第1話(3)有無も言わさず合魂開始!

「ふふっ!」


「いやいや、ちょっと待てって!」


 大柄な女子が再び棒を振りかぶる。超慈は慌ててその場から離れる。


「む!」


(くっ、外には出られないとか言っていたな! どこかに隠れてやり過ごすか!)


「ん……? あの眼鏡……なかなかの運動能力だな……しかし、丸腰では厳しいか……?」


 壇上で様子を見つめていた姫乃が呟く。


(なるほど、意外とこの体育館は広いな。普通の学校とは違う!)


 超慈が息を切らしながら走る。


「はっ!」


「せい!」


(⁉ も、もしかして他の連中も魂のぶつかり合いとやらをしているのか? 付き合っていられないぜ!)


 超慈は舌打ちをしながら体育館倉庫に駆け込む。


「はあ、はあ……んだよ、全然わけわかんねえっての……」


 髪の毛をボサボサと搔きむしりながら、体育座りをした超慈はうなだれる。


「そもそもどうしてこうなったんだっけ……? ああ、そうだ、ああいうふざけた噂、いや、都市伝説の類か? とにかくそんなくだらないものにまんまと釣られちまって……!」


 物音がしたため、超慈は体をすくめながら声を抑えて呟く。


「何故釣られた俺? 答えは簡単だ。高校で彼女を作り、充実したハイスクールライフをめいっぱい送りたかったんだ……ある意味あの都市伝説は本当だった……のか? この馬鹿デカい学園都市の高等部には『合コン』を容認するという先進的な風潮があると……」


 少年は声のトーンをさらに抑えながら、振り返りを続ける。


「確かにあの時、午後の部活説明会で、紅髪美人の女性はそのようなことを口走っていた。正直あまりに電波な内容の話で美人の補正がかかってもなかなか厳しいものがあったな……周囲の連中はあっけにとられるか、苦笑するかの二択だった……俺もそうするつもりだったが、気が付いたら説明会会場まで足を運んできてしまった……現状把握終了」


 超慈はいくらか落ち着きを取り戻したが、再びうなだれて呟く。


「大体……『合コン部』ってなんだよ……? なんで集合場所が午後5時過ぎの人気のない体育館? 駅前のカラオケ館に午後6時集合とかの間違いじゃないのかよ? ――⁉」


 次の瞬間、体育館倉庫の壁が粉々に砕かれる。あまりの衝撃に超慈は愕然とするしかなかった。壊れた壁の先には、ゴリラもとい、筋骨隆々な女子生徒が光る棒のようなものを持って立っている。超慈は壁を破壊した人物がこの女子生徒だということをなんとか認識する。しかし、超慈は間の抜けた声を発することしか出来なかった。


「あ……あ……」


 女子生徒は綺麗な歯並びを見せつけるかのようにニカッと笑う。


「さあ、そんな所に隠れてないで『合コン』の続きをしようよ?」


「ええっ⁉ ……俺の思っていた合コンと違う!」


 超慈は女子に雁首を掴まれ、引きずり出されながら心の底からどうにか声を絞り出した。


「ふん!」


「どわっ!」


 女子に無造作に投げられ、超慈の体は体育館の冷たい床に転がる。女子は笑う。


「ふふふ……」


(なにがおかしいんだよ? つーか、なんつう馬鹿力だよ……)


「追いかけっこはこれでおしまい」


「は?」


「他の男の子も気になるし……貴方はこの辺りで大人しくしていてちょうだい」


「……はい、分かりましたって言うと思ったか?」


 なんとか体勢を立て直した超慈は女子をにらみつける。女子は笑う。


「へえ、そういう顔もするんだ……もっとなよなよした感じかと……」


「や、やめろ、俺を値踏みすんな」


「わりとガチで気に入っちゃったかも……」


「わりとガチってマジかよ……」


 女子の言葉に超慈は頭を片手で軽く抑える。


「キープくんくらいにはしてあげる!」


「ふ……ざけんな!」


 女子が振り下ろした棒の鋭い一撃を超慈はすんでのところでかわす。女子は驚く。


「ふ~ん、今のもかわすとはやるね、キープくん」


「キープくんって言うな! 俺の名前は……!」


「ん~? なんてお名前?」


「いや、いい……名乗るほどのものでもない」


 女子の問いに超慈は首を振る。


「え~教えてよ~」


「悪いがアンタと親しくなる気はない」


「分かった。それならアタシが勝ったら、名前も教えてね♪」


「か、勝手に決めるな!」


「え~い!」


「ぐおっ⁉」


 女子は上下に振るだけであった棒のようなものを今度は左右に振ってみせた。思わぬ方向からの攻撃を喰らった超慈はかわし切れず、壁に向かって吹っ飛ばされ、壁にぶつかる。


「当たった♪」


「ぐ……ぐはっ!」


 超慈は前向きにうずくまるように倒れこむがなんとか立ち上がろうとする。


「幸か不幸か、結構タフだね。次の一撃で決めるよ~」


 女子は四つん這いになっている超慈の頭に狙いを定め、棒のようなものを振りかざす。これを喰らったら流石にマズいことは超慈にも分かっていた。しかし、飛び跳ねて、あるいは左右に転がって、その攻撃をかわす余力がもう残っていない。超慈は内心舌打ちする。


(ちっ……ゴリラと見まごうこの女の一撃を脳天に喰らってノックアウトか……いや、霊長類最強みたいな相手によく粘った方か……)


「~~♪」


「待て待て!」


「!」


 突如超慈が叫び出したため、女子が動きを止める。超慈は叫び続ける。


「華のハイスクールライフがそんなスタートで良いのか? 良いわけねえよなあ⁉」


「え? なに……いきなり自問自答? 怖っ……」


 超慈の様子に女子が困惑して、動きを鈍らす。超慈は女子を観察しながら声を上げる。


「大体なんだ、その光る棒みたいなものは? アンタだけそんなの持っててズルくね? 俺にはそういうのないのかよ!」


「い、いや、そう言われても……」


「そんなにもアンフェアなものなのかよ! 魂のぶつかり合いってのは!」


「……なんかおっかないからこれで決めさせてもらうね?」


「ちぃ! むっ⁉」


「おりゃ! 何⁉」


 女子が目を丸くして驚く。自らの振り下ろした棒のようなものを超慈が二本の刀で受け止めてみせたからである。


「こ、これは……?」


「なにそれ⁉ 刀! しかも二本とか! ズルくない!」


「い、いや、俺にも何がなんだか……ポケットが青白く光ったと思ったら、急に刀が……」


「ようやく発現したようだな」


「⁉ ぶ、部長さん⁉ これはどういう状況ですか⁉」


 いつの間にか自分たちの傍らに立っていた姫乃に超慈が尋ねる。


「合魂では必須とも言える、『魂道具こんどうぐ』の発現に成功したのだ」


「こ、魂道具⁉ なんすかその響き⁉ ってかこれは?」


「それはさしずめ、『魂択刀こんたくとう』だな」


「ええっ⁉」


 二本の刀を構えながら超慈は戸惑う。

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