第23話 真相★

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212221855623


「動いたら、その細い首が飛ぶから」


「やはり、生きていたのですね……レ・ミリアさん」


「ヘッドカメラは速攻で踏み潰したから視聴者リスナーには何も聞こえないわよ――ゆっくり戦棍メイスを捨てて。その次は盾。捨てたら遠くへ蹴る。背中を取ってるのはわたしだって忘れないで。妙なマネしたら速バックスタブだから」


「これでいいですか」


「次はスマートウォッチと魔道具マジックアイテム。手を顔の前にして全部外して渡して。頸動脈が可愛いでしょ」


「どうぞ」


「これよ、これ。特にこの “滅消の指輪ディストラクションリング” 。配信視ててずっと欲しかったの」


「確かにこの階から地上に戻るには、その指輪が必要でしょう」


「ふん――いつから気づいていたの? わたしが生きてるって」


「最初からです」


「最初から?」


「わたしたち聖職者にはレベル9で授かる、迷宮で行方不明になった人間を念視する “探霊ディティクト・ソウル” という加護があります。あなた方のパーティが消息を絶ったと聞いてすぐにその加護を嘆願したところ、あなたひとりだけが生きていて四階の南東区域エリアに隠れているのが視えました」


「あんた馬鹿じゃない? そこまでわかってたならなんで配信で言わなかったのよ。そうすればもっとずっと盛り上がって、スパチャだって沢山入ったのに」


「あなたの生存を知れば視聴者さんは、わたしを追い立てるように救出に向かわせたでしょう。そうなれば冷静な捜索は不可能になります。二重遭難は絶対に避けるのが迷宮保険員の鉄則です。救出が間に合わない可能性もあります。希望を与えたあとに取上げるのは最も残酷な行為です。なにより――あなたの真意が不明でした」


「真意?」


「今回の回収業務に出る前に、あなた方が消息を絶った配信を確認しました。そして気がついたのです」


「何をよ」


盗賊シーフ のポッポさんが察知できなかった魔物の気配を、レ・ミリアさん、あなたが察知していたことをです。


 “緑竜”は歴とした竜属。竜息ブレスだけでなく第一位階までの魔術師の呪文も操ります。それはすなわち、駆け出しの魔術師と同程度の知力を有するということ。息を殺して待ち伏せをするくらいには知恵が回ります。


 小部屋が連なるこの区域エリアでは扉を調べる盗賊の疲労は増大します。集中力が切れ、玄室の中で息を殺していた “緑竜ガスドラゴン” の気配を感じ取れなかったのでしょう。


 でもあなたは違いました。あなたは身軽な戦いを信条とする軽戦士ライトファイター敏捷性アジリティではポッポさんに比肩します。敏捷性は罠の解除や危険を察知に必要となるステータス。幸運にもあなたは扉の奥に危険が潜んでいることに気がついた。それなのに仲間には告げずに気づかないふりをした」


「本当に気づいてなかったのかもよ」


「あなたは扉を確認したあとに、にこやかにサムズアップをしましたね? どうしてあそこまで確信を持てたのですか? それとも緊張を解すため? あの場面で緊張を解すのは危険極まりない行為です。玄室に突入する直前にリーダーが見せる表情では絶対にありません。実際にポッポさんたちは僅かなりとはいえ緊張を緩めてしまい、玄室に魔物はいないと考え、結果として “緑竜” に驚かされてしまいました。


 あなただけが待ち伏せの危険を察していたから、あなただけが。奇襲を予期して自分だけが逃走に徹するなら、生き残ることも可能だったでしょう。そして現実に生き残った。あなたは入ってきた扉から逃れて、安全が確認されている手前の玄室に身を潜めた。


