第5話(3)脳筋枠

「くそ……」


「相変わらずな笑い方、ウザ……」


「釘井先輩、知っているんですか?」


 超慈がステラに尋ねる。


「まあ、多少ね……」


「多少とは寂しいことを言うじゃねえか!」


 声を上げながら明るい髪色で短髪の青年が姿を現す。上にはジャージを羽織り、下にはハーフパンツをはいている。超慈が目を細める。


「あいつが……」


「まさか待ち伏せしているとはね……」


「俺ら体育科はこの時期、体育祭の準備で色々忙しい! そこを狙ったのはわりといい線行っていたが、俺ら『合魂団』にはお見通しだったぜ!」


「合魂団……」


「そう、合魂団の実質ナンバー2……」


「おっと、名前くらい名乗らせろよ……朝日燦太郎あさひさんたろうとは俺のことだぜ!」


 燦太郎と名乗った男は自らを指差して豪快に笑う。


「部長の話にあった朝日燦太郎……」


「パイセンの言っていた通りに馬鹿っぽいでしょ?」


「おいおい、馬鹿とはなんだ、馬鹿とは! ってか、あの人、そんなこと言っていたのか⁉ 地味に傷つくぞ!」


「いえ、部長は超のつく脳筋だと言っていました」


 超慈は訂正を入れる。


「おう、そうかそうか……って、同じようなことじゃねえか!」


「ニュアンス的には褒めている感じでしたが……」


「感じでも駄目だろう!」


 燦太郎は大声を上げる。ステラがうんざりしたように呟く。


「そうやって、すぐ騒ぐところがウザいっての……」


「声がデカいのはしょうがねえだろう! 体育会系は声出してナンボだからな!」


「まあいいや……一応聞いておこうと思うんだけど……」


「うん?」


 燦太郎が首を傾げる。


「朝日……パイセンが戻ってこないかだってさ」


「断る!」


「だろうね」


 燦太郎の返答に対し、ステラは肩をすくめる。


「ただ、どうしてもというのなら……」


「いや、いいや。別に無理にとは言わないから」


 ステラが手を左右に振る。燦太郎が慌てる。


「お、おい! 人の話を聞け!」


「いいよ、別にもう……」


「興味を失うな!」


「もとよりウチは興味ないから、興味があるのは部長だし……」


「お前や竹村は戻ったらしいな!」


「まあね」


「何故だ⁉」


「何故って……居場所が急に無くなっちゃったようなものだからね」


「倶楽部も同好会も大分派手にやられたようだな?」


「そうだね」


「噂程度には聞いているが、この短期間で一年連中を灰冠さんが鍛え上げたのか?」


「あの人に育成手腕があるとマジで思っているの?」


「全く思わねえ!」


「そうでしょ」


「部長、随分な言われようだな……」


 2人のやりとりを聞きながら、超慈が呟く。燦太郎が顎に手をやって頷く。


「ということは……一年の奴らがなかなかやるということか」


「見たところ、それなりの魂力を持っているよ」


「その眼鏡くんも一年だろう? 膝をついてしまっているが?」


 燦太郎が超慈を指差す。ステラが間髪入れず答える。


「この子はアンタと同じ『脳筋枠』だから」


「フォ、フォローなし⁉」


「俺はそんな枠に入った覚えはねえぞ!」


 ステラの答えに超慈は驚き、燦太郎は憤慨する。ステラは立ち上がる。


「ウチとしてはマジでどっちでも良いんだけど……例えば、合魂団を潰せば……アンタも聞く耳を持ってくれるってことかな?」


「出来るもんならな!」


「来るよ!」


 ステラが超慈に声をかける。超慈も慌てて体勢を整える。


「遅い!」


「ぐっ!」


 超慈は吹き飛ばされる。ステラが声をかける。


「大丈夫⁉」


「ま、まともに喰らっちまいました。なんてスピードだ……」


「それはそうだろう。なんてたって……」


 燦太郎が自分の靴を指差す。ステラが口を挟む。


「『魂武亜棲コンバース』……あいつの魂道具だよ。あれであいつの元々の俊足が更に強化されている」


「お、俺より早く説明すんじゃねえよ!」


 燦太郎が憮然とする。仰向けに倒れていた超慈が半身を起こして呟く。


「なるほど……そういう魂道具もあるのか……」


「どう、やれる? 無理そう?」


「いや、美人の前で弱音吐いていられないでしょう……」


「! び、美人って……」


 超慈の言葉にステラは顔を赤らめる。燦太郎が叫ぶ。


「隙ありだぜ! 釘井! お前の魂力を頂いてやるぜ!」


「⁉」


「なっ⁉」


 ステラに飛びかかった燦太郎が驚く。自身が繰り出したキックを超慈が刀で受け止めていたからである。


「ぐっ……それ!」


「ば、馬鹿な……何故反応出来た?」


「俺の魂道具、魂択刀は魂を選ぶ刀……故に高い魂力を感知することが出来る……」


「な、なんだと⁉」


「……ような気がする!」


 超慈の言葉にステラがずっこける。


「ちょ、ちょっと感心しかけた気持ち返してよ!」


「結果オーライでしょう!」


「ちっ!」


「む⁉」


 燦太郎が姿を消す。ステラが慌てる。


「また見失った!」


「落ち着いて! 右斜め前に糸魂蒻を!」


「⁉ えい!」


「ぐおっ⁉」


 ステラの繰り出した糸に片足を絡め取られた燦太郎は転倒する。


「や、やった⁉」


「魂力を感知出来るって言ったでしょ?」


「くそ……『力任せ蹴り』!」


「なっ⁉」


 燦太郎がもう片方の足で糸を切ったことに超慈は驚き、ステラは舌打ちする。


「それなりの硬度の糸を蹴りで切った⁉ これだから脳筋は!」


「小細工は要らねえ! 正面から蹴り飛ばす!」


 燦太郎がステラたちに突っ込んでくる。ステラが糸を繰り出す。


「くっ! なっ⁉」


「脳筋でもそれなりに考えるぜ!」


 燦太郎が後ろに回り込んでステラの背中を狙う。


「しまっ……⁉」


「もらった! なにっ⁉」


「そうはさせねえ!」


 再び超慈が燦太郎のキックを刀で受け止める。燦太郎が苦い表情になる。


「またか、眼鏡! いい加減しつこいんだよ!」


「その言葉そっくり返すぜ!」


「ちぃ!」


 超慈の振るった刀を燦太郎がかわす。


「くっ、素早い!」


「動きが読めても捕まえらえなきゃ意味ないぜ!」


「釘井先輩! 糸を俺に巻き付けて!」


「ええっ⁉」


「速く!」


「そ、それ!」


 ステラは言われた通りに超慈の体に糸を巻き付ける。超慈は叫ぶ。


「強く引っ張って下さい!」


「う、うん!」


「あ~れ~!」


 糸がほどけた超慈がコマのように回転する。回転によってグラウンドの芝が舞う。


「⁉ くっ! 芝が目に……!」


「動きを止めたな! そこだ! ……って、め、目が回る……」


 超慈がフラフラとしながらも燦太郎との距離を詰める。


「しまっ……!」


「喰らえ!」


「ぐはっ……!」


 超慈が強烈な頭突きを喰らわせ、燦太郎は仰向けに倒れる。


「脳筋同士らしい決着なのかな……?」


 ステラが首を傾げる。

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