第26話 聖魔送還★

 それは聖銀に輝く騎士だった。

 聖女の召喚に応え、彼女を救うべく現れた。

 騎士がまとうは、五つの武具。


 ひとつは、兜。

 ひとつは、鎧。

 ひとつは、盾。

 ひとつは、篭手。

 ひとつは、剣。


 それぞれに象嵌された大粒の金剛石ダイヤモンドが七色の光彩を放つ、聖銀の装具たち。


「あの装備……あの騎士は」


《……そうクマ、あれこそ強大な天敵に蹂躙されるしかない、か弱い人間を憐れんだ女神ニルダニスが造り与え賜ふた、“伝説の武具”

 埋め込まれた神石の加護により、致命クリティカル石化ストーンポイズン吸精エナジードレイン 。あらゆる状態異常に完全に抵抗し、巨人ジャイアント不死属アンデット竜属ドラゴンアニマル魔族デーモン、あらゆる敵の攻撃を減殺する。

 剣には風の、兜には氷の、鎧には護りの、盾には癒やしの、そして篭手には究極の破壊の尽きることのない力を宿し、資格所有者の求めに応じ次元回廊を通じてあらゆる時空に出現窮地を救う。

 対高次元生命体天使・悪魔究極決戦兵器 “K.O.D.sナイト・オブ・ディスティニー・シリーズ” と、その主――聖女の守護者 “運命の騎士ナイト・オブ・ディスティニー” クマ》



https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330665548099987

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669170193912

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669170280338

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669170337440

https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669170393003



「運命の……騎士」


《そしてエバの社長でもあるクマ》


「なっ――」


『『『『『『『『『なんだってーーーーーーーーっっっっ!!?』』』』』』』』』


『社長キタ━(・∀・)━!!!!』

『キタキタキタキタ━━━(゚∀゚≡(゚∀゚≡゚∀゚)≡゚∀゚)━━━━! 社長さんキタ━(・∀・)━!』

『シレッと重大発言キタ━(・∀・)━!!!!』

『ここで社長さん登場!!!』

『社長ってあの、うさん臭い保険会社の社長!?』

『灰の道迷宮保険の社長!』

『シャチョーさん凄い人だった!?』

『個人スキル「社長召喚」!?』

『社長、伝説の勇者!?』

『伝説の勇者の社長の伝説!?』

『EVA'S PRESIDENT!!?』

『Yah, He is Jedi Knight!!!』

『No! He is Jedi Master!!!』

『Master Yoda, Advent!』

『Yah! May the force be with you!!!』


 これまで固唾を呑んでいた視聴者リスナーのコメントが、堰を切ったように溢れる。

 それは “闇王ダークロード” の放つ絶望の呪縛が解けたことを意味していた。

 希望はまだある。

 闇を照らす光はまだ、まだ点る。


《はぁ、はぁ――次の加護は時間が掛かります。それまでお願いします》


 エバさんが肩で息をしながら、自分をかばって立つ “運命の騎士” に告げる。

 シールドバッシュの一撃で “闇王” を吹き飛ばした騎士は、返事の代わりに長剣の鞘を払った。

 蒼白い聖光オーラを刀身から昇り立たせるロングソード


《“エセルナード” クマ! 魔族特攻で悪魔系二倍打撃の退魔の聖剣クマ!》


 熊さんの説明が呼び水となったように、光と闇ふたりの君主ロードの人智を超えた戦いの幕が切って落とされた!

 退魔の聖剣と暗黒の大剣が打ち合う度に、目に見える衝撃波ソニックブームがカメラを揺らす!


 一合! 十合! 二十合!


 両者一歩も引かず、打ち合い続ける!

 強大な魔法を使っているわけじゃない!

 強力無比な呪文を撃ち合ってるわけじゃない!

 ただ足を止めて斬り結んでいるだけなのに玄室の大気が、迷宮が身震いしていた!

 これまで視た最も激しいダン配が、子猫のじゃれ合い以下に見える凄絶な戦い!

 桁が違う!

 次元が違う!

 役者が違う!

 これは勇者と魔王の――伝説級の戦いだ!

 聖銀と漆黒の鎧が、退魔と暗黒の大剣が、いっさいの魔法も特殊能力も使わずに、ただただ殴り合っている!

 

《慈母なる “ニルダニス”よ―― “神癒ゴッド・ヒール” !》


 エバさんが祝詞しゅくしを唱え、骨折した左腕に癒やしの加護を施す!

 見る見るエバさんの顔から苦痛の表情が消えて、左腕は再び重い盾を持ち上げた!

 “神癒” だって!?

 こんな癒やしの加護は視たことない!


《聖職者が使える最高の癒やしの加護クマ! デッド以外のあらゆる状態異常を治し、瀕死の状態からでも生命力ヒットポイントを全快させるクマ!》


 撃剣の衝撃波に翻弄されながら、熊さんが説明する!

 “運命の騎士” と “闇王” が打ち合う度に、激しく映像がぶれる!

 暴れ回るカメラを懸命に抑えながら、決死の実況を続ける熊さん!

 魔法で吹き込まれた命を燃やして "熊の置物STATUE of BEAR" はカメラを回し続ける!

