第6話 緑皮魔牛 モー!
メタリカルな光沢を放つ緑の雄牛と対峙するエバさん!
『なに、戦うの!?』
『いやいやいやいや、無理でしょ! 死ぬでしょ!』
『もしかしてコイツ、レ・ミリアたちを殺った “
『ニワカかよ。ガスは4匹だったろ。1匹と強さを比べてどーする』
『ニワカはおまえ。ドラゴンも牛も数え方は1頭、2頭』
『それを言うならレ・ミリアたちはパーティ、エバさんはソロだろうが』
『探索者のレベルとモンスターのレベルって、同じ?』
『同じ。同じじゃないと比較にならないだろ』
『んじゃ、タイマンならエバさんの方が強いんじゃ?』
『おまえは魔物と人間を比べるのか?』
『は? 比べられなきゃレベルの意味ねーだろ!』
『RUN EVA!』
『Go Eva!』
コメント欄に溢れる好き勝手な声!
「みんな好き勝手いって!」
僕はスマホに毒突きながら、PCを立ち上げた。
もうこんな小さな画面じゃ状況を追い切れない。
アクセスランプが点滅を繰り返し、なかなか起動しない。
「ああ、もう! いい加減遅いんだよ、このマシン!」
イライラを部屋の空気にぶちまけて、もどかしい時間に耐える。
やっと起動したPCにサインインするとブラウザを立ち上げて、Dチューブの『レ・ミリアのダンジョン攻略配信』を開く。
スマホよりも遙かに大きな画面に、エバさんの整った小顔が映し出される。
大きな黒い瞳、小作りで端正な鼻。引き結んだ小さな口。
緊張と平静がよい意味で調和した凜々しい表情。
(この娘……こんなに可愛かったんだ)
《 “緑竜” のモンスターレベルは5です。 単体では “緑皮魔牛” の方が強力とされています》
エバさんが
どうやら “緑皮魔牛” の炎を回避しながら音声読み上げに切り替えていたらしい。
あの状況で凄い。
『戦うの!?』
機関銃を撃つようにキーボードを叩いて訊ねる。
《戦います。
確かにここでエバさんが逃げ出せば 、“緑皮魔牛” の出現を知らない他の探索者が危険だ。
配信を介して警戒をうながしたとしても、情報を共有できるとは限らない。
低レベルの探索者がこの魔牛と遭遇すれば、簡単に全滅してしまうだろう。
(でもだからって、ひとりで戦うなんて!)
《竜息も怖ろしいですが “緑皮魔牛” と戦いで真に脅威となるのは、重量を活かした突進攻撃です》
画面の奥で猛った魔牛が、カッ! カッ! と前足を蹴った。
鋭く巨大な角の生えた頭を振って、エバさんを威嚇する。
殺る気……満々だ。
質量×速さ=
“緑皮魔牛” の体重は1トン? 2トン? それ以上?
「あんなのに体当たりされたら、
モニターに向かって頭を抱えた直後!
MOhooooOoooooッッッッ!!!
緑皮の雄牛がエバさんに向かって突進した!
「避けて!」
『避けろ!』
『回避!』
『step!』
『NO! EVA!』
『逃げて!』
コメントが流れたときにはエバさんは闘牛士よろしくヒラリと、魔牛の角をかわしていた!
さらに、二度、三度、四度! かわす、かわす、かわす!
頭の中でカルメンだかフラメンコだか、とにかくそれっぽい曲が流れる!
「ワオ!」
『WOW!』
『Matador!』
『闘牛士かよ!』
『鮮やか!』
『艶やか!』
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
雄牛の突進をかわす度に、賞賛のコメントとスパチャの嵐が乱れ飛ぶ!
(凄い! 本当に紙一重でかわしてる! でも――)
「避けてるだけじゃ駄目だ! なんとか反撃しないと!」
『攻撃しろ!』
『かわしざまに
『魔法使え、魔法!』
『ニワカは引っ込んでろ! あの状況で詠唱できるわけないだろ!』
『前衛がいねえの魔法とかありえない!』
『She doesn't have TANK!!!!』
コメント欄に溢れる勝手極まる書き込み!
これが読み上げられたら、彼女の気が散っちゃうよ!
