第10話(2)忍び同士の語らい

「しかし、まさか今日中に生徒会に殴り込みをかけるとは……」


「思い立ったらなんとやらってやつだよ」


「決断力あり過ぎなんですよ、部長は……」


「まあ、そういう人だから……」


 超慈の言葉にクリスティーナは苦笑する。


「五方向から同時に攻めるというのも思い切りましたね」


「読み通りなら、手ごわい相手がいるからね」


「出来ればその読みは当たって欲しくないですけど……」


「とにかく行くよ、私らはこの建物の西側からだ」


 クリスティーナが歩き出し、超慈がその後に続く。一方中央側では……。


「……潜入成功だし」


 円から瑠衣と爛漫が出てくる。爛漫が呟く。


「地下からの潜入は流石に想定していないはずだよ」


「生徒会の連中は上のフロアでござるか?」


 瑠衣は上の階を指差す。爛漫が頷く。


「そうだね」


「ならば参りましょう」


「おっと、ちょっと待ってくれよ!」


 瑠衣が飛ぶように階段を駆け上がる。爛漫が慌ててそれに続く。


「このまま行けば楽に辿り着ける……⁉」


「そうは問屋が卸さねえよ……!」


 弾き飛ばされた瑠衣が相手を確認する。そこにはコーンロウの髪型の男が立っていた。


「ぐっ……喜多川益荒男!」


「久しぶりだな、なんとか流のくのいちちゃん」


「慈英賀流だ!」


「なんでもいいけどよ……あんまり驚いていねえな?」


「貴様らが出てくることは想定済みでござる!」


「へえ……流石に頭が回るねえ」


「貴様らが立ちはだかるというならそれも倒して進むまで!」


「大口を叩くじゃねえか……!」


「むっ!」


 喜多川の発する魂破に瑠衣がややたじろぐ。喜多川が刀を構える。


「やれるものならやってみな! 今度こそこの魂平刀の餌食にしてやる!」


「うっ……」


「どうした? ビビったのか?」


「誰が!」


「ふん!」


 斬りかかってきた瑠衣の刀を喜多川は刀で簡単に受け止める。瑠衣は舌打ちする。


「ちっ!」


「甘いぜ!」


「ぐっ!」


 喜多川が刀を引くと、激しい火花が散る。喜多川が笑って呟く。


「独特なこの刀の形状……いくつもある凸凹の突起が摩擦熱を発生させる」


「それは知っている……!」


「知っていてもこれはどうにもならねえだろう⁉ 『地走』!」


 喜多川は刀を床にわざと引きずらせて、大量に火花を発生させつつ斬りかかる。


「むっ⁉」


「そら!」


「ぬっ!」


「おら!」


「くっ!」


 瑠衣がなんとか喜多川の猛攻を防ぐ。喜多川が笑う。


「どうした⁉ 受け止めるだけで精一杯じゃねえか!」


「発生する火花が分かっていても厄介でござる……一旦距離を取る!」


 瑠衣が後方に飛んで喜多川から離れる。喜多川がニヤッと笑う。


「そうくると思ったぜ! 『天雨』!」


「⁉ ぬおっ!」


 喜多川の投じた金平糖型のまきびしが瑠衣に向かって大量に降り注ぐ。瑠衣もこれはかわしきれずに喰らってしまう。瑠衣は顔をしかめる。


「はははっ! どうだ? 結構痛えだろう?」


「くっ、魂道具の応用形と基本形を同時に使うとは……」


「その辺の並みの連中と一緒にするなよ! こういうことが出来るからこそ、俺は今の地位にまで就けたんだよ!」


「むう……」


「ただ、その地位を脅かす連中が現れやがった……」


 喜多川が自分の顎を撫でる。


「……」


「合魂部、お前らは少々調子に乗り過ぎたぜ……」


「ふん……」


「ここで消えてもらう!」


「⁉」


「おらあ!」


「『製図』!」


「なっ⁉」


 爛漫が片手を地面に突き刺して、両足を目一杯に伸ばし、片手を支点にして大きな円を地面に描く。円の内側に入った喜多川が足を取られて体勢を崩す。爛漫が乱れた呼吸を整えながら瑠衣に向かって呟く。


「はあ……はあ……鬼龍ちゃん、速すぎるよ……やっと追いついた~」


「この魂道具は……『魂破凄』!」


「おっ、さすがに見破るのが早いね……もう体勢を立て直しているし」


「てめえは確か……夜明のところにいた二年か!」


「桜花爛漫で~す……お見知り……置かなくても良いですよ」


「ふざけんなよ!」


「これでも真面目にやっている方なんですよ、気に障ったらすみません」


「ふん、てめえも加勢するつもりか?」


「せっかくの忍び同士の語らいを邪魔するかたちになって恐縮なのですが……」


 爛漫は肩をすぼめる。


「別にそれはどうでもいいけどよ……」


「あ、そうですか?」


「空気は読めねえ奴だなとは思わなくもないが」


 喜多川が笑みを浮かべる。爛漫は苦笑交じりで答える。


「敬意は払っているんですよ。一対一では貴方を倒すのは到底無理だという判断でね」


「それは光栄だな!」


「製図!」


 喜多川が自らに向かって猛然と飛びこんできた為、爛漫は地面や空中に大量の円を描く。だが、喜多川は鋭いステップを駆使してそれをかわしてみせる。


「分かっていたらかわせるぜ! 円にはまらなきゃこっちのもんだ!」


「狙いはそれだけじゃないんですよ……」


「何⁉」


「『分身ミラー』!」


「がはっ!」


 周囲に大量に発生した円から分身した瑠衣が一斉に飛び出し、喜多川に斬りかかる。喜多川はかわすことが出来ず、倒れ込む。瑠衣が刀を突き立てようとする。


「お持ち還り……」


「ちいっ!」


「むっ! 円を利用して逃げた⁉ こしゃくな!」


「ストップ、鬼龍ちゃん! 目的はあくまでも生徒会だ。ここは先を急ごう」


 後を追おうとする瑠衣を制し、爛漫は上を指し示す。瑠衣は黙って頷く。

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