第1話(4)お持ち還り

「応用形が発現するとは……思っていたより素質はあるかもしれないな」


 姫乃が呟く。


「応用形? なんで刀なんですか?」


「貴様はコンタクトを持っていたか?」


「は、はい……」


「つまりはそれが魂択刀になったということだ」


「つまりって! 説明が下手!」


 超慈の言葉に姫乃が若干ムッとする。


「そういうものなのだから他に説明しようがない……」


「じゃあ彼女が持っているあの棒のようなものは⁉」


 超慈が向かい合う女子の持つ物を指差して尋ねる。姫乃が答える。


「私も全ての魂道具に精通しているわけではないが……あれは『魂棒こんぼう』だな」


「魂棒⁉」


「棍棒が魂道具として発現したのだろうな」


「よく分からないけど、こんなこともあろうかと棍棒を持ち歩いていて良かったわ~」


「こんなこともって! どんな想定していたらそうなるんだよ!」


 女子の言葉に超慈は思わず突っ込みを入れる。姫乃が冷静に呟く。


「あれはそのままの形で魂道具として発現している……基本形というやつだな」


「基本形……」


「ねえ、部長さん、合コンを続けて良いんでしょ?」


「ああ、邪魔をして済まなかったな。存分に魂をぶつけ合え」


 女子の問いに姫乃が頷く。女子が笑顔を浮かべる。


「さて、再開といきましょうか!」


「ぐっ⁉」


 女子の振り下ろした魂棒を超慈は二本の魂択刀で受け止める。


「へえ? 細身なのに意外と力があるのね? ますます興味が湧いてきちゃったわ……」


「俺はどんどん引いているけどな! ふん!」


「む!」


 超慈は女子の魂棒をなんとか押し返すと、距離を取る。


「はあ、はあ……」


「休ませないわよ!」


「! 速い!」


「せい!」


 女子があっという間に距離を詰め、魂棒を横に薙ぐ。


「ぐっ!」


 鋭い一撃だったが、超慈はなんとかこれも受け止める。


「やるわね! ならば連続攻撃はどうかしら⁉」


「⁉」


「おらおらおら!」


 女子が魂棒を振り回す。


「ぐうぅ!」


 超慈は二刀流を器用に扱い、連続攻撃をどうにかさばく。


「えい!」


「どおっ⁉」


 女子の攻撃速度がわずかに上回り、受け止めきれなかった超慈は最後の攻撃を喰らって、吹き飛ばされ、またもや壁に打ち付けられる。


「ふふっ!」


「や、やっぱり、パワーで打ち負けるな……」


「よくやった方だけど、もうそろそろ本当に終わりにしましょう!」


「終わりって、冗談じゃねえよ……ってか、なにがどうなったら終わりになるんだ?」


 超慈は視線を姫乃に向ける。姫乃は肩をすくめる。


「知りたいか?」


「いや、そりゃあ知りたいでしょう!」


「合魂とは魂のぶつかり合いではあるのだが、相手の持つ魂力こんりょくを吸い取って、自らに還元……『お持ち還り』するのも大きな目的だな」


「魂力?」


「ああ、魂の力だ」


「それを吸い取られるとどうなるんですか?」


「吸い取られ具合にもよるのだが……大体は魂道具をしばらく発現出来なくなるな」


「……と、いうことは?」


「合魂には魂道具を持って参加することは出来なくなるな」


「……それはむしろ良いことなんじゃないか?」


 超慈は顎に手をあてて呟く。姫乃は淡々と呟く。


「まあ、どのように振る舞うのかは自由だが、魂力を吸い取られると色々マズいかもな……」


「マズい?」


「例えば何らかの後遺症が残るかもしれんな」


「え⁉ マジですか⁉」


「その辺はよく知らん。生憎、魂力を完全な形で吸い取られたことがないものでな」


 姫乃が両手をわざとらしく広げる。超慈が愕然とする。


「そ、そんな……」


「お話中のところ悪いけど、これで終わりよ!」


「うおっ!」


「ちっ!」


 女子の振るった魂棒を超慈は横に飛んでなんとかかわす。


「こ、こうなったら勝つしかないってことかよ!」


 超慈の叫びに姫乃が頷く。


「まあ、そうなるな。その二本の刀であの女を打ち倒すしかあるまい」


「……出来れば女の子に手荒な真似はしたくない!」


「ほう、この期に及んでも紳士的だな……よかろう、少しヒントをやる」


「ヒント?」


 首を捻る超慈に姫乃が説明する。


「魂択刀とは『魂を選択する』刀……相手の魂の中心、いわゆるコアの部分を見極めて突けば、与えるダメージは最小限に抑えることが出来る。魂択刀はそれが比較的容易な魂道具だ」


「見極めるって……どうやって?」


「魂択刀を使ったことが無いものでな、さっぱり分からん」


「わ、分からんって……」


「あとは……」


「あとは?」


「気合で頑張れ」


「き、気合って⁉」


「人をほったらかして、盛り上がらないでよ!」


 女子が魂棒を振りかざしながら突進してくる。


「くっ、どうする⁉ ⁉」


 超慈が思わず片目をつむるが、その瞬間、女子の体の一部分が光ったように見えた。


「うおおっ!」


「ええい! ままよ!」


「⁉」


 超慈の振るった刀が女子の体の光った部分を突いた。超慈は無我夢中で叫ぶ。


「お、『お持ち還り』だ!」


「……」


 女子は倒れこむ。魂棒も消える。超慈が恐る恐るのぞき込み、呟く。


「や、やったのか……? ん⁉」


 体育館の照明がパッと明るくなる。いつの間にか壇上にいた姫乃が大声で告げる。


「そこまでだ! 最後まで立っていた者たち……合魂部へようこそ!」


「ええっ⁉ ……な、なんか気が抜けちまった……」


 超慈は気を失ってその場に倒れこむ。

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