第17話 絶体絶命! 猛追、闇王!  

『レベル32!? 今、モンスターレベル32って言った!?』

『魔王と比肩するって……』

『ええっ!? もしかしてラスボス!? このダンジョンのラスボス!?』

『DARK LORD = DEMON!?』

『no,devil!!!』

『なんか絶対ヤバいと思う……』

『エバさん勝てるの!?』

『勝てるわけねーだろ! レベル2.5倍だぞ!』

『戦うの!? 逃げるの!?』


(そ、それもそうだけど、エバさん今『我が主君』……って)


《“闇王ダークロード” の生命力ヒットポイントは最大で500以上。装甲値アーマークラスは-12。耐呪レジスト能力は90%以上、後衛攻撃バックアタック麻痺パラライズ石化ストーン致命の一撃クリティカル の特殊攻撃を持ち、一ターンに10HPの強力な回復力オートリジェネを持つ――》


 バッと振り返り、十字路の角で怯え竦んでいるケイコさんにエバさんが叫ぶ!


《逃げます! 今のわたしたちでは絶対に勝てません!》


 十字路に向かってエバさんが走る!

 固まってしまっているケイコさんの手を引っつかみ、回廊を東にひた走る!

 禍々しい鎧の音を鳴らし、“闇王” が後を追う!

 全身を板金鎧で包んでいるくせに、軽装の盗賊シーフ よりも速い!


 エバさんが後ろを向き左手を振る!

 途端に鈍る“闇王” の動き!

 高感度カメラが一瞬黒ずんだ鎧にからみつく、半透明のイバラを捉えた!

 聖職者系第二位階の加護、“棘縛ソーン・ホールド” !

 不可視の棘で絡め取って対象の動きを封じる、金縛りホールド・パーソンの魔法だ!  

 祝詞しゅくしを唱える動作も余裕もなかったから、おそらく魔道具マジックアイテム―― “棘の指輪” を使ったんだろう!


 だけど――!


 バギンッ!


 “闇王” は一瞬で魔法の棘を断ち切った!

 耐呪レジストしたんじゃない!

 加護は確かに通っていた!

 いましめの魔法自体が通用しないんだ!


「化け物かよ!」


《な、なんなのよ、あれ!》


《化け物です!》


 恐れおののくケイコさんに、エバさんが答える!

 レベル0の一般人の僕とレベル13の熟練者マスタークラスのエバさんの意見が一致するほどの、僕とエバさんが同じ目線に立たされるほどの、まさしく化け物!


「エバさん、『石兵八陣せきへいはちじん』だ! あれでまたしかない!」


 画面に向かって叫んだ瞬間、“闇王” が間合いの遙か遠くから大剣を振るった!


 プツンッ!


『カメラ4、ブラックアウト!』

『カメラ4消えた!』

『なんで!?』

『what happen!?』

『剣圧ってやつ!?』

『そんなのあり!?』

『もう無茶苦茶だ!』

回転床ターンテーブル使え!』

『それだ! またエバさん式「石兵八陣」だ!』

『違う! そっちじゃない!』

『エバさん、左折、左折!』

『曲がり角、数え間違えた!?』

『エバさん違う! 直進ダメ! そっち落し穴ピットがある!』


 悲鳴で埋め尽くされるコメント欄!

 地下三階の十字路には探索者の進行方向を惑わす回転床の他に、陥穽かんせいの――落し穴ピットの罠が仕掛けられている!

 踏んだが最後床が抜け、一〇メートル近い高さを落下!

 底に生えた鋭い穂先の餌食になる!

 迷い十字路の連続に、回転床の幻惑!

 そして極めつけがこの落し穴!

 地下三階が “初見殺し” と言われるのも無理はない悪辣さだ!


(いや、ちゃんとした地図を持っている経験者だって、追い込まれた状況ならきっと訳がわからなくなる!)


「エバさん真っ直ぐはダメだ!」


 だけど読み上げ機能をOFFにしているエバさんに、僕たちの声は届かない!

 ケイコさんの手を引いたまま、破滅に向かって突き進む!


「エバさん止まって!」


『止まれ!』

『ストップ! ストップ!』

『ダメだ、止まれ!』

『stop,ebasan!!!』

『落し穴!』

『pit!!! pit!!!』

『間に合わない、落ちる!!!』


 エバさんは止まらない!

 それどころかケイコさんの手を離し、腰に下げていた戦棍メイスを手に取る!


(排水の陣!? 落し穴を背に迎え撃つ気!?)


 しかしエバさんは戦棍を宙に向かって一閃し、なおも走り続ける!

 落し穴は目の前だ!


跳んでジャンプ!!!》


 エバさんが叫び、まるで走り幅跳びの要領で跳躍する!


「無理だ! その程度で飛び越えられる罠じゃない!」


 落し穴は一区画ブロック(一〇メートル四方)の床がまるまる開くんだぞ!

 わけがわからないまま、ケイコさんも跳ぶ!

 そして着地! 着地!


「……え?」


 何も……起こらない。

 落し穴の床は抜けず、ふたりは十字路の中央に立っている。


「ど、どうして?」


『なんで!? なんで落ちないの!?』

『床が抜けてない!』

『罠が作動してない!』

『どういうこと!?』

『“反発レビテイト” ……の魔法?』

『そんな魔法あるの!?』

『あったとしても聖職者が使える魔法じゃねーだろ!』

『どう考えても魔術師系!』


 混乱の極みの視聴者をよそに、“闇王” が突進してくる!

 今度こそふたりを刃圏に捉え、大剣を振りかぶる!

 もう逃れることはできない! 今度こその必殺の間合い!


「エバさんっっっっっっ!!!!」


 ガコンッ!!!


 刹那、“闇王” の姿が消えた!

 作動していなかった床が開き、焼けただれた重装鎧に包まれた巨体を奈落の底へと突き落とす!

 エバさんとケイコさんは立ったまま。

 床の消えた宙に……空中に立ったまま。


「な、なにをしたの……?」


《わたしは聖職者ですので “反発” の呪文は使えません。ですから、代わりにこれを使いました》


 そういって右手に握る戦棍を持ち上げるエバさん。


《この “聖女の戦棍メイス オブ セイント” には “神璧グレイト・ウォール” の加護が封じられています。これで床の上の半分に透明な障壁を張ったのです》


 “神璧” !

 それは聖職者系第三位階に属する加護!

 短い時間ながら、鉄板で鍛えられた頑丈な胸当てブレストプレートと同じ強度の障壁を形成する、聖職者が使える最大の守りの魔法! 


《わずかな隙間を作って “闇王” を落としました。“穽陥” の罠はです。高い生命力を誇る相手には、なまじかな攻撃よりも大きなダメージを与えられます》


 落し穴の底では全身を鋭い槍に貫かれた “闇王” が、呪詛の呻き声を上げている。


《先を急ぎましょう。この程度ダメージならすぐに回復してまた追ってきます》


 エバさんは呆然とするケイコさんを促した。

 そしてさらに驚くことに階層フロアの東西が次元連結ループによって接続されていることから、ふたりが今いる十字路は四階への縄梯子がある玄室の目の前だった。


(凄い……凄すぎるよ…… “闇王” が現れたときから、全部計算してたんだ……)


 誰もの予想に反し “闇王” とエバさんの戦いは、エバさんの圧勝だった。



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ご視聴ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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