でも僕の心配をよそにエバさんは――エバさんだった!
《OKです。だいたい見切りました》
「は!?」
《次でペシャンコにしてやります》
(『される』じゃなくて『する』!? エバさんが『ペシャンコにする』!)
間合いを取って対峙する “緑皮魔牛” とエバさん!
魔牛が再び前足を蹴る!
《……遙か母なる大河に揺られ、いつか目指すよ大海洋……》
「え? なに?」
《……朽ちた流木、俺の船。ようやく見つけた、俺の夢……》
「エバさんが……歌ってる?」
『Singing?』
『歌ってる?』
『こんな時に?』
『what mean?』
呆気にとられる視聴者たち。
ドローンのマイクが拾ったのは、おおよそこんな歌詞だった。
“遙か母なる大河に揺られ、いつか目指すよ大海洋”
“朽ちた流木、俺の船。ようやく見つけた、俺の夢”
“遙か父なる大地に倒れ、いつか無になるその前に”
“乗って漕ぐのさ、俺の船。同じ死ぬなら、母の胸”
“千軍万馬の砂塵に塗れ、今日は東で
“袋に詰めるは
“死んだ友だち打ち捨てて、担いだ
“築いた城壁幾数千、見捨てた友だち幾数千”
“だから漕ぐのさ、俺の船。同じ死ぬなら、母の胸”
“そして漕ぐのさ、俺の船。同じ死ぬなら、夢の中”
ZOooMOhooooOoooooッッッッ!!!
エバさんが最後の一節を口ずんだとき “緑皮魔牛” が、溜めに溜めたエネルギーを爆発させた!
猛り狂う怒りは数トンを超える身体を、一瞬でトップスピードに到達させる!
突進してくる魔牛に向かって、盾を持つ左手を突き出すエバさん!
でも握っていたのは盾の
封が切られ、いつの間にか取り出されていた
途端に魔牛の進路が、エバさんからズレた!
突然平衡感覚を狂わされたように、
轟音と衝撃がカメラドローンを激しく揺らす!
濛々と立ち込めた土煙が画面を覆った!
「何を……したの?」
《“
『Excellent!!!!』
『すげー! またまた寒イボ立った!』
『強い! ほとばしるほどに強い!』
『またもやエバさんの圧勝!』
『あんな産廃スクロールでよく!』
『使い道ねーもんな、暗闇系呪文』
『ほぼエディ先生用だしな』
『売って魔術師が唱えた方がマシ』
『推し確定!』
『レ・ミリアと箱推し!』
『は? エバさんはレ・ミリアのパーティじゃねえだろ!』
『エバさんにスパチャしたい!』
『それな!』
『エバさんはお金に執着しない』
『は? それじゃレ・ミリアは金に汚いっていうのか?』
『落ち着け。誰もレ・ミリアを貶してはいないだろ』
『内ゲバしてねーで、素直にエバさんを称えよ、崇めよ』
『エバは俺の嫁』
『勝手に嫁にすんな。古いんだよ、てめえは昭和のオヤジか!』
『エバは俺の娘』
チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
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チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪ チャリン♪
コメント欄を覆い尽くす弾幕を見送りながら、ホッと息を吐く。
『ところでよくあんな一瞬で音声読み上げに切り替えられたね。ダンジョンアプリに慣れてきた?』
額に浮かんだ汗を拭うと、コメントを打ち込む。
もしかしたら答えてもらえるかもしれない。
そして僕の声は彼女に届いた。
「あれれ? そういえばスマホが喋っていますね。いつの間に。どーも初めまして、エバ・ライスライトです」
『『『『『自分で切り替えたんじゃないのかよ!』』』』』
律儀に頭を下げるエバさんに、世界中から入れられるツッコミの嵐。
エバさんはやっぱりエバさんだった。
でもこうやって配信者と視聴者が一体感を高めていくのが、ダンジョン配信の――ダン配の醍醐味だった。
エヘヘへ……頭を掻いて進むエバさんの前に、下層に垂れる縄梯子が見えてきた。
いよいよ地下二階だ。
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ご視聴、ありがとうございました
エバさんが大活躍する本編はこちら
https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742
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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!
エバさんの生の声を聞いてみよう!
https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj
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