 そしてエバさんは怪我を癒やすなり目を閉じて、次の――おそらくは最後の加護の精神統一を始めていた!


 ガンンンンンッッッッ!!!!!! ガンンンンンッッッッ!!!!!!

 ガンンンンンッッッッ!!!!!! ガンンンンンッッッッ!!!!!!

 ガンンンンンッッッッ!!!!!! ガンンンンンッッッッ!!!!!!

 ガンンンンンッッッッ!!!!!! ガンンンンンッッッッ!!!!!!


 まるでお互いに大砲を撃ち合い、砲弾をぶつけ合っているかのような一騎打ち!

 “闇王” が “闇王” なら、“運命の騎士” も “運命の騎士” だ!

 

 ビシッ!!!


 その時マイクが極大の撃剣のそれとは違う、もっと不吉な破滅の兆しを拾った!


 ビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシビシ!!!

 

 壁に、天井に、床に、玄室一面に走る大小の亀裂!!!


「マズい、迷宮が崩れる!!!」


 光と闇ふたりの超常の騎士の壮絶な意地の張り合いは玄室を――迷宮を揺るがし、ついに限界点を突破してしまった!

 階層フロアの天井が崩落すれば、瓦礫の重さは数百トンから数千トン!

 いや連鎖的に崩壊が広がれば、迷宮それ自体が地中に埋没してしまうかも!


《マ、マズいクマ! マズすぎるクマ! 社長は “闇王” を抑えるのに手一杯だし、エバはデカい加護を嘆願するためにトランス状態クマ! いくらクマが『奴らを何百万もブチ殺した』剛の者でも、崩れる迷宮を支えることはできないクマー!》


「エバさん、逃げて!!!」


 叫んでおきながら、不可能だってわかっていた!

 迷宮が崩れるんだ!

 迷宮が崩れるんだぞ!

  “転移テレポート” の呪文でも使わないかぎり、逃げられっこない!

 詰んだ! 詰んだ! 詰んでしまった!


“いいえ、詰んではいないわ”


 ――その時、唐突に頭の中に声が響いた。


“わたしが支えてあげるから大丈夫”

 

 まるで聖鈴の音のような清澄な声が告げる。

 画面一杯に、純白の羽根が舞う。

 無数に舞う羽根の中にたおやかに現れた、緑衣の少女。

 長く波打つ黄金の髪。

 白磁さえくすんで見える透き通るような肌。

 紺碧よりも鮮やかな青い瞳。

 もし世界に究極の美があるとするなら、この少女だけがそれに価するだろう。

 人間を超えた美。

 人成らざる者の至高の美しさ。

 背中の三対の翼が広げられ、迷宮の鳴動が止まる。

 

《ガブリエル! 降りてきてくれたのか、クマーー!!!》


「ガ、ガ、ガ、ガ――」


『『『『『『『『『ガブリエルだってーーーーーっっっっ!!?』』』』』』』』』


 ガブリエルって――ガブリエルって――!!?


https://kakuyomu.jp/users/Deetwo/news/16817330669171688786


“ライスライト、そろそろ決めてしまいなさいな”


 熾天使セラフの言葉に、聖女の瞳がカッと見開かれる!


我が主君トレバーン陛下マイ・ロード・トレバーン。あなたは魔界の斬り取りにお忙しいはず。それがあなたの選んだ道。ご自身のいるべき場所にどうかお戻りください!》


 そしてエバさんが決着の意思を込めて、最後の祝詞しゅくしを唱える!


《五芒描きて闇を祓い六芒描きて闇に還す! 聖のことわり魔の理! 女神ニルダニスと大魔女アンドリーナの力て、その代弁者たるエバ・ライスライトがここに命じる! 永劫の闇に還れ、アカシニアス・トレバーン! Kal thea Acasinia ――聖魔送還モ・ガ・ト!》


 豊かな黒髪が輝く銀色に変わり、僧衣の胸元に秘められていた護符アミュレットが燦然と紫の光を放つ!

 巨大な五芒星と六芒星が玄室の床に交互に浮かび上がって魔界との通路ゲートを開けば、抗うことのできない聖と魔の理のうずが、魔王に比肩する闇の君主を呑み込んでいく!


 一〇〇〇パーセント正念場!


 ここが! 今が! この一瞬が! 

 すべての運命を決めるまさにその時!


エバAndrinaアアアァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーアアアアッッッッ!!!”

 

「還れ! 還ってしまえ! 闇の中へ、闇の底へ還って二度と――二度と出てくるなぁぁぁぁぁ!!!」


 “闇王” の断末魔の叫びを僕の絶叫が打ち消したとき、ゲートは閉ざされ、闇に堕ちた希代の英雄は迷宮から消え去っていた。



--------------------------------------------------------------------

ご視聴、ありがとうございました

エバさんが大活躍する本編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16816410413873474742

--------------------------------------------------------------------

実はエバさん、リアルでダンジョン配信をしてるんです!

エバさんの生の声を聞いてみよう!

https://www.youtube.com/watch?v=k3lqu11-r5U&list=PLLeb4pSfGM47QCStZp5KocWQbnbE8b9Jj

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る