推しの子の迷宮 ~迷宮保険員 エバのダンジョン配信・第一回~ 世界で唯ひとり蘇生の魔法を授かった最強聖女さまは、全滅した人気Dチューバーを生き返らせて華麗にバズります

井上啓二

case1 レ・ミリア 's

地下一階

第1話 推しの子、還らず★ 

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212221432777


 人気ダンジョンチューバー、“レ・ミリア” のパーティが全滅した。

 チャンネル登録者数が二〇〇万を超え、全員がレベル8以上に認定される古強者ネームドパーティの最期はあっけなかった。

 迷宮の四階を探索中に “緑竜ガスドラゴン”の群れに驚かされ、一斉に竜息ブレスを浴びたのだ。

 “緑竜” の竜息は強酸性のアシッドブレス。

 ドロドロに溶かされていくパーティの断末魔の姿が、世界中に配信された。

 美人Dチューバーとして圧倒的な人気を誇っていたレ・ミリアがカメラから外れていたのは、本人にとっても視聴者リスナーにとっても幸運だったと思う。

 コメント欄には翌日になっても、猛烈な勢いで書き込みが続いていた……。


『まじかよ……』

『全滅!? 誰も還ってないの!?』

『ギルドのサイト確認してみろ』

『ご冥福をお祈りいたします』

『え!? うそ、レ・ミリア死んじゃったの!?』

『再生数稼ぎのやらせだろ。ガチなわけないじゃん』

『↑は空気読め。おまえが死ね』

『↑↑死ね』

『上ふたつも似たようなもんだ、死ね』

『嘘だと言ってよ、レ・ミリアーーー!』


 突然の悲劇を受け入れられない視聴者の憤りが、物凄い勢いで流れていく。

 僕も何かコメントしようとして……指が止まってしまった。

 ずっとレ・ミリアのファンだった。

 彼女が配信を始めた頃から欠かさず視聴してきた。

 彼女は明るくて、優しい子だった。

 パーティの仲間や視聴者をいつも気づかっていた。

 ただ顔がよくて強いだけのDチューバーじゃなかった。

 茫然自失はポッカリとした喪失感に……そして悲しみに。


『今まで……ありがとう』


 涙が零れ、スマホに打ち込んだコメントが滲んだ。

 嫌だ……こんなの嫌だ。

 こんな終わり方なんて嫌だ。

 コメントを消し、怒りの籠もった指先で別のメッセージを打ち込む。


『僕は信じない! 絶対にレ・ミリアは――』


 その時、唐突にLIVEが始まった。 

 突然画面に現れた、白い僧帽・僧服姿の女の子。

 年の頃は一五~六才。

 大きな黒い瞳と同色の長く艶やかな髪の少女が、カメラに告げた。


《レ・ミリアさんのチャンネルをご覧の皆さん、初めまして。わたしは迷宮保険員のエバ・ライスライトです。これからレ・ミリアさんとの契約に基づき、彼女の回収ミッションを行ないます》


「……はい?」


 呆気にとられる僕。

 おそらく――いや絶対に世界中で何十万もの『……はい?』が漏れたに違いない。


 次の瞬間、


『誰コレ!?』

『乗っ取り!?』

『ハイジャック!?』

『ツーホーしますた!』

『誰だよ、おまえ!』

『迷宮保険ってなんだよ?』

『だからやらせだって』

『エバちゃんだっけ? 結構可愛いな』

『通報した』

『迷宮保険? なにそれ?』

『今北産業』


 さらに凄まじいコメントの奔流ほんりゅうが画面を席巻した。


(迷宮保険!? 迷宮保険員!? なんだよ、それ!? 聞いたことないぞ!?)


 僕はスマホにかじりついて、カメラの奧の少女を睨み付けた。


《これは乗っ取りハイジャックではありません。今からその証拠をご覧にいれます》


 エバと名乗る少女がそういうや否や映像が切り替わり、


《は~い! レ・ミリアです! こんばんは? こんにちは? みんな元気かな?》


 画面にレ・ミリアの姿が映った。


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16818023212221508697


 いつもと変わらない、戦闘用の厚手の鎧下クロース胴鎧ブレストプレートという軽戦士ライト・ファイタースタイル。

 肩に掛かったセミロングが快活に揺れる……一八才の日本人の女の子……。

 

《わたしは……あははは、この動画をみんなが視てるってことは、元気じゃないってことだよね。

 はい、そうです。わたしは死んでしまいました。

 どんな最期かだったわからないけど、それは多分みんなの方が知ってるでしょう。

 これまでわたしたちのパーティを応援してくれて、ありがとう。

 そしてごめんね、こんなことになっちゃって。

 みんなのこと、本当に大好きだったよ》


「レ・ミリア……レ・ミリア……」


 再びボロボロと涙が零れて、スマホの中のレ・ミリアが滲んだ。 

 

《でも大丈夫! なぜならこういう時に備えて、わたしたちはある保険に入っていたからです! それが探索者が迷宮で全滅した場合に死体を回収して蘇生させてくれる保険――すなわち『迷宮保険』なのだ! ドンドンパフパフ!》


(蘇生!? 今、蘇生っていったの!?)


《すべては保険員のエバちゃんに任せてあるから、彼女を応援してあげてね。

 あと救出ミッションはLIVEで配信してくれるように頼んであるから。

 いやぁ、死んだあとでも再生数が稼げるなんて、我ながらナイスアイデアだわ!

 それじゃ、生き返ったらまた会おうね! し~ゆ~あげいん!》


 カメラに向かって手を振るレ・ミリアの、あっけらかんとした笑顔が消える。

  

《ご覧いただいたとおり、わたしはレ・ミリアさんのパーティと正式な契約を結んだ保険会社の人間です。契約に基づき、これより彼女たちの回収&蘇生ミッションをLIVE配信でお届けします》


 僕に――そして世界に激震が走った。



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ご視聴、ありがとうございました

初めまして、エバ・ライスライトです

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330664500892575

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エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

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実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

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