第8話(4)乱入者、圧倒

「なっ、部長の作ったバトルフィールドをいとも簡単に破壊した……⁉」


「……邪魔をするんだったら帰ってくれるか?」


「い、いや、部長! そんなどこぞの新喜劇的なやりとりをしている場合ですか!」


 突然の乱入者に四季は慌てる。乱入者から目線は外さず、姫乃が呟く。


「そう慌てるな、みっともない……」


「そ、そうは言っても、バトルフィールドに入り込んでくることが出来るなんて!」


「まあ、そういうことも出来るだろう。この愛京大付属愛京高校を陰に陽に支配する生徒会の諸君ならば……」


「えっ⁉ せ、生徒会⁉」


 さらに慌てる四季に姫乃が呆れた視線を向ける。


「なにも初対面というわけではないだろう?」


「そ、そう言われるとそうですね……失礼しました。落ち着きました」


 四季は平静を取り戻す。姫乃が乱入者に語りかける。


「何の用だ?」


 姫乃の問いに乱入者の中心に立つ、全身の黒ずくめの服装に大仰な赤いマントをつけた男が笑いながら答える。


「はっ、灰冠よ、お前が性懲りもなく、俺様の首を狙っているのは分かっているんだよ」


「……別に隠していたつもりはない。時機を見て挨拶に伺おうと思っていたところだ」


「淡々と牙を研ぎ終わるのを待っていろってか? 冗談きついぜ……」


 男は両手を大きく広げ、首を左右に振る。


「それでわざわざこちらに来るとは……意外とビビりなのだな?」


「慎重な性格なんだよ」


「臆病の間違いではないか?」


「その手の安い挑発には乗らねえよ……」


「会長……」


 おかっぱ頭の中性的な男子生徒が男に近づく。男は頷く。


「ああ、是非もない。お前ら、こいつらを叩き潰せ。容赦はいらん」


「御意……」


 男の周りに立っていた4人の男女が散開する。姫乃が叫ぶ。


「⁉ 全員、気をつけろ! 優月! こっちに来い!」


「!」


 クリスティーナとステラの前に褐色で大柄な男子が立つ。ステラが苦々しく呟く。


「生徒会庶務、エウゼビオ・コンセイソン……」


「カイチョウノジャマモノハケス……」


「ちっ、クリス! アタシの糸で動きを止める! その隙に……⁉」


「オソイ……」


「がはっ……」


「ステラ! ぐはあっ!」


 一瞬の内に、エウゼビオの攻撃を受け、ステラとクリスティーナは崩れ落ちる。


「さて、私の相手はあなたたちね……」


 ウェーブのかかった黒いロングヘア―をなびかせた女子生徒が四季と亜門の前に立つ。


「竹村先輩! この女は⁉」


「生徒会会計、駒井喜こまいよろこびさん……」


「生徒会⁉ もしかして部長の狙いって⁉」


「お察しの通り、生徒会の打倒です」


「そんなことを許すと思います? そもそも出来ないでしょうけど」


「やってみないと分からないでしょう……!」


 四季は魂昔物語集を開く。駒井はため息をつきながら右手を掲げ、素早く振り下ろす。


「……面倒かけないで」


「どはっ⁉」


「先輩! のわっ!」


「……はい、二丁上がり」


 四季と亜門が倒れ、駒井は両手をパンパンと払う。


「わたくしのお相手はあなた方ですわね……」


 紫がかった色のロングヘア―を優雅にかき上げながら女子生徒が燦太郎と瑠衣にゆっくりと迫ってくる。燦太郎は瑠衣に声をかける。


「くのいちちゃん! 平気か⁉」


「な、なんとか……」


 瑠衣は体勢を立て直す。燦太郎が感心する。


「クリスの攻撃を喰らって、もう立てるとはやるな! だが無理はするな!」


「あ、あの女は……?」


「生徒会副会長、海藤胡蝶かいとうこちょうだ」


「副会長……」


「相手が悪い、とりあえず距離を取るぞ!」


「しょ、承知!」


 燦太郎と瑠衣が素早くその場から離れる。海藤と呼ばれた女は目を丸くする。


「驚くべき素早さですね。ただ、わたくしの前では無駄なことです……」


「む⁉」


「ぐう⁉」


 燦太郎と瑠衣は為す術もなく、その場に倒れ込む。


「……お疲れ様でした」


 海藤は倒れた2人に向かって一礼する。


「貴様らの相手は自分だ……」


 おかっぱ頭の男子が仁と爛漫に近づく。仁が魂棒を構える。爛漫が声を上げる。


「と、外國君、無謀だ!」


「こ、こんな細っこい奴に負けませんよ!」


「舐められたものだな……生徒会書記、小森鈴蘭こもりすずらん、参る……」


「書記⁉ があっ……?」


「外國君! うわっ……!」


 それなりに離れていたはずの仁と爛漫があっけなく倒れる。小森と名乗った男子が周囲をさっと見回した後、黒マントの男の方に振り返り、報告する。


「会長、片付きました……」


「さすがだな、お前ら。愛しているぜ」


「もったいないお言葉……」


「誰を一番愛しておられるのですか⁉」


「い、いや、それは胡蝶、今はいいじゃねえか……」


「嫌ですわ、副会長、聞くまでもないことでしょう?」


「よ、喜! 無駄に煽るな!」


「ニホンゴムズカシイ……」


「本当だよな。言葉には気をつけねえと……」


 男が短く整った頭髪を掻く。超慈が呆然とする。


「こ、これが生徒会……っていうことは?」


「ああ、奴が生徒会会長、織田桐覇道おだぎりはどう。私の狙う男だ」


「⁉」


「おっ、愛の告白かい? 嬉しいねえ」


 織田桐は顎髭を撫でながら笑う。姫乃が睨む。


「ふざけろ……」


「お前さんご自慢の後輩ちゃんたちは軒並み倒れた。降参するなら今だぜ?」


「貴様の首を取る!」


「ふん!」


「がはっ……」


「部長!」


 織田桐に襲いかかった姫乃だが、返り討ちに遭う。織田桐が冷たく言い放つ。


「……身の程を弁えろ」

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