第3話(1)因縁なしの方も安心

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「どうした?」


「いや、それはこっちの台詞ですよ……なんですか猫駆除って」


「下克上だ、これをよく読め」


 姫乃が張り紙をドンと叩く。そこには墨で文字が書かれている。超慈が目を凝らす。


「ああ、下克上ですか……すんません、あまりに達筆過ぎて……」


「だからと言って、そんな読み間違いはしないだろう……まあいい」


「下克上というのが、あまり意味が分からないって感じだし……」


「確かにな……正直馴染みがないし」


 瑠衣の言葉に仁が頷く。


「『下の者が上の者に打ち勝って権力を手中にすること』だろう。戦国時代の流行語・社会の風潮みたいなものだな」


 亜門が口を開く。姫乃が満足そうに頷く。


「おっ、さすがは寺生まれだな」


「寺がどうとかは関係ないでしょう……一般常識です」


「意味は理解しましたが、それがなんなのでしょう?」


 超慈は姫乃に尋ねる。姫乃が首を傾げる。


「……分からんか?」


「ええ、さっぱり」


「どの辺がさっぱりだ?」


「え? ええっと……」


「……そういった目標を傾げているということは、この部の上位に位置する存在がいるということですね?」


 言葉に詰まった超慈の代わりに亜門が尋ねる。姫乃がふっと笑う。


「……なかなか鋭いな」


「ちょ、ちょっと待って下さい。合魂部の上位に位置する存在? 部活動とはそれぞれ独立しているものでしょう?」


 超慈が戸惑う。瑠衣が頷く。


「うん、それはそうでござるな……」


「まさか、強豪チームにありがちなAチーム・Bチームに分かれているとか⁉ お前らはまだレギュラーにはほど遠いとか!」


「いや、なにをわけのわからないことを言っているんだよ。仁、少し落ち着け」


「超慈……ああ、そうだな……」


「いや、外國の言ったことは当たらずも遠からずだ……」


「ええっ⁉」


 姫乃の言葉に超慈は驚く。亜門が冷静に口を開く。


「……どういうことですか?」


「この学校内で、合魂道を極めようとすると、『競合』するチーム・団体がこの学園内にはとても多いのだ!」


「多いって……どれ位ですか?」


「……規模の大小を考えなければ10組以上だな」


「け、結構多いし……」


 仁から問いかけられた姫乃の答えに瑠衣が戸惑う。亜門がため息交じりで語る。


「……この合魂部はその複数存在する団体の中でも下に位置する方だと?」


「まあ、下克上とは言ったが、実際は中の下くらいじゃないか?」


「そ、それでも、中の下⁉」


 姫乃の言葉に超慈が戸惑う。姫乃は笑う。


「貴様らが加わってくれたことで、中の上くらいには戦力アップだ」


「お、俺ら一年が入ったくらいでそんなに変わります?」


「当然だ、この半年、実質私1人だったからな」


「ええっ⁉」


「これで上位に位置する連中に一泡吹かせられる……」


「ちょ、ちょっと待って下さいね……一年、集合」


 超慈が声をかけ、部室の端っこに一年4人が集まる。そして小声で話し始める。


「ど、どう思う?」


「……なんでお前が仕切るんだ、ナード」


「それはいいだろう、この際。どうする? 今ならまだ間に合うんじゃないか?」


「間に合うとは?」


「決まってんだろう鬼龍ちゃん、入部を見送るって判断だよ!」


「超慈! 声が大きい!」


 仁が慌てて超慈を制止する。姫乃が口を開く。


「不安な気持ちはよ~く分かる」


「あ……聞こえちゃいました?」


 超慈が苦笑を浮かべる。姫乃が話を続ける。


「とはいえ、この合魂部で上位陣に合魂を挑むのはそれなりの理由があるのだ」


「理由?」


「これを見ろ」


 姫乃が5枚の写真を部室の机に広げる。超慈たちがそれを覗き込む。


「「「!」」」


 超慈以外の3人の顔色が変わる。姫乃が淡々と続ける。


「お前らのよく知っている顔がいるだろう? こいつらをなんとかすることが出来るのは我々合魂部だけだ」


「委細承知……」


「よく分かったぜ」


「確かにな……」


「あ、あの……?」


 超慈が申し訳なさそうに姫乃に尋ねる。


「ん? なんだ優月?」


「なんか皆、因縁の相手を見つけたぞ! みたいな感じで静かに闘志を燃やしているのがひしひしと伝わってくるんですが……」


「うむ、引き締まった良い表情をしているな」


「お、俺だけ、特に因縁の相手がいないんですが……」


「なんだ~貴様持っていないのか? 因縁?」


「まるで持っているのがデフォみたいな言い方やめて下さいよ……」


「まあ、我が部は『初心者歓迎! 因縁なしの方も安心!』とポスターに書いてあるから」


「安心って……」


 姫乃が超慈の肩をポンと叩く。


「そう焦るな、きっと良い因縁が見つかるさ」


「見つからないに越したことはないと思うんですが……」


「それで? どうしますか、部長?」


 亜門の言葉に姫乃と超慈が振り返る。亜門ら3人は気合の入った表情をしている。


「気合十分だな。ただ、焦るなよと言いたいところだが、連中の方が先に本格的に動き出す可能性があるな……先に仕掛けるのもありか……」


「連中?」


 超慈が首を傾げる。


「今日の昼間、貴様らを襲った連中だ」


「あ、ああ……」


「見当はついているんですか?」


「もちろん」


 亜門の問いに姫乃が頷く。仁が尋ねる。


「誰ですか?」


「普通科の連中だ……『合魂倶楽部』のメンバーたちだな」


 姫乃が1枚の写真を指差す。瑠衣の顔色が変わる。


「!」


「根城にしているのは、どうやら図書館のようだ」


「‼」


「うおっ⁉ 鬼龍ちゃん⁉」


 瑠衣が凄まじい速さで部室を飛び出したことに超慈たちは面食らう。

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