第6話(1)一応の作戦会議

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「ということは合魂団をほぼ無力化させたのか、ご苦労だった」


 部室で報告を受けた姫乃はふむふむと頷く。


「礼沢君と鬼龍さんの奮闘あればこそです」


 四季が眼鏡をクイっと上げる。


「手ごわい連中でした……」


「さすがにしんどかったし……」


 亜門と瑠衣が苦々し気に呟く。


「待ち伏せられました。思ったよりも合魂部に対して警戒を強めてきているようですね」


 姫乃の言葉に四季が答える。亜門が尋ねる。


「今さらですが……普段、他の連中が仕掛けてこないのは何故ですか?」


「合魂というものは基本アフター5で行われるものだからな。例外もあるが」


「そ、そうなのですか……?」


 姫乃の答えに亜門が戸惑う。四季が口を開く。


「少し補足すると……バトルフィールドを展開しないと魂道具を使うことが出来ませんし、単なる喧嘩もしくはリンチまがいのものになってしまいます」


「なるほど……」


 四季の説明に亜門が頷く。四季が呆れたような視線を姫乃に向ける。


「というか、その程度の説明もしなかったのですか?」


「まあ、さすがにそこまでなりふり構わない奴らはこの学校にはいないだろうからな、説明しなくても大丈夫だろうと判断した」


「一応説明してあげるのが先輩の務めであり、親切心だと思いますよ……」


「分かった。以後気をつける」


「以後ですか……」


 四季がため息をつく。姫乃が苦笑する。


「露骨にため息をついたな」


「つきたくもなります。そもそも出たとこ勝負過ぎるのです。今回も志波田さんと交戦するとは思いませんでした。ステラが一緒だから良かったとはいえ、超慈君や外國君のみでは撃退されていた恐れがありましたよ?」


「しかし、戻ってこられたではないか」


「結果オーライ過ぎますよ」


「ある程度の危機は想定していたさ。だからバディを組ませたのだ」


「礼沢君と鬼龍さんペアはともかく、私と外國君ペア、ステラと超慈君ペアでは連携がまだまだ不十分です。敵陣に突っ込むには時期尚早でした」


「今回でかなりの経験が積めたではないか」


「……結果良ければ全て良しではないのですよ」


「ふむ……その言葉、胸に刻もう」


 姫乃が深々と頷く。四季が眼鏡の縁を触りながら尋ねる。


「それで? 今後はどうしますか?」


「それなりの規模を誇る勢力は後二つほどに絞られた」


 姫乃は右手でピースサインを作る。


「後二つ? 意外と少ないし……」


「それなりというのが気になるが……」


 姫乃の言葉に瑠衣と亜門が反応する。四季が頷く。


「確かにあの勢力とあの勢力が残っていますね……」


「竹村先輩も大概説明不足でござる……」


「その辺はもう諦めろ……」


 瑠衣の耳打ちに亜門が小声で答える。


「どうされるおつもりですか?」


「二方面作戦を展開する!」


「!」


 姫乃は机をバンと叩いて立ち上がる。四季の表情が険しくなる。姫乃が問う。


「どうだ?」


「正気ですか?」


「ああ、正気も正気だ」


「兵力の分散は愚策ですよ」


「向こうも予想はしていまい。そこを突く」


「虚は突けるかもしれませんが……やはり危険です」


 姫乃は席に座り、四季の方を向いて答える。


「無理はしない、させないつもりだ」


「そうは言っても……」


「最優先するべきはあの者たちの確保だ。各勢力との全面的な衝突は避けるようにする……それでどうだ?」


「止めても無駄のようですね」


 姫乃の問いかけに四季は苦笑交じりで答える。


「理解を得て嬉しく思う」


「理解というか……各方面の振り分けはどうされるのですか?」


「それについては既に考えてある!」


「嫌な予感しかしませんね……」


 自信満々な姫乃の顔を見て、四季は軽く頭を抑える。


「……というわけで、よろしく頼むぞ」


 姫乃がある校舎の近くで声をかける。


「このタイミングで仕掛けてくるとは奴らも思わないはず……流石は姉御だ!」


 燦太郎がわざとらしく両手を挙げる。


「燦太郎……戻ってきて早々すまないが、ひと暴れしてもらうぞ」


「むしろこのスピード感こそ俺の望むところだぜ、姉御!」


 燦太郎は右手の親指をサムズアップする。姫乃が間を空けて呟く。


「……言いたいことが二つほどある」


「ん?」


「元気があるのは結構だが、騒ぎ過ぎだ。相手に感付かれる」


「おっと、こいつはすまねえ、姉御……」


「姉御って呼ぶのも止めろ」


「姉さんの方が良いかい?」


「……まあ、それは後で良い」


 姫乃が歩き出す。仁が亜門に耳打ちする。


「なっ? 朝日先輩って結構な脳筋だろう?」


「……脳筋が4人から5人になっただけのことだ、大したことじゃない……」


「ん? 超慈と朝日先輩、鬼龍と部長……もしかして俺も脳筋に含めてないか⁉」


 仁の声を無視して、亜門は姫乃たちの後に続く。


「さて、我々はこちらのS棟ですか……」


 四季が校舎を見上げる。瑠衣が尋ねる。


「早速忍び込むでござりますか?」


「いえ、固まって行動した方が良いでしょう」


「どんな連中が待ち構えているんだ……?」


「超慈っちはウチが守ってあげるから安心しなよ」


「ちょ、超慈っち?」


 ステラの言葉に超慈は戸惑う。四季の眼鏡が光る。


「ステラ、少し馴れ馴れしくはないですか?」


「ええ? これくらい普通っしょ?」


 ステラが超慈と腕を組む。四季が指を差す。


「距離が近いですよ」


「固まった方が良いんでしょ?」


「限度というものがあります」


「し、しかし、経験不足な一年と上級生を2人ずつ組ませるとは、部長も考えましたね?」


 超慈は話題を変えようとする。四季がため息交じりに答える。


「……あみだくじの結果ですよ」


「ええっ⁉」


 予想外の答えに超慈は驚く。

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