第8話(3)紅白魂道具戦

「……各自位置に着いたようですね」


 フィールドを見渡せる高い位置に上った四季の言葉に傍らの姫乃は頷く。


「ちなみにだが……」


「ちなみに?」


「二年生を紅組、一年生を白組と呼称する!」


 姫乃の宣言に四季はコケそうになる。


「な、何を言い出すかと思えばそんなことですか……」


「大事なことだろう」


「ま、まあ、それでは開始を宣告して下さい……」


「うむ……紅白戦、開始!」


「!」


「白組、超慈君と外國君が切れ込んでいきましたね! 意外です!」


 四季が驚きの声を上げる。隣で姫乃が笑みを浮かべる。


「アタッカーは鬼龍に限らんということだ」


 サッカーコートを一回り小さくしたくらいのバトルフィールドの真ん中辺りから相手の陣内の奥に向かい、超慈と仁が勢いよく進む。四季が頷く。


「狙いは……なるほど、クリスですか」


「バッファー兼デバッファーを潰す! ……そういう作戦だ」


「ふむ……」


 四季は顎に手を当てる。姫乃が問いかける。


「意表を突かれたか?」


「……いえ、想定内ですね」


「なにっ⁉」


「うおおっと⁉」


「なんだあ⁉」


 クリスティーナに向かってほぼ一直線に突っ込んでいた超慈と仁。あともう少しというところで足を絡め取られ、逆さまの宙づり状態になる。


「こ、これは糸魂蒻⁉」


「釘井先輩か!」


 超慈と仁が揃って向けた視線の先には糸を発するステラの姿があった。


「クリス狙いとは思ったけど、まさかこんなバカ正直に突っ込んできてくれるとはね~」


「く、くそ!」


「やられた!」


「馬鹿が!」


「なんだ⁉」


「おっと!」


「ちっ、礼沢君か……」


 ステラが舌打ちする。彼女の言葉通り、亜門が魂旋刀を振るって糸を切ったため、超慈と仁は体の自由を取り戻すことが出来た。亜門が叫ぶ。


「見てのとおり、遮蔽物もそこかしこにあるんだ! 身を隠しながら接近するとかやりようがいくらでもあるだろう! もう少し考えろ!」


「うぐ……」


「返す言葉もない……」


「とにかく身を隠せ!」


 亜門の言葉に従い、超慈と仁も付近の遮蔽物に身を隠す。ステラが小首を傾げる。


「今度はかくれんぼ?」


「残念だけど、話し声でおおよその位置は掴んだんだよね~」


「⁉」


 亜門たちの近くに小さい円が現れる。


「ステラちゃん、よろしく~」


「玉魂蒻!」


「しまっ……どあっ!」


「ぐはっ⁉」


 爛漫が発生させた円からステラの玉魂蒻が投げ込まれ、派手に爆発する。爛漫が笑う。


「人を移動させるのは、それなりの魂力を消費するから、あまり多用出来ないということが分かった。ただ、その玉を送り込むくらいの穴なら作り出すのにさほど苦労はしないよ~」


「爛漫っち……しばらく会わない間に随分と魂道具を練り込んだんだね。マジ感心したわ」


「そういうステラちゃんこそ、玉状の魂蒻まではある程度予想できるけど、それが爆破するとはね……正直その発想は無かったよ~」


 爛漫とステラが互いを称賛し合う。四季も微笑を浮かべる。


「やはり経験の差が如実に出ましたかね……?」


「どうかな?」


「え?」


 姫乃の言葉に四季が振り向く。姫乃が淡々と呟く。


「玉魂蒻を喰らった悲鳴が2名分しか聞こえなかったが、私の気のせいか?」


「はっ⁉」


 四季がバトルフィールドに視線を向けると、そこには爛漫のすぐ眼前に迫る、二刀を構えた超慈の姿があった。爛漫が驚く。


「ば、馬鹿な⁉ どうして⁉」


「……」


「君のその魂力を感知できるという魂択刀の力かい⁉ いや、その辺りももちろん織り込み済みで、魂力の出力は最小限に留めていたというのに!」


「もしくは魂波凄の描いたいくつかの円の位置から爛漫君の位置を逆算した⁉」


 爛漫と四季はこれ以上ないくらいの早口でまくし立てる。大して超慈はボソッと呟く。


「……勘」


「なっ⁉」


「なんですって⁉」


「はっはっは! 優月、やはり貴様は面白い!」


「桜花先輩、少し大人しくしてもらいます!」


 超慈は二刀を振りかざす。爛漫が顔をしかめる。


「ぐっ!」


「もらった!」


「させるかよ!」


「む⁉」


 超慈の振り下ろした二刀を回り込んだ燦太郎が両足で受け止めてみせた。


「へっ、あまり調子に乗るなよ、一年坊……」


「燦太郎のアホ! いや、ナイス!」


「どんな言い間違いだよ、ステラ!」


「あのくのいちちゃんは⁉ アンタに任せたはずだけど⁉」


「かわいそうだが、開始早々、腹にワンパンで大人しくしてもらったよ!」


「ちゃんと確認した⁉」


「えっ⁉ い、いや、あそこに転がっているのが……って、ええ⁉」


 燦太郎が指差した方を見て仰天する。そこには木の丸太が転がっていたからである。


「変わり身の術よ! ベタな術に引っかかるな、マジアホ!」


「って、本物はどこだ⁉」


「もらったでござる……!」


「クリス! 2時の方向!」


 ステラの叫びよりも早く、クリスは振り返って、後方から飛びかかる瑠衣を確認する。


「気付かれたか⁉ だが、もう遅い!」


「『ネガティブ舞踊♪』」


「⁉」


「この舞踊を目にした貴女は戦意喪失気味になる! これで終わりよ……⁉」


 クリスティーナの言葉通り、瑠衣のジャンプは急に勢いを失ったが、それでも瑠衣の振るった小刀はクリスティーナの制服の袖を一部切り裂いた。四季が驚く。


「クリスのデバフ効果をわずかでも無効化するとは……」


「ふむ……白組、一年生もなかなか見どころを作ったな……!」


 そこに突如轟音が鳴り響き、5人の男女が現れる。フィールドの中心に立つ男が呟く。


「お楽しみ中のところ悪いが、邪魔をさせてもらおうか……」

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