第11話(4)大きめの箱

「クリスとステラというのは案外良い組み合わせかもしれませんね」


 クリスティーナとステラが部屋に突入する時に少し時は戻り、四季は姫乃に語りかける。


「ステラは前衛もこなせるからな」


「しかし、部屋にいる相手は恐らくあのエウゼビオ=コンセイソンさん……パワー勝負では分が悪いのではないですか?」


「そこでクリスのバッファー兼デバッファーの役割が活きてくる」


「例えば?」


「その辺はこう……臨機応変にだ」


 姫乃の言葉に四季はため息をつく。


「アドリブ頼みですか……」


「クリスは一流のダンサーでもある。アドリブもどんとこいだろう」


「果たしてそうでしょうかね……」


「その辺は信じるしかあるまい」


「まあ、結局はそうなのですが……」


「時間差を置いても意味がない。次は右から二番目の部屋に乗り込むバディを発表する!」


「……」


 姫乃が声を上げ、周囲は黙る。少し間があって姫乃が口を開く。


「竹村四季と礼沢亜門、貴様らに任せる!」


「……はい」


「了解しました」


 四季と亜門が静かに前に進み出る。姫乃が両者に囁く。


「貴様らは自らで考え、その場その場で最善に近い行動を取れるメンバーだ……現在残っている他のほとんどの連中とは違ってな」


「もの凄い暴言ではないですか?」


 四季が眼鏡の蔓を触りながら苦笑する。


「だからこうして囁いている」


「そんな2人をここでまとめて投入とは……良いのですか?」


 亜門が首を傾げる。


「頭脳派バディというのも悪くはないだろう。どういう結果になるか見てみたいのだ。もっともそんな余裕はないだろうが……」


「ちょっと待って下さい。ここにきて好みで決めていませんか?」


「礼沢、逆に問うが、好みで決めて何が悪い?」


「う……」


 姫乃が真っすぐな視線を亜門に向ける。亜門は何故か気圧されてしまう。


「言い返せないだろう。私の勝ちだな」


「……無理矢理押し切られた気がする」


 姫乃は胸を張り、亜門は首を捻る。四季が口を開く。


「まあ、ここは部長の本能的判断に従うとしましょう……」


「動物みたいに言うな」


「行きましょう、礼沢君」


「はい」


 四季と亜門が軽くハイタッチをかわし、右から二番目の部屋に入っていく。


「生徒会会計室ですか……」


「竹村先輩、入りますよ」


「ええ」


 四季と亜門が入る。書類などがそこかしこに散らばった乱雑な部屋である。


「これは……」


「全然片付いていませんね……」


「これで良いのよ」


「生徒会会計『駒井喜』さん……」


「この馬鹿でかい学校の生徒会よ? 沢山ある書類を一枚一枚丁寧にファイリングしている暇なんてないの」


「……言い訳ですね」


「なっ⁉」


 四季の言葉に駒井がムッとする。


「別にファイリングが絶対とは言いません。電子データへの完全移行が全てとも言いませんが、デスク周りの乱れはというものはそっくりそのまま、その人の仕事ぶりに繋がると言っても過言ではありません」


