこれで相当引き離したはずだ。
“狂君主” はまだ縄梯子に足を掛けてはいない。
《はぁ、はぁ――あ、ありがとう》
ガシャンンンンッッッ!
無事に下りられたケイコさんがお礼をいった直後、ふたりの頭の上から巨大な影が落ちてきて、凄まじい衝撃音が迷宮を震わせた!
迷宮の石畳と金属が擦れ、激しい
“GuRuRUruruUuuuuuuu……!”
一〇メートルの高さを飛び降りた“狂君主” がゆっくりと身体を起こす!
「バイオ3かよ!」
《走って!》
ロープで身体をつなげたまま、エバさんとケイコさんが走り出す!
危険だ、どちらかが転んだら、もうひとりも巻き添えになってしまう!
縄梯子は十字路の真ん中に垂れていて、エバさんは迷わず南に走った!
(西に行けばすぐに
レ・ミリアたちが全滅したのは、縄梯子で下りる
四階は双方向不可の二重構造になっているので、昇降機で下りても辿り着けない!
仮に昇降機で下りたとしてもその先には、未だ誰も突破したことがない難攻不落のモンスター
(駄目だ! 絶対に西は駄目だ! もし “狂君主” が昇降機を使って追ってきたら『前門の虎、後門の狼』どころの話じゃない! エバさんの判断は正しい!)
地下三階は三×四
地図の上に浮かび上がった
でもこれが、とんでもなく悪辣な仕掛けなんだ!
どの十字路に立っても同じ景色が見える構造は、容易に自分の位置を見失わせる!
さらには東西南北の階層外縁が
地図アプリで常に確認していないと、永遠に歩き続けることになってしまう!
(エバさんはこの階層の地図を、暗記してるんだろうか!?)
『エバさんを
『コメの読み上げOFFだから無理!』
『スマホのコメ欄なんて読んでる暇ない!』
コメント欄も混乱する!
エバさんはひとつめの十字路をさらに南に向かって突っ切る!
ケイコさんも必死に追走する!
すぐ背中に迫る甲冑の騒音!
『おい、この先には――』
(そうだ、この先には!)
エバさんとケイコさんがふたつめの十字路に突入する!
《あっちむいて――ほい》
ぐりんっ!
エバさんの呟きをマイクが拾った瞬間、地図アプリの矢印が直角に西に向いた!
曲がったわけじゃない!
ふたりはただ真っ直ぐに走り抜けただけだ!
そして金色の追跡者が十字路に躍り込む!
《もひとつ――ほい》
ぐりんっ!
さらにMOBの位置を示す矢印が今度は東を向く!
「やった!
僕は椅子から飛び上がってガッツポーズ! 快哉を叫んだ!
そうなのだ!
三階の十字路には所々、この罠が仕掛けられてるんだ!
《な、なにが起こったの?》
《回転床の
戸惑いを隠せないケイコさんに、ロープを解きながら説明するエバさん。
カメラの先では、視界からふたりが消えた “狂君主” が引き返してはまた回転床の罠に嵌まって、明後日の方角に走っていってる。
『エバさん式「
僕はたまらずに書き込んだ。
『石兵八陣w 確かにw』
『巧い!』
『誰がうまいこといえとw』
『座布団三枚!』
『なんという間抜けな光景』
『“狂君主” ザマァ』
『一生そこで踊ってろ』
《確率は四分の三です。いずれ追ってきます――急ぎましょう》
《う、うん》
《玄室に入って一度、視界から完全に消えます》
《了解》
ふたりは手近な扉に辿り着くと、静かに押し開けて中に入った。
明かりを灯してないので扉の奥は依然として線画の玄室だ。
《辛いでしょうが、あと少しだけ頑張ってください。今のうちに距離を取らなければなりませんから》
《わかってる……》
申し訳なさげなエバさんにも、ケイコさんがうなずく。
今にも座り込みそうなくらい疲れ切っていたけど、ケイコさんもここが正念場だとわかっているのだ。
エバさんは左手のスマートウォッチを見て、位置を確認している。
《地図アプリとは便利なものですね。これには “
『じいのゆびわ?』
『なにそれ?』
『オ●ニーリング?』
『セクハラ禁止!』
《“示位” の呪文が封じられている
『ええ、そんな便利なものがあるの!』
『初めて聞いた』
『誰か持ってる探索者っている?』
『いないと思う』
『外国の探索者ならいるんじゃね? しらんけど』
“示位” は魔術師系第一位階の呪文で、名前どおり現在の自分の位置を示す。
地図アプリがあるので滅多に使わないけど、スマホが壊れたり何かの拍子で電波が届かなくなったら、パーティの命綱にもなる呪文だ。
《現在の座標は “
三×四の玄室は中でふたつに区切られて、三×二の玄室になっている。
エバさんはケイコさんをうながして歩き出した。
再び扉に耳を当て、慎重に中の気配を下がる。
本来なら盗賊であるケイコさんの役目だが、エバさんが代わっていた。
疲労困憊でそれどころではないのだ……。
《気配があります。
ケイコさんの表情に怯えが走る。
当然だ。
彼女のレベルではまだこの階は早すぎるのだから。
《行きます》
バンッ!
勢いよく扉を蹴り開け、
扉の奥には、5、6、7――8!
八人ものみすぼらしい風体の男が
“
“
“
(いや、奴ら初心者狩りはこの階まで下りてこないはず――)
その直後、僕の違和感が乗り移ったように八人の男の身体が膨張を始めた!
皮膚が裂け、血しぶきが上がり、その下から剛毛に覆われた本当の姿が現れる!
ひとり――いや、一頭あたり三メートルを優に超える巨体――巨獣!
「“
《さ、
北海道生まれのケイコさんが、恐れ
さらにその足下をピョンピョンと跳ねる、無数の白い影!
悪名高き、迷宮のマスコット!
「“
エバさんたちは、とんでもない玄室に入り込んでしまった!
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ご視聴ありがとうございました
エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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