第11話(3)連撃のマッチョ

「……あっ!」


「えっ⁉ 魂力反応低いところを選んだつもりなんだけど、もう止まれないから出て!」


「うおっと!」


 黒い穴から瑠衣と爛漫が転がり出てくる。


「……どうやら全員最初の関門は突破したみたいだね?」


「全員とは正直予想外ですね……」


 東口から上階まで上がってきたステラは楽しげに語りかけるが、亜門は素っ気ない。


「な、なんとかここまで来られた……」


「外國君、申し訳ありませんが、ここからが本番のようです……」


「マ、マジですか⁉」


 北口から階段を上がってきて、肩で息をしている仁に対し四季が事実を突きつける。


「よし! また広いフロアに出たぞ!」


「地図によればここからが生徒会フロアだ、超慈ちゃん、油断せず行こう!」


「オッケーっす! クリス先輩!」


 心なしか互いの距離を縮めているような超慈とクリスティーナも上がってきた。


「はあ……はあ……着きました」


「ご苦労、燦太郎」


「む、むしろ手負いの俺が運んでもらうべきだと思うんですが⁉」


 南側の階段を上がってきた燦太郎がもっともな疑問を口にする。姫乃は首を傾げる。


「私では貴様をおんぶ出来ない、仮に出来たとしても、スピード感を優先するべきだろう?」


「ま、まあ、それはその通りです!」


「ふむ……合魂部、誰一人欠けずにここまで来られるとは……皆よくやったな」


 姫乃が周囲を見回し、満足気に頷く。四季が冗談っぽく尋ねる。


「採点するのなら何点ですか?」


「80点以上だな。正直半数は脱落するかと思っていたからな」


「半数って……」


 超慈が頭を軽く抑える。


「しかし、全員無事にここまでたどり着いた。これで計画の目途も立った。あらためて礼を言わせてもらう、ありがとう」


 姫乃が皆に向かって深々と頭を下げる。ステラが手を振って笑う。


「そ、そんならしくないことやめましょうよ、姫乃パイセン。全員まったくの無事だったというわけではありませんし……」


「ステラの言う通りのようだな。礼沢、頼めるか?」


「もとよりそのつもりでしたよ……『充電』!」


 亜門が魂旋刀を地面に突き刺して、皆に魂力を補充する。燦太郎が笑う。


「へへっ、脇腹の傷も癒えて、力も大分みなぎってきたぜ!」


「礼沢、大丈夫か?」


「ええ。ただ、自分の魂力も限りがあります。全員フル回復できたわけではありません……」


「なに、それなりに動けるだけでも十分だ」


 姫乃は亜門の肩をポンポンと叩き、労をねぎらう。四季が尋ねる。


「それでこれからどうされます? 一点突破ですか?」


「守りは硬い、結局は各個撃破という形になるだろうな」


「またバディを組んで臨むということですか?」


「ああ、だが、バディを入れ替える」


「えっ⁉ ここに来てですか?」


「下の階層での戦いぶりは恐らく筒抜けだろう……虚を突くならこれしかない」


「それだけで十分でしょうか……?」


「そうは思って……一応仕込んでおいた」


「仕込んでおいた……! あなたは⁉」


「……」


 合魂部の後方にある人物が立つ。それを見て姫乃が笑う。


「賭けみたいなものだったが、とりあえず五分の一は当たったか?」


「……確かにこれなら相手の虚を突けそうですね。ただ、ここからもスピード勝負です」


「そうだな、皆休憩もそこそこなところ悪いが、次の合魂だ! これから言うメンバーでこの目の前にある大きな扉の部屋の攻略を頼む!」


 姫乃が四つの大きな扉を指し示す。超慈が呟く。


「大きな扉だな……ひょっとして?」


「生徒会の連中が待っている」


「マジか……」


「ビビったのか?」


「まさか」


「ふん……」


 超慈の言葉に亜門は笑う。姫乃が声を上げる。


「一番右の大きな扉、中運天クリスティーナと釘井ステラに任せる!」


「おっと、いきなりのご指名だね~♪」


「クリス、アタシが前に出る。援護は頼むよ!」


「おっけ~♪」


 ステラとクリスは互いの拳を突き合わせる。


「突入!」


