第2話(4)講評と役割分担

「……ふぅ~」


 超慈はベンチ近くの階段に腰を下ろし、鞄からペットボトルを取り出して、水を飲む。


「……バトルフィールド化は解除されたな。襲われることはない」


「それは何よりだし~」


「連戦ってなるとさすがにしんどいぜ……」


「はあ……」


 姫乃の言葉に超慈以外の3人も緊張の糸が切れたように地面に腰を下ろしたり、フェンスによりかかったりする。姫乃がふっと微笑む。


「かなり消耗したな。しかし、よく切り抜けた。個々の戦闘もなかなかのものだったが、最後に見せた連携は実に見事だったぞ」


「そ、それはどうも……」


 超慈が頭を下げる。姫乃が笑顔から急に真面目な顔つきになって話を続ける。


「……個々の講評に移ってもいいか?」


「個々の?」


「ああ、優月超慈、貴様はなかなかの運動能力かつ攻撃センスも感じられた」


「あ、ありがとうございます……」


「しかし、私が着目したポイントは別だ」


「え?」


「昨夕の、そして先ほどの大柄な体格の者からの攻撃を受け止めることの出来るパワー。その細身のどこから繰り出されるのか不思議だが、貴様は『タンク』だな」


「はっ? タ、タンク……?」


「その手のゲームはやったことがないか? 簡単に言えば盾役だ」


「た、盾ですか? い、いや、魂道具はせっかくの二刀流なわけだし、もっとこう……切り込み隊長的なポジションは?」


「ざっと見たところ、確かにセンスは感じるが、他の3人に比べれば、戦闘能力はまだそこまでではない。体力不足なところも若干マイナスだな」


「そ、そうですか……」


 姫乃の言葉に超慈は肩を落とす。亜門は笑う。


「はっ、ナードにはやっぱり荷が重かったか」


「うるせえな! ……半年間の受験勉強で体がすっかりなまっちまったんだ……お、俺は本当ならもっとやれますよ!」


 超慈は立ち上がって叫ぶ。姫乃が落ち着かせるように話す。


「落ち着け、潜在能力はひしひしと感じている。そう焦るな……タンクと言ったが、そこまで厳密なロール、役回りというわけではない。基本は攻撃を優先して動いて構わん。ただ、味方と共に行動する際はそういう立ち回り方も頭に入れておいてくれ」


「は、はあ……分かりました」


「……というわけでこの中で『アタッカー』の役割を任せたいのが……鬼龍瑠衣、貴様だ」


「せ、拙者! じゃなくてウチ⁉」


 姫乃の言葉にベンチに腰を下ろしていた瑠衣は驚いて立ち上がる。


「ああ、一体どこで学んだか知らんが、見事な体術を織り交ぜた戦い方だった……純粋な戦闘能力ならこの中でもトップだろう」


「へへっ……なんだか照れるでござるし!」


 瑠衣が恥ずかしそうに鼻の頭をこする。


「……異議あり」


 亜門が気だるげに片手を上げる。姫乃が首を傾げる。


「ん? なにか不満でも?」


「体術に関しては確かに認めます。ただ、そのござるニン女はやや軽量すぎる。前衛を張ることになるアタッカーとしてはパワー不足なのでは?」


「ござるニン女って!」


 亜門の言葉に瑠衣がムッとする。姫乃が口を開く。


「優月にも言ったが、そこまで厳密な役割分担というわけではない。対戦する相手との相性などもあるからな。その辺は臨機応変に対応していけばいい」


「……そんな回りくどいことをしなくても、この俺を不動のアタッカーに据えればそれでいいだけのことだ」


 亜門は自らの胸を指し示す。姫乃はそんな不遜な態度を咎めるでもなく、冷静に話す。


「もちろん、相手にとってはアタッカーとしての役割を果たしてもらうこともあるだろうが、それよりも礼沢亜門……貴様には大事な役割がある」


「え?」


「『ヒーラー』だ」


「はあっ⁉」


 姫乃の言葉に亜門が驚く。


「貴様はさきほどの戦いで魂旋刀を地面に突き刺し、魂力を補充した。あれはどういうからくりだ? 皆にも分かるように説明してくれないか」


「地面には倒れこんだ奴らの残存魂力みたいなものが溢れていた……」


「魂力が分かるのでござるって感じ?」


 瑠衣が亜門に尋ねる。


「はっきりと視認できるわけではない。ただ、なんというか……感じ取るというのかな。それによって奴らの吸収されていない魂力を魂道具で集めることが出来た。それから逆の要領で集めた魂力をお前らに注入した……ってわけだ」


「な? ヒーラーだろ?」


「でござるな」


 姫乃の言葉に瑠衣がうんうんと頷く。亜門が戸惑う。


「ちょ、ちょっと待て! よく考えてみろ! 戦闘スタイルを鑑みても、俺が前衛に構えていた方が絶対に良いはずだ! ん⁉」


 亜門の肩に超慈がそっと手を置く。


「ふふふ……」


「な、なんだ、ナード!」


「ネトゲでヒーラーやってそう……」


「⁉ ぐうっ……」


 超慈が耳元で囁くと、亜門は口惜しさを押し殺しながら黙る。姫乃が首を捻る。


「……よく分からんが、納得してもらったか? まあ、役割分担はこんな感じだな」


「ちょ、ちょっと待って下さいよ! 俺は⁉」


 仁が慌てて声を上げる。


「あっ……」


 姫乃はそっと目をそらす。


「いや、なんで目そらすんすか⁉ 俺にも講評と役割下さいよ!」


「忘れていたとは言えない……」


「言っちゃってるし!」


「冗談だ、外國仁、意外性のある魂道具を上手く使いこなしていたな。よくやっていたぞ」


「ありがとうございます! ……役割は?」


「え? そ、そうだな……『メイカー』だ」


「メイカー……? 俺もそういうゲームに詳しくないからあれだけど、そんな役割ある?」


「ム、『ムードメイカー』や『チャンスメイカー』は合魂では重要だぞ!」


「おおっ! 合魂ならではの役回り! なんだか燃えてきましたよ!」


「……今思いついたとか言えないな」


「……言っちゃってますけど」


 小声で呟く姫乃に対し、超慈が突っ込む。幸い仁の耳には届いていない。


「と、とにかく入部への決意は固まったようだな。放課後、部室に集合だ」


 姫乃の言葉に従い、放課後、超慈たち4人は『合魂部』の部室前に集まった。仁が呟く。


「校舎内に普通にあるんだな、部室……」


「今度は一体何の用でござるかな? またチュートリアルだったらウケる」


「ウケねえよ……まずは昼間の連中の説明をして欲しいところだ……」


 瑠衣の問いに亜門が答える。超慈が口を開く。


「それもそうだが、まず魂力の高みを極める目的を聞きたいぜ……入ります」


 ノックした後返事があり、超慈たちが部室に入ると、姫乃が壁に紙を貼って振り返る。


「来たな……我々『合魂部』、当面の目標は……『下剋上』だ‼」


「ええっ⁉」


 姫乃の意外な宣言に超慈たちは驚く。

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