第14話 ケイコさんヘトヘト。エバさんモリモリ

《休息しましょう。辛かったですよね。我慢させてしまってすみませんでした》


 足を踏み入れた玄室にMOBの気配がないのを確認すると、エバさんは背中に立つケイコさんに告げた。

 ホッとした表情すら浮かべられずに、その場にくずおれるケイコさん。

 うつむかせた顔は土気色で、疲労が限界なのは誰の目から見ても明らかだった。

 エバさんは彼女を中心に魔除けの魔方陣キャンプを描き、さらに癒やしの加護を施した。

 聖職者系第一位階の魔法、回復役ヒーラーが一番最初に授かる “小癒ライトキュア” の加護だ。


《ありがとう、少し楽になった》


 加護の柔らかな光が治ると、ケイコさんがやっと弱々しい笑顔を上げた。

 癒やしの加護は生命力ヒットポイントの他にも、ある程度の体力スタミナも回復させる。

 そうでなければ、高所登山並に体力を消耗する迷宮探索では役に立たない。


 ただ……。


 傷を癒やせば回復する生命力と違って、体力を回復させるには疲労を癒やす必要があるらしい。

 疲労とは心身の――精神と肉体の消耗。

 肉体はともかく、精神の消耗を回復させるには魔法だけでは不十分で、リラックスできる環境で充分な休息を摂らなければならないみたいだ。

 だから迷宮での完全な疲労の回復は、不可能だった。

 どんなにキャンプを張って休んでも、積み重なった疲労は拭えない。

 だから疲労困憊の人間はたとえ生命力がMAXだったとしても、

 同じことは呪文・加護の源である精神力マジックポイントにも言えた。


(このままじゃ傷をまったく負ってなくても、ケイコさんは……)


 エバさんは再び顔をうつむかせたケイコさんに水袋を渡すと、入口の扉を少しだけ開けて、腰の雑嚢ポーチから出したくさびを噛ませた。

 そうして僅かに開いた隙間から玄室の外に伸びている回廊に、ドローン4を出す。


《これで外を見張ります。何か異変があったら教えてください》


『OK!』

『おk!』

『(`・ω・´)ゞ」

『ラジャー!』

『Aye, aye, ma'am!』

『Yes ma'am!』


 すっかり同化してしまった視聴者リスナーたちが見張りを請け負う。

 少しでも扉が開いていれば “狂君主レイバーロード” のあの甲冑の音も聞こえやすいはずだから、現状ではベストチョイスな警戒かもしれない。


 そこまでしてから、ようやくエバさんはケイコさんの隣りに腰を下ろした。

 大容量の背嚢バックパックから例の “元気玉” を取り出すと、ふたつに割ってケイコさんに差し出す。


《……無理……食べられない》


《では持っているだけでも》


 仕方なく特大おにぎりの半分を受け取るケイコさん。

 半分とはいっても、普通のおにぎりの四個分はある。


《うん、うん、美味しい、美味しい》


 対照的にエバさんは、今度こそ本当にパクパクパクパク食べている。

 実に幸せそうだ。

 胃が丈夫なんだなぁ……羨ましい。


『なんという健啖けんたん家』

『迷宮であの食欲……さすがだぜ!』

『アイアンストマック、エバ』

『いや、アイアンなのはレバーだろう』

『生きることとは、食べることと見つけたり!』

『おにぎりの具はなぁに?』


《今日のおにぎりの具は迷宮に勝つ『とんかつ』です。味もボリュームも満点で力がモリモリと湧いてきます》


『うは、おk!』

『とんかつおにぎり! 初めて聞いた!』

『いや、天むすがあるんだから、あってもおかしくはないw』

『誰もが考えた。そしてやらなかった』

『つーか、絶対「向こうの人」じゃねーよな。話してる内容が日本人すぎる』

『でも日本人でここまで強いのって有り得なくね?』

『探索のトップを走ってたレ・ミリアたちでさえ、レベル8だからな』

『ズバリ聞くけど、エバさんって「向こうの人」ですか?』


《そうですね。わたしは『向こうの人』です。ただ日本のことはよく知っています》


『やっぱり「向こうの人」だった』

『エバさん、「向こうの人」確定』

『疑問は解けた』

『でもどう見ても日本人だよな』

『別に「向こうの世界」が単一人種とは限らないだろ。黄色系がいても全然不思議じゃない』

『歳は!?』

『あんまりプライベートなこと訊くなよ』

『それよりも装備を教えてください』

『それだ! 装備!』

『装備は俺も知りたい』

『装備! 装備!』


《歳は一六才です。装備ですか? 装備は――》


 モリモリとおにぎりを平らげたエバさんが、バナナを剥きかけた手を止めて答えてくれた装備とは――。 


武器:聖女の戦棍メイス    七五〇〇〇枚(迷宮金貨) 

 盾:護るもの    二五〇〇〇〇枚

 頭:転移の冠     二五〇〇〇枚            

 鎧:氷雪の鎖帷子  一五〇〇〇〇枚

籠手:螳螂とうろうの籠手    一五〇〇〇枚


魔道具マジックアイテム

   滅消の指輪    二〇〇〇〇枚

   示位の指輪     五〇〇〇枚

   回復の指輪   三〇〇〇〇〇枚

    棘の指輪    一五〇〇〇枚

    炎の指輪   二五〇〇〇〇枚

   抗魔の首飾り  二〇〇〇〇〇枚

   魔女の護符        不明


《――だいたいこんなところです》


『『『『『『『『『『『『『………………………………』』』』』』』』』』』』』


 絶句する視聴者。

 どれひとつとして聞いたことがないアイテムばかりで、まず絶句。

 さらにご丁寧に付け加えられた金貨の枚数に、またもや絶句。 

 さらにその金貨を日本円に換算した値段を想像して、またもまたも絶句。

 そして……。


『うおおおっ! なにそれ、聞いたことないよー!』

『知らないアイテムばかり!』

『知らなすぎて性能がワケワカメ!』

『値段が性能の凄まじさを語ってるのか!?』

『全部でいくらになるんだよ!』

『総額いくら!?』

『電卓電卓!』

『待て待て、いま日本円に換算したのを出すから――』


 願いましては……。


武器:聖女の戦棍    ¥75,000,000(7500万円) 

 盾:護るもの    ¥250,000,000(2億5000万円)

 頭:転移の冠     ¥25,000,000(2500万円)            

 鎧:氷雪の鎖帷子  ¥150,000,000(1億5000万円)

籠手:螳螂とうろうの籠手    ¥15,000,000(1500万円)


魔道具マジックアイテム

   滅消の指輪    ¥20,000,000(2000万円)

   示位の指輪    ¥5,000,000 (500万円)

   回復の指輪   ¥300,000,000(3億円)

    棘の指輪    ¥15,000,000(1500万円)

    炎の指輪   ¥250,000,000(2億5000万円)

   抗魔の首飾り  ¥200,000,000(2億円)

   魔女の護符        不明


 〆て………………12億3300万円。

 

 エバさんあなたは……歩く身代金。



--------------------------------------------------------------------

ご視聴ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

--------------------------------------------------------------------

実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る