第22話 さよならは言わない★
“魔物の気配なし………………多分”
扉から耳を離した
玄室に突入する前に扉を調べて、罠の有無や室内の気配を探るのが
周囲を警戒する仲間に困惑が広がる。
同じく戦士のモロミさん。
そしてリーダーのレ・ミリア。
戦士×3、盗賊、僧侶、魔術師×各1が、パーティの編成だ。
レ・ミリアが進み出てポッポさんの肩を叩いた。
ポジションを入れ替わると慎重に扉に耳を当て、眉根を寄せる。
一×一
すでに四つの扉を調べたポッポさんの疲労は濃い。
レ・ミリアはダブルチェックと、もしもの時の責任を買って出たんだと思う。
“何も聞こえない”
やがてレ・ミリアは扉から離れ、ニコッとポッポさんにサムズアップ。
ホッと息を吐くポッポさん。
全員が武器を抜き、突入に備える。
片手が空いている師匠さんが、ハンドサインでカウントダウン。
“3、2、1――”
バンッ!!!
ポッポさんが荒々しく扉を蹴り開け、抜剣した戦士たちが突入。
間髪入れずに後衛が続く。
そして待ち構えていた “
◆◇◆
“魔物の気配なし………………多分”
扉から耳を離したケイコさんが、自信なさげな顔でハンドサインを出した。
進み出てケイコさんと代わるエバさん。
純白の僧帽をずらして、扉に耳を当てる。
(まるでリピートを視てるみたいだ)
興奮、焦燥、不安、予感、期待、恐怖。
自分でも把握しきれない様々な感情が渦巻いていて、震えが止まらない。
昨夜と同じように『固唾を呑んで見守る』しかない。
(昨夜……嘘だろ、あれからまだ一日しか経ってないのかよ)
時間の感覚が狂ってる……。
迷宮の時空の歪みがここまで広がって、自分までのみ込まれたみたいだ……。
エバさんが扉から離れた。
“魔物の気配あり”
ハンドサインと表情で、明確に伝えるエバさん。
それからケイコさんの嵌めている指輪を指差す。
ケイコさんはうなずき、突入体勢を採るエバさんの前に出て扉を蹴り開けた!
バンッ!
エバさんが
“GuUuOOOoooooHhhhhhhッッッッッ!!!!!”
スピーカーを震わせる大咆哮!
鎌首をもたげた四頭の “緑竜” の胸が、吹子のように膨らむ!
竜息を吐く前動作!
凶悪な面相の四つの竜頭が、エバさんを向く!
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330665579677077
《こっちだよ!》
わずかに遅れて玄室に飛び込んだ
《
短く、鋭く発せられる、
指輪の魔力が解放され一瞬の硬直のあとに、“緑竜” の群れが崩れ去る!
玄室に静寂が戻る。
決着はあっけないほど迅速で……圧倒的だった。
《――まだです! 油断しないでください!》
エバさんが残心を解かずに、入口に立つケイコさんに指示する。
《クリア――魔物の気配はありません》
やがてエバさんが緊張を解いた。
武器をおろしてケイコさんに向き直る。
《もう入ってきてもよいですよ。“
《う、うん》
《見事なタイミングでした。“滅消の指輪” の使い方に慣れてきましたね》
《そ、そうかな》
はにかむケイコさんが、エバさんのヘッドカメラに映る。
強いられてきた極度の緊張の反動で、世界中の
《ここにいるんだよね……レ・ミリアたち》
ケイコさんの表情に再び緊張がみなぎる。
《そのはずです。すぐに捜して回収しましょう》
《明かりは点けないの?》
《今はその必要はありません》
エバさんの不思議なものいいの理由はすぐにわかった。
手分けをする必要もなくふたりは、すぐにレ・ミリアたちを見つけた。
《こっちですね》
《うん……酷い臭い》
ふたりのカメラに、玄室の床に堆積するそれが映し出された。
《――カメラを切ってください!》
《うっ!? ――うげええええっっっっっ!!!!》
エバさんの警告が一瞬遅れた。
ケイコさんのカメラが激しくブレ、嘔吐する彼女の声と画面一杯の吐瀉物が視界に飛び込んできた。
飛びつくようにケイコさんのヘッドカメラをOFFにするエバさん。
画面の半分が暗転した。
《ごめんなさい。先に注意しておくべきでした。“緑竜” の竜息はアシッドブレス。強酸性の液状の竜息で、浴びた人間は正視に耐えない状態になります》
《げぇっ、うえっ――!!! こんなのって――こんなのって――!!!》
エバさんが視線を外したため、打ちのめされて何度も
エバさんの判断は正しかった。
