第9話(1)覇道に挑む

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「ぐっ……」


 姫乃が崩れ落ちる。織田桐が軽く頭を抑える。


「へっ、以前戦ったときほど魂力も魂破も戻ってきてねえじゃねえか。よくそれで俺様に挑んでこようと思ったな……」


「むうう……」


 姫乃はなんとか立ち上がろうとする。織田桐が声をかける。


「……灰冠、生徒会に来ねえか? お前が来てくれるなら心強いぜ」


「……断る!」


「そうか、上を目指すために必要な人材だと思ったんだが……そこまで反抗的な態度を取られちゃしょうがねえな……この辺で消えろ!」


「!」


 織田桐の繰り出した攻撃を姫乃はふらふらの状態ながらなんとかかわす。織田桐は驚く。


「その状態でかわすとは、全くしぶとい女だな」


「……」


「おいおい、もう意識がほとんど無えんじゃねえか?」


 そんな2人のやりとりを見ながら、超慈は呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。織田桐の放つ圧倒的な魂破に圧され、動くこともままならなかったのである。その代わりに思考能力は働いていた。


(部長が手も足も出ないなんて……織田桐の魂道具……出所が速くて、目で追えない……これがこの高校トップレベルの『合魂』!)


「そろそろマジで終いにするぜ……」


(! な、なんとかしないと! 出来るのは俺だけだ! で、でも、情けないことに体が震えてまともに動かねえ! あのマント男の魂力にビビっちまっているんだ……! だ、だけど、どうにかしねえと! くそ! 動け! 俺の手と足と体!)


「灰冠もここでお持ち還りか……ちょっと勿体ない気もするな~」


「会長……」


「うおっ⁉ な、なんだよ鈴蘭。いきなり脇から顔を出すな。きれいな顔でもビビるぜ」


「きれいな顔……」


 小森は織田桐の言葉に両頬をポッと赤くする。


「そういうことではないでしょう、しっかりなさって下さい小森殿……会長」


 代わりに海藤が織田桐に話しかける。


「まさか、生徒会にこれ以上お邪魔虫……もとい、会員を増やすおつもりですか?」


「こんなマンモス高だ、会員が多いに越したことはないだろう」


「お声をかけるお相手は女子生徒がほとんどのような気がするのですが」


「き、気のせいだろう」


「いいえ、気のせいではありません!」


 織田桐の言葉に海藤は首を激しく左右に振って否定する。


「そ、そうか……?」


「そうなのです!」


「副会長は少し気にし過ぎですわ」


 駒井が口を開く。織田桐はうんうんと頷く。


「そ、そうだ。胡蝶は少し神経質になり過ぎだ。俺まで頭が少し痛くなってきやがった……」


「会長の学校での活動サポートは鈴蘭ちゃんが、プライベートでのサポートはこの喜が、それぞれ万全に行っておりますし、これ以上の会員を増やす必要はないという点は同意です」


「……プライベートのサポートはわたくしも行っておりますが?」


「ああ、一応ね。最優先のお相手はこの喜ですから」


「一応……? 最優先……?」


 海藤の美しい顔がみるみるうちに曇っていく。織田桐は露骨に慌てる。


「あああ! その、あれだ、皆色々と都合があるからな! そう、それぞれのスケジュールが合わないことがあるのは仕方がない!」


「鈴蘭に関してはスケジュールの合間を縫って、色々と素晴らしいご指導ご鞭撻を頂けるのはありがたい限りです……」


 小森が赤らんだままの両頬を両手でそっと抑える。織田桐が声を上げる。


「す、す、鈴蘭! 余計なことは言わんで良い!」


「ふ~ん? どうやら鈴蘭ちゃんの方が副会長より優先度が高いみたいですよ?」


「よ、喜! 変に胡蝶を煽るのは止めろ!」


「会長……」


 海藤が恐ろしく低い声で織田桐に話しかける。


「ええっと、その点に関しては戻ってから話し合うとしよう! うん、それが良い! 帰ったら一風呂浴びたくなってきたな~」


「バスタイムデハ、カイチョウ、コンヤモカワイガッテクレルノカ?」


「エ、エウジーニョ⁉ き、貴様、何を言い出すんだ⁉」


「これはまた……会長、手当たり次第ですね~」


 駒井が冷ややかな視線を織田桐に向ける。織田桐が両手で頭を抱える。


「いやいや! それは違う! なにかの間違いだ! ふざけんな!」


「……詞だ!」


「うん?」


「こっちの台詞だ! ふざけんなよ!」


 怒りに燃える超慈が魂択刀を構え、織田桐たちの前に飛び出す。


「あ、お前、いたのか……何をそんなに怒っているんだ?」


「綺麗なお姉さん2人に飽き足らず、美少年を侍らせ、さらにはガチムチエンジョイバスタイムだと⁉ 覇道だかなんだか知らないが、人の道を外れるのもいい加減にしろ!」


「……もの凄い魂力の高まりを感じます」


 小森が冷静に分析する。織田桐が頷く。


「ああ、魂破もビンビン感じるぜ……ただの雑兵かと思ったが、こいつは意外な伏兵か?」


「自分が相手しましょう」


「いや、下がってろ、鈴蘭……こういう奴との魂破のぶつかり合いが合魂の醍醐味だぜ」


「大丈夫ですか?」


「俺様を誰だと思っている?」


「……失礼しました」


 小森たちが織田桐から離れる。織田桐が高らかに笑う。


「ここまでの魂力は最近、お目にかかってないぜ! お前、楽しませてくれそうだな!」


「余裕ぶってんじゃねえ!」


 超慈が勢いよく斬りかかる。


「ほう、二刀流か! なかなか良い踏み込みじゃねえか! しかし、剣術自体は随分とまた……粗削りだな!」


「偉そうに論評している場合か! もうすぐあんたの体に刀が届くぜ!」


「そうはいかねえよ!」


「なっ⁉」


 超慈の振るった魂択刀が弾かれる。超慈はやや後退する。織田桐がニヤリと笑う。


「勢いはそれまでか?」


(間違いない、魂道具を使っているはすだ。しかし、やはり速度が速くて目で追うのが困難だ……相手の魂道具が分からなければジリ貧だ……)


「足りない頭で考えてたって、圧倒的な実力差は埋まらねえよ!」


「!」


「なっ! 目を閉じただと⁉」


(俺の魂道具を信じる! ……魂のコアは……そこだ!)


「むっ⁉」


「手ごたえあり! 魂道具を破壊出来たはず!」


「破壊とまではいかねえが……ヒビを入れやがったな……お前、名前は?」


「え……ゆ、優月超慈だ!」


「そうか、超慈……てめえはここで潰す!」


「⁉ うおっ!」


「⁉ き、消えやがった……? 妙な魂道具持ちが残っていやがったか……」


「他の連中も揃って姿を消しました。後は我々で追いかけますか?」


「いや、いい……力の差は示した。奴らの心はすっかり折れたはずだ……戻るぞ」


 織田桐はマントを翻し、悠然と歩き出す。

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