 あなたの生存とあの表情が結び付いたとき、怖ろしい想像が浮かびました。これはパーティの財産の独り占めを狙った――なのではないのか、と。


 確かメンバーが亡くなった場合、その遺産は生き残った者で分けるのがあなた方の決まりでしたね? 珍しいことではありません。迷宮無頼漢探索者は家族関係が希薄な人が多いです。むしろ家族との関係が希薄だからこそ、危険な迷宮に潜ることができるといってもよいでしょう。関係性の薄い家族よりも命がけの迷宮探索を共にした仲間に資産を残すのは、探索者にとって自然な発想です。そして世界的Dチューバーであるあなた方の総資産は莫大な額に上るはず」


「すごいわね。よくもまあ笑ってサムズアップしたのを見ただけで、そこまで想像の翼を広げられるもんだわ。リアル妄想乙ね。それって全部あなたの感想じゃないの。どこに証拠があるっていうのよ」


「異なことですね。ここでわたしの首に剣を当てているのが何よりの証左でしょう。あなたの真意を炙り出すために、わたしはこの状況を作り出しました。ケイコさんに転移テレポートで先に還ってもらったのはそのためです。“上忍ハイニンジャ” にドローンを壊されたのを奇貨としたのは、あなただけではありません」


「どういう意味よ?」


「あなたがパーティの全資産を独占するには、蘇生を行えるわたしを排除しなければなりません。ですがそれには視聴者が目が邪魔です。身を潜めながら配信を視ていたあなたは、すべてのカメラドローンが破壊されたときチャンスだと思ったはずです。

あとはわたしのヘッドカメラさえ壊してしまえば、目撃者はいなくなる。この状況はわたしたちふたりが望んだのです」


「それじゃ、わたしがここであなたの首を飛ばせば、完全犯罪の成立ね」


「いいえ、あなたはまだわたしを殺しません」


「大した自信。なぜそう言い切れるの?」


「あなたは知りたいからです。わたしの推理がどこまで他の人に漏れているか」


「……」


「あなたはわたしを殺して生還したあと、きっと周りの人にこういうのでしょう。『エバがわたしを生き返らせてくれた。でも一緒に地上を目指す途中、彼女は魔物に殺されてしまった。わたしは今際のエバに装備を託され、どうにか生還できた』と」


「……それで?」


「ですが、もしわたしがこの推理を誰かに漏らしていたら、あなたを待っているのは同情でも称賛でもなく強い疑惑の目です。さらにいえばそれだけではすまないかも。もっと決定的な破滅が待っているかも――あなたは保険員のわたしが、なんのもかけずにここまで来たと、本気で思っているのですか?」


「……」


「思い直してください、レ・ミリアさん。わたしを解放して、どうか仲間の皆さんを蘇生させてください。今のあなたは『未必の故意』とさえ言えない状態です。あなたは『玄室の魔物の気配』を他のメンバーに伝えなかっただけで、それすら誰も証明はできません。なによりも迷宮は治外法権です。ですがここでわたしの首を刎ねれば、本当に後戻りできなくなってしまいます」


「……」


「レ・ミリアさん!」


「わたしはね、お金が欲しいの。何よりも、誰よりもお金が欲しいのよ。お金のためならなんだってやる。わたしはこのチャンスをずっと狙ってた――あんたの保険? それがなんだっていうの? 今回が駄目なら次を考えるだけ。あいつらが生き返ってくるなら何度でも殺してやる。何度でも」


「……レ・ミリアさん」


「話は終わり。悪いけど死んで。迷宮は治外法権なんだから問題ないでしょ」


「……迷宮の闇に魅入られてしまったのですね」


「いい加減うざい! 死ね!」


「レ・ミリアさん、わたしを殺す前に、わたしがかけた保険がどんなものか知りたくはありませんか?」


「は?」


「ほら、あそこです。なにが見えます?」


「なにって何も――――――――…………え?」


「ちゃんと撮れていますか、?」


「OK、クマー! クマは名カメラマンクマー!」


「壊れたドローンと一緒では雑嚢ベッドが狭かったでしょう。なかなかお尻まで入らなくてすみませんでした。ですがカメラとマイク、送信機が無事で運がよかったです――レ・ミリアさん。あなたとの遣り取りはすべて録画させていただきました。いまから全世界に配信します」



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ご視聴、ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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