明かりがなかったお陰で世界中の視聴者が、レ・ミリアたちの悲劇を鮮明な映像で視ずに済んだのだから。
《レ・ミリアさんたちの尊厳を優先して、わたしのカメラも切ります。ケイコさん、落ち着いたらカメラをONして、配信を再開してください》
《はぁ、はぁ……わ、わかった……》
数秒後、
《こ、これで視えてる?》
ヒリついたケイコさん声を、彼女のマイクが拾った。
カメラはレ・ミリアたちに歩み寄るエバさんの背中を映す。
視聴者たちから『OK』のコメントが返る。
確認したのか、エバさんのカメラがOFFになった。
エバさんはレ・ミリアたちの側まで行くと、膝を折り両手を合わせた。
かがんだ背中しか見えないけど、祈りを捧げているようだった。
距離があるため声までは拾えない。
短い祈りが終わると立ち上がり、溶解して形を成してない遺体を調べてまわる。
しばらくしてから、エバさんはケイコさんのところに戻ってきた。
《確認しました。レ・ミリアさんたちです》
もしかしたらという微かな希望が、打ち砕かれた瞬間だった。
悲しみが全身に溢れ、僕はズルズルと椅子に沈み込んだ。
レ・ミリアは……死んでしまった。
本当に死んでしまったんだ……。
《ケイコさん、あなたにお願いがあります》
スピーカーから流れたエバさんの声に、僕はゆるゆると顔を上げた。
エバさんが僧帽の上から嵌めていた簡素な冠を外し、ケイコさんに差し出ていた。
《この “転移の冠” を使って、レ・ミリアさんたちと地上まで戻ってください》
《……え?》
《迷宮の入口はイメージできますね? あとは真言を唱えれば
《ちょ、ちょっと待って! あんたはどうするのよ!》
《わたしは残ります。この冠で飛べるのは六人までです。遺体の損傷が激しく質量が減っているのを勘案しても七人が限界でしょう》
《そんな!》
絶句する、ケイコさん。
僕。
世界中の視聴者たち。
《わたしひとりなら歩いて戻ることも可能です。行ってください》
《……エバ……あんた馬鹿だよ》
《こういう時のために、迷宮保険員はいるのです》
エバさんは微笑み、ケイコさんに魔法の冠を手渡した。
涙をこらえて、受け取るケイコさん。
《……これ、今度こそ返す。必要でしょ》
エバさんは貸していた指輪を受け取り、冠の
《そのヘッドカメラはそのままで。視聴者さんを通じて安否が確認できますから》
《……わかった》
ケイコさんは、カメラに映さないようにギリギリまでレ・ミリアたちに近づいて、振り返った。
《お礼は次に会ったときにするから。必ずするから。だから――》
《必ずもう一度会いましょう》
それが僕が視た、ふたりの最後の会話だった。
《
ケイコさんが真言が唱えると、視界に光の洪水が溢れた。
眩い七色の輝きが溢れ彼女とレ・ミリアたちを、光の粒子に分解していく。
世界が初めて目撃する “
唐突に光が消え去り、玄室に闇が戻る。
そこにはもうケイコさんもレ・ミリアたちもいなかった。
僕はハッとしてケイコさんのカメラに映像を切り替えた。
夜の迷宮街と、呆然とこちらを見つめている警備部隊が映っている。
(戻った……ケイコさんは戻った……戻れた)
涙が零れた。
あとからあとから零れた。
推しでもなんでもない、迷惑な闖入者でしかなかったのに。
足手まといでしかない、イライラするだけの存在だったのに。
彼女が生きて地上に戻れたことが、僕は……僕は……とても嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくてたまらなかった。
だから気づかなかった。
いつ間にかエバさんのカメラが、ブラックアウトしていたことに。
◆◇◆
「動いたら、その細い首が飛ぶから」
「やはり、生きていたのですね……レ・ミリアさん」
https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212221855623
……To be continued
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ご視聴、ありがとうございました
エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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