第11話(2)色々と仕込む

「おらおらあっ!」


「どあ!」


 建物の南側の出入り口で燦太郎が見張りの生徒たちを手当たり次第に蹴り倒す。


「よっしゃ……この辺はもう大丈夫っす、部長」


「……はあ」


 姫乃がため息をつく。燦太郎が首を傾げる。


「ど、どうかしたんすか?」


「いや……余計なことは何も考えずに突っ走れ!とは言ったが、まさかここまで何も考えなしだとは思わなくてはな……」


「お、俺だってそれなりに一応考えてますよ! 救援とか呼ばれたら面倒だから、一瞬で片をつけようとか……」


「そうか……まあ、それなら良い……よくやった」


「ありがとうございます!」


「さあ、どんどん行け!」


「はい! うおおおっ!」


 燦太郎が再び猛然と走り出す。姫乃がその後ろ姿を見ながら呟く。


「フォローやアシストは任せろとも言ったが、この分だと必要はなさそうか?」


 燦太郎が勢いよく階段を駆け上がると、見張りが数名、燦太郎に気が付く。


「む! なんだ、お前!」


「おらあ!」


「ぐはっ!」


「そらあ!」


「ぶはっ!」


 見張りを次々と倒して、燦太郎はどんどんと上の階に進む。


「へへっ! ここまでは順調だぜ!」


「ついていくのも一苦労だな……」


 姫乃が苦笑する。燦太郎が広いフロアに出る。


「ん? このフロアには見張りはいねえのか?」


「……!」


「どあっ⁉」


「燦太郎! ちっ!」


 姫乃が杖に倒れた燦太郎の足を引っかけて、強引に引きずりながら物陰へと隠れる。


「……」


「我ながら悪い予想ばかり当たるものだ……」


 姫乃が苦笑を浮かべる。


「……ぐっ」


「燦太郎、大丈夫か?」


「大丈夫っす! ぶほっ⁉」


 姫乃が燦太郎の口を掴むように抑える。


「もう無駄だろうが……少し声を抑えろ」


「ふ、ふぁい。わきゃりました……」


「結構。どうだ? どこを撃たれた?」


「脇腹を掠めただけです」


「そうか……」


「ひょっとしなくても銃撃されたんですね?」


「そうだ」


「一体誰です?」


「合魂愛好会会長、夜明永遠の仕業だ。魂道具は『魂天堕』……」


「なるほど、あれが噂の夜明先輩か……もっとも姿は見えないが」


 燦太郎が脇腹を抑えながら、ゆっくりと上体を起こす。姫乃が問う。


「本当に大丈夫か?」


「ええ、それよりどうします?」


「そうだな……打つ手は無いこともないな」


「ええっ? マジっすか?」


「マジっす」


 燦太郎の問いに姫乃は頷く。


「ど、どうするんですか?」


「この場合はむしろ……貴様のフォローが必要になってくるな」


「俺のですか?」


「ああ、そうだ」


「どうすれば良いですか?」


「ちょっと耳を貸せ……」


 姫乃が耳打ちする。燦太郎が驚いた顔をする。


「そ、そんなことで良いんですか?」


「ああ、構わん。ただ、恐らくチャンスはほぼ一回きりだろうな」


「わ、分かりました……」


「……準備が出来たら言ってくれ」


 燦太郎が体勢を立て直し、クラウチングスタートの体勢を取る。


「……準備出来ました」


「よし、3、2、1でスタートだ」


「はい」


「3、2、1、スタート!」


「っ!」


「⁉」


 燦太郎が物陰からやや距離のある、別の物陰に向かって全力で走る。夜明がそれに反応し、銃を放つが、今度は燦太郎を捉えることは出来なかった。燦太郎が笑みを浮かべて呟く。


「へっ、二度も撃たれるヘマはしねえよ……」


(あれが朝日燦太郎の魂道具、『魂武亜棲』か……やはり速いな。奴を仕留めるよりはやはり灰冠を狙った方が効率的だな……)


 夜明が様子を伺いながら考えを巡らす。そこに姫乃の声が静かに響く。


「……黙って狙い撃たれると思ったか?」


「なっ⁉」


「もらったぞ」


「⁉ ぐ、ぐはっ……」


 まさかの銃撃を喰らい、夜明が物陰から崩れ落ちる。


「燦太郎の動きにまんまと釣られてくれたな。お陰で貴様の場所が分かった」


「は、灰冠……」


 姿を現した姫乃を、夜明は信じられないという表情で見つめる。姫乃が笑う。


「そんなに驚いたか?」


「な、何をやった?」


「別に手品を用いたわけじゃない。魂道具を使ったまでさ」


「こ、魂道具だと?」


「そう……この『魂杖』をな」


 姫乃が杖を掲げる。夜明がハッとなる。


「ま、まさか……!」


「そのまさかだ。この杖は色々と仕込めるのでな。なかなか重宝するのだ」


 姫乃が笑いながら杖から銃口を覗かせる。


「くっ、仕込み杖だとは分かっていたはずなのに……私の負けだ」


 夜明が地面に寝転がる。燦太郎がそこに迫る。


「もらった!」


「待て、燦太郎!」


「! は、はい……」


 姫乃の制止を受け、燦太郎が動きを止める。姫乃が夜明に語りかける。


「銃弾に文を付けておいた。矢文ならぬ弾文だな……是非ご一考願いたい」


「……これは……」


「行くぞ、燦太郎。こいつはいい、優先すべきは生徒会だ」


「あ……ちょっと待って下さいよ!」


 颯爽と歩き出す姫乃の後を燦太郎が慌てて追いかける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る