「……仕事が出来ない女って言いたいの?」


「そのように受け取られても構いません」


「っ! これで良いの! これでも仕事は円滑に進んでいるんだから!」


「人から見た印象というものもあります。栄えある生徒会の方がこの調子では……」


「腹立つ女ね! 何しに来たのよ⁉」


「喧嘩を売りに参りました」


「!」


 四季の物言いに駒井はやや面食らう。四季は首を傾げる。


「……買って頂けませんか?」


「……買うわよ! ただし情け容赦はしないわよ⁉」


「望むところです」


 凄む駒井に対し、四季は全く動じた様子を見せない。


「~~! いちいち癪に障る女ね!」


「来ますよ、礼沢君」


「大分怒っていますよ……」


「怒らせたのです。これで少しでも調子が狂えばもうけものですが……」


「喰らえ!」


「おっと!」


 駒井の発生させた大きな箱が飛んでくるが、亜門と四季は難なくかわす。


「駒井喜さん、魂道具は『魂丁納箱コンテナボックス』……」


「あの細腕で自分の倍以上の大きさの箱を自在に操れるとは……」


「分かっていれば対処出来なくもありません」


「言ってくれるじゃない!」


「ぐはっ⁉」


「むう⁉」


 小さめの箱が横から飛び出してきて、亜門と四季の体に当たり、両者は体勢を崩す。


「別に大きいものだけとは言ってないわよ?」


「くっ……」


「そらっ!」


「⁉」


「デケえ! ちっ!」


 駒井が右手を掲げると、巨大な箱が発生し、四季と亜門を潰そうとする。2人は横に飛んでかわす。駒井が笑いを浮かべながら叫ぶ。


「当然、避けるわよね! 残念ながら読み通りよ!」


「ぐっ!」


「どわっ!」


 再び小さな箱が四季と亜門の体に当たる。駒井が笑う。


「ふふっ、こういう単純なコンビネーションこそ効果があるのよね……」


「くう……分かっていても喰らってしまいますね……ん?」


「何? どはっ⁉」


 打楽器の音が鳴ったかと思うと、小さな爆発が起こり、その爆風を受けた駒井がのけ反る。そこに学ラン姿の女子が現れる。


「応援は必要ないか?」


「合魂団団長、志波田睦子先輩……ご助力頂けるのですか?」


「そのつもりで来た」


「ちょ、ちょっとアンタ! 会長に逆らうつもり⁉」


「一年の頃なんてしょっちゅうぶつかっていたものだ。今回もそうするだけに過ぎん」


 駒井の問いに志波田は悪びれもせず答える。


「な、なんですって⁉」


「悪く思わないでくれるか?」


「ま、まあ、良いわ! こうなったらまとめて潰すだけよ!」


 駒井が今までよりも大きな箱を三つ発生させ、志波田たちに向かって飛ばす。亜門が叫ぶ。


「デ、デカい! これは避け切れん!」


「避けなければいい!」


「えっ⁉」


「『音の波』!」


「こ、これは⁉」


 もの凄い音量の音が流れたかと思うと、大きな箱が二つ、駒井の方に押し戻される。


「そ、そんな⁉ 音の圧力で押し戻している⁉」


「魂羽闘行進曲、そのようなことも出来るとは……」


 四季が耳を抑えながら感心する。


「応援の力を舐めるなよ! 自分の箱で潰れろ!」


「! せ、せめて相打ちよ!」


 駒井がさらに大きな箱を一つ発生させ、志波田たちに向かって投げつける。


「ちっ! まだ余力があったか!」


「今は昔、陸奥国に……」


「む⁉」


「……と語り伝えたるとや!」


 四季が大きな箱をおもむろに掴んで駒井に向かって投げ返す。志波田が舌を巻く。


「魂昔物語集、そのようなことも出来たのか⁉」


「魂力を大量に消耗するので、あまり使いたくはないのですが……」


 四季はずれた眼鏡を直しながら呟く。駒井が声を上げる。


「三方向だけでなく、上からも魂丁納が! これじゃあ逃げられない! ……って泣き言言うと思った⁉」


 駒井が両手を掲げる。四季が叫ぶ。


「さらに箱を発生させて相殺させるつもりです! 礼沢君!」


「ええ! 『放電』!」


 亜門が魂旋刀を床に突き立てて、大量の電気を流すと、駒井は感電し、成す術なく、箱に挟まれてしまう。それでもわずかに箱を発生させて、押し潰されることは避けた。


「は、箱じゃなくて、ちゃんと魂丁納って言いなさいよ……」


 そう言いながら、駒井はぐったりと倒れ込む。四季たち3人もその場に崩れ落ちる。


「す、すみません……咄嗟のことで電気の出力量を調節しきれませんでした……」


「や、止むを得ません……」


「ははっ、疲れた体に電流は堪えるな……」


 亜門の謝罪に四季と志波田は揃って苦笑いを浮かべる。

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