 ステラは扉を蹴破り、中に入る。クリスがそれに続く。姫乃が部屋の銘板を見て呟く。


「生徒会庶務室か……」


「むっ! 広い部屋だ。流石は生徒会さまだね~♪」


「意外にきちんと整頓されたデスク以外はトレーニング器具だらけか……」


「っていうことは、この部屋の主は……」


「オレダ……」


「⁉」


 部屋の奥で汗びっしょりとなった巨体の男性が座っている。ステラが呟く。


「生徒会庶務、『エウゼビオ=コンセイソン』……」


「マタアウトハナ……」


「出来れば会いたくはなかったけどね」


 クリスティーナが苦笑を浮かべる。


「ココマデキテシマッタフコウヲノロウガイイ……」


「あいにく、後悔の類はもうし尽くしたの。悪いけどここで倒れてもらうわよ」


「お~言うねえ、ステラ♪」


「からかわないで、クリス」


「ごめんごめん♪ さて……」


 ステラとクリスティーナがエウゼビオを睨み付ける。エウゼビオはゆっくりと立ち上がり、汗をタオルで拭き、服を着替え、2人の前に立ちはだかる。


「オマタセシタ……」


「いいえ」


「ソレデハタマシイヲブツケアオウカ!」


「⁉」


 エウゼビオが一瞬で間合いを詰め、ステラを吹き飛ばす。ステラは部屋の壁にめり込む。


「ステラ⁉」


「だ、大丈夫……魂蒻をクッション代わりにしたから、衝撃はそれほどよ……」


「そ、それは良かった……ん⁉」


 エウゼビオが巨体を屈ませて、クリスティーナの懐に入る。


「モラッタ……」


「ダンスで動きを止めさせてもらうよ! ~~♪」


「オソイ!」


「なっ……⁉」


 エウゼビオの繰り出した攻撃をほぼまともに喰らってしまい、クリスティーナは俯けに崩れ落ちる。エウゼビオが自身の拳を見つめながら淡々と呟く。


「バックステップデクリーンヒットハサケタカ……シカシ、タチアガレマイ……」


「ぐっ……」


 クリスティーナが呻く。ステラが体を抑えながら呟く。


「これがエウゼビオ=コンセイソンの魂道具、『魂撲コンボ』……道具を特に必要としない、ただ、己の手足のみで繰り出せる……極めて特殊な魂道具」


「シイテイウナラ、コノキタエアゲタニクタイコソガコンドウグダ……」


 エウゼビオはわずかに笑う。ステラが睨み付ける。


「そういうドヤ顔いらないから……ムカつく」


「マダメハシンデイナイナ……ヤハリキケンダ、ココデツブス!」


「くっ⁉」


「はっ!」


「えっ⁉」


「ナッ⁉」


 その場にいる皆が驚いた。コーンロウヘアーをなびかせて、喜多川益荒男がエウゼビオの進撃を止めたからである。


「ほお~流石の馬鹿力だな……」


「なんでアンタが⁉」


「……ナンノマネダ?」


「両者とも大体似たような質問だな……面白そうな方に付く、それだけだ!」


「そ、そんな!」


 喜多川の発言にステラが困惑する。


「良いから、この巨体をなんとかしろ!」


「! 『糸魂蒻』!」


「ムッ!」


 無数の糸がエウゼビオの巨体に絡みつく。喜多川が指示を飛ばす。


「ドレッドヘアーの姉ちゃん、鼓舞を頼むぜ!」


「~~♪ 『奮い立て』!」


 なんとか立ち上がったクリスティーナが踊りを舞う。ステラが高らかに笑う。


「はははっ! 力がみなぎってきたわ! 喰らえ!」


「! グオッ⁉」


 踊りの効果で力が数倍に膨れ上がったステラはエウゼビオの巨体を軽々と持ち上げ、床に叩きつける。予期せぬ攻撃を喰らったエウゼビオはそれでも立ち上がろうとする。


「しつこいな! 姉ちゃん、俺にも頼む!」


「~~♪ 『燃え上がれ』!」


「おっしゃあ! 『地走』!」


「ガハッ……!」


 喜多川の地を這う魂平刀の攻撃をまともに受けたエウゼビオは仰向けに倒れ込む。


「お持ち還りといきたいところだが……こっちの魂力もいよいよ限界みてえだ……」


「3対1でようやくか。生徒会、恐るべし……」


 ステラとクリスティーナはその場に力なくへたり込む。喜多川も膝をつく。

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