第6話(2)1人足りない四天王

「……今回は奇襲がある程度上手くいったようですね」


 校舎の階段を上りながら四季が呟く。超慈が瑠衣に尋ねる。


「大丈夫か? ここまで遭遇した相手を任せっきりだったが……」


「これくらい平気だし」


 瑠衣は余裕の笑みを浮かべて答える。ステラが口を開く。


「あの人たちに感付かれるとマズいんじゃない?」


「ですから、あの方たちの居ない時間帯を狙ってきました」


 四季の回答にステラは口笛を鳴らす。


「その辺は調査済みか。やるね」


「とはいえ、そこまで余裕はありません。目的の方と接触しなくては……」


「そこまでだ!」


「!」


 超慈たちがあるフロアに来ると、3人の男子生徒が待ち構えていた。


「合魂部の連中だな! これ以上好き勝手は許さんぞ!」


「俺たち合魂サークルの四天王が相手だ!」


「四天王?」


 超慈が首を捻る。瑠衣が呟く。


「さっき1人倒したでござる……」


 瑠衣の言葉に3人が動揺する。


「なっ⁉ あ、あいつ、姿を見ないと思ったら抜け駆けしていたのか?」


「そして、あっさりやられてやがる!」


「落ち着け! 所詮奴は四天王の器ではなかったということだ」


「ど、どうやらそのようだな……」


 3人のやりとりを見ながら、ステラが四季に尋ねる。


「合魂サークルの四天王……知ってる?」


「生憎ですが存じ上げませんね……この商業科は実力者が多いですから」


「要は空気ってことね」


「な、なにを⁉ 生意気な! お前らやるぞ!」


「俺が行く!」


 1人の男子が飛び出す。超慈が四季たちの前に進み出て魂択刀を構える。


「ここは俺に任せて下さい!」


「遅い!」


「ぐはっ!」


 男子の素早く強烈なショルダーアタックで超慈が吹っ飛ばされる。


「ふん……」


「ぐっ……」


「ほう、立ち上がるか。俺の『魂気江武コンケーブ』をまともに喰らったというのに……」


 男子は先が尖った形状の肩を見せる。四季が呟く。


「くぼみのある、凹面の、という意ですね。あのように尖った肩をコンケーブ・ショルダーと言い、主にテーラードジャケットに使用されます」


「はっ、なかなか詳しいな。このショルダータックルは止めるのは容易ではないぞ!」


「糸魂蒻!」


「む!」


 ステラが超慈に迫る男子に糸を巻き付ける。


「床にでも突っ込んでなさい!」


「ぐはっ!」


 ステラが糸を振り上げ、男子を床に叩きつける。動かなくなった男子に歩み寄り呟く。


「お持ち還りよ……」


「や、やられただと⁉」


「落ち着け、あいつには四天王の荷が重かったというだけのことだ」


「そ、そうだな……俺が行く!」


 2人目の男子が飛び出す。超慈が体勢を立て直し、男子に斬りかかる。


「今度はこっちの番だ!」


「飛んで火に入るなんとやら! 喰らえ!」


「ぐあっ! あ、熱い⁉」


 男子が手を振ると、超慈が崩れ落ちる。その手にはフライパンが握られている。


「フ、フライパン⁉」


 瑠衣が驚く。超慈が立ち上がる。


「ほう、まだ立つか。俺の『魂不意コンフィ』をまともに受けたというのに……」


「コンフィはフランス料理の調理法であり、またその方法を用いた食品の総称です。フライパンを手にしているということは、肉を調理するのと同様に低温度でゆっくりと加熱したのでしょうね……」


「ふっ、まずまず知っているようだな。文字通りお前らを料理してやる!」


「今は昔、陽成院がおいでになられた所は……」


「ぬ!」


 四季が魂昔物語集を読み上げると、男子に水がかかる。


「火気厳禁ですよ……水の精にお仕置きしてもらいましょう!」


「どはっ!」


 四季が本を掲げると、多量の水が男子を押し流し、男子は壁に打ち付けられてぐったりとする。そこに四季がゆっくりと歩み寄り呟く。


「お持ち還りです……」


「くっ! どいつもこいつも! 四天王になるには力不足だったか!」


 残った男子が叫ぶ。ステラが呆れながら呟く。


「だからさ、そもそも1人も知らないのに四天王を名乗られても反応に困るって……」


「ええい! 黙れ!」


 男子がステラたちに向かって前進してくる。


「こ、今度こそ俺が!」


 体勢を立て直した超慈が男子に立ち向かう。


「いい加減しつこいぞ! 眼鏡! それっ!」


「うおっ⁉」


 男子が掲げた容器から液が飛び出し、超慈にかかる。超慈が倒れる。


「どうだ!」


「な、なんだ⁉」


「これが俺の魂道具、『魂出井所那亜コンディショナー』だ! 貴様を洗い流してくれる!」


 男子が超慈に更に接近する。そこに瑠衣が割って入り、魂白刀の鏡の部分を開く。


「させないニン! 『反射』!」


「なっ!」


 鏡によって反射された液が男子にかかり、男子は戸惑う。


「もらったでござる!」


「どわっ⁉」


 瑠衣の振るった刀を喰らい、男子が仰向けに倒れる。瑠衣がそこに歩み寄り呟く。


「お持ち還りだし」


「若干口だけのところもありましたが、魂道具の使い方はある程度洗練されていましたし、吸い取らせて頂いた魂力もそれなりです。四天王、強敵でしたね……」


「四季、それ先に言ってあげた方が良くなかった?」


 ステラが苦笑する。四季が眼鏡をクイっと上げる。


「タイミングを逸しました」


「お、俺だけ攻撃喰らいまくった……」


「超慈君の助太刀をしたかったのですが、これもタイミングを逸しました」


「そ、そうですか……」


「~♪」


「⁉」


 そこに突然音楽が流れたかと思うと、四季たち3人が倒れ込む。


「み、皆⁉」


 超慈が困惑する。

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