第9話(2)合魂の向こう側

「……なんとか逃げ切ったか」


「……見逃してもらったと言った方が正しいかと」


「ふっ……」


 姫乃の言葉を四季が訂正し、姫乃が苦笑する。爛漫が呻き声をもらす。


「ぐっ……」


「助かったぞ、爛漫。魂破凄の力をフルに活用してくれたな」


「おかげさまで魂力はもうほぼゼロです。まさに精魂尽き果てましたよ……」


「10人を移動させたわけだからな、無理もない。しばらく休め」


「……ここは?」


 亜門が問う。


「通称『旧部室棟』の一室だ。来年度には取り壊しが決まっている。まさかここに逃げたとは即座に予想は出来ないはずだ」


「追撃を警戒した方が良いですか?」


「いや……ある程度目的は達しただろうからな。追撃はないと見ていいだろう」


「目的?」


「……こちらの心を折るということだ。二度と生徒会に刃向かう気持ちを抱かんようにな」


「! ……確かに」


 亜門は周囲を見渡して頷く。合魂部のメンバーがそれぞれ天を仰いだり、俯いたりと、皆どこか心ここにあらずといった状態である。姫乃が腕を組んで苦々しく呟く。


「生徒会の実力は概ね把握しているつもりだったが、私が離れているこの半年間であれほどまで各々の魂力を高めているとは……正直、想定外だった」


「エウゼビオの奴、凄いパワーだった……」


「それだけじゃない、スピードまで兼ね備えていた。あれに対応するのは難しい……」


 クリスティーナとステラが揃ってうなだれる。


「駒井という女、細腕なのにあの魂道具を易々と扱うとは……」


「以前よりも基本的なパワーが上がっていますね……」


 亜門の呟きに四季がため息まじりに応える。


「あの胡蝶という女、何をしたし?」


「さあな」


「さあなって……」


「とにかく、スピードが通じないならお手上げだ」


「確かに……」


 両手を上げる燦太郎に瑠衣が同調する。


「あのおかっぱに全く歯が立たなかった……」


「あれくらいの速度であの魂道具を操られたら、正直打つ手なしだね