第16話 デンデンデンデンデンデンデンデン★

《デンデンデンデンデンデンデンデン……デンデンデンデンデンデンデンデン……》

 

「な、なに?」


 エバさんが……また歌ってる!?

 最凶の追跡者 “狂君主レイバーロード” を前にして、エバさんがまた歌ってる!?

 それに、このフレーズって……!?


『エヴァ……?』

『ヱヴァンゲリヲン?』

『ヤシマ作戦?』

『EVASAN NO EVANGELION?』

『いや、トップだろ』


 そうだ、間違いない!

 某人気アニメの戦闘(前?)BGMだ!


「なんでまた……?」


『集中力を高めてる?』

『士気を高めてる?』

『さすがエバさん、わかってらっしゃる』


 強大な敵を前にして視聴者リスナーたちも緊張に耐えられないのか、軽口のコメントで気を紛らわそうとしている!

 僕も口から心臓が飛び出そうだ!

 だから……!

 

「デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン」


 僕もした!


『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

『デンデンデンデンデンデンデンデン、デンデンデンデンデンデンデンデン』

 

 コメント欄を埋め尽くす、GAINAX風?戦闘BGM!

 きっと世界中の視聴者が、同じフレーズを口ずさんでいただろう!

 いいね、スパチャが次々に贈られ、チャンネル登録者が爆増!

 同時接続数が一〇〇万を突破する!

 まさしく、一〇〇パーセント正念場だ!


 そして “狂君主” が動いた!

 獰猛な肉食獣の声帯から無理やり人間の言葉を絞り出したような、耳障りな発声! 抑揚!

 でもこの詠唱には聞き覚えがある!

 レ・ミリアたちパーティの魔術師メイジ、通称 “師匠” さんが得意にしていた、魔術師系第四位階の呪文 “焔嵐ファイア・ストーム” !

 中規模グループ範囲に一〇〇〇℃を超える猛炎を吹き荒らす、灼熱の呪文!

 まともに浴びたら人間なんて、一瞬で炭化してしまう!


「エバさん、“静寂サイレンス” !」


 沈黙の加護で、呪文を封じて!

 呪文や加護は位階レベルがあがるほど、呪文や祝詞しゅくしが長く複雑になる!

 “静寂サイレンス” は聖職者系第二位階の加護!

 今から唱えても “焔嵐ファイア・ストーム” を

 でもエバさんは――!


『なんで “静寂サイレンス” 唱えない!?』

『覚えてない!?』

『そんなわけあるか! レベル3で覚える加護だぞ!』

『ケイコをかばってるんだよ! もし封じそこなえばケイコが死ぬ!』

『ケイコ足手まとい!』

『ケイコいらない子!』


「違う! ケイコさんは盗賊シーフ だぞ! もうエバさんから離れて隠れてる!」


 エバさんが呪文を封じないのは、他の理由があるんだ!

 でも僕にはその理由がなんなのか、サッパリ見当が付かない!

 詠唱が終わる!


《デンデンデンデンデンデンデンデン……デンデンデンデンデンデンデンデン………

――今っGust oul!》


 “狂君主” の詠唱が終わり、焔の嵐が現出しようとしたまさにその瞬間!

 エバさんがアカシニア語向こうの世界の言葉で叫び、何かを投擲した!

 直後、これまでに見たことがない激しい閃光が走る!

 画面を揺るがす轟音!

 “焔嵐” なんてものじゃない!


「な、何も見えない! どうなってんだ!?」


『焼き付いた!』

『焼き付き!』

『カメラ焼き付き!』

『“狂君主” 、呪文ミス!?』

『エバさんがなんかした!』

『エバさん、何した!?』

『なんか投げた!』

『EVA,YOU OK!?』

『エバさん答えて!』


 固唾を呑む時間が流れて、徐々にカメラが復活してくる。

 僕は――視聴者は息を呑んだ。

 迷宮を覆い尽くす、火炎地獄が出現していた。

 画面一杯に広がる真っ赤な地獄絵図を前に、エバさんが立っている。


「な、なにをしたの……?」


《“とっておき” を使いました。“手榴弾ハンド・グレネード” を “焔嵐” の現出に合わせて投擲して、誘爆を誘いました。火薬が燃焼促進剤の役目を果たし、通常の何倍もの火勢と爆発力を誘発します》


「手榴弾!?」


『手榴弾!? そんなもんどこで手に入れたの!?』

『迷宮で手に入るの!?』

『外からの持ち込み!?』

『迷宮法も銃刀法も無視!?』

『EVA, OUTLAW!?』


《いいえ、わたしは無法者ではありません。“爆弾ボム” の罠から回収した火薬と雷管で造りました。法律は破ってはいません》


 “爆弾” !

 それは探索者の誰もが忌み嫌う、宝箱チェストの罠!

 気がつかずに開けたとき、あるいは解除に失敗したときに作動し、パーティ全体に猛炎と宝箱の破片による大ダメージを与える。

 地下一階から仕掛けられていて探索者のレベルが低ければ、生命力ヒットポイントがMAXでも全滅してしまう危険極まりない罠。

 探索者なら近づくことさえ嫌がるその罠から、別の爆弾を造ったっていうの!?


『マスターキートンかよ!』

『マクガイバーかよ!』

『She is Green Beret!!!』

『ありえない!』

『どういう頭の構造してんだ!?』

『迷宮の申し子』

『もはやこっち側の探索者とは次元が違う』


チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪


 スパチャといいねの台風!

 僕も投げた!

 たとえエバさんの収入にならなくても、投げずにはいられない!

 だって、だって――こんな凄い配信視たことない!


《……君主ロードは厳しい修練を積んだ者だけが就ける、上級職エリートクラスです》


 強敵を倒し興奮に湧く視聴者とは対照的に、エバさんの声は未だ張り詰めていた。


《……故に彼らが闇堕ちした “狂君主レイバーロード” は強大な力を持ちます》


「エバ……さん?」


 何を言ってるの?


《……その中でも特に……本当に特に優れた君主が闇堕ちしたとき、膂力・知力共に常人を遙かに超えた、人間の壁すら越えた君主が闇に呑まれたとき……出現します》


 そして炎の中から現れる、異形の騎士。

 金色に輝いていた鎧は猛火をに炙られて真っ黒に黒ずみ、業火を背にして立つ姿はまるで地獄からの使者。


《魔王にも比肩する力を持つ “最高位魔神アークデビル”、“冥王ネザーデーモン” と並ぶ、魔界の三傑が一角。そのモンスターレベルは実に32に達し、並の “狂君主” の倍以上。闇を統べる君主、闇に君臨する帝王。それが―― “闇王ダークロード” です」


 戦慄が、迷宮に、視聴者に、世界に走る。


《あなたでしたか……我が主君トレバーン陛下マイ・ロード・トレバーン


 “闇王” がエバさんに向かって、一歩踏み出す。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330665036448595



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ご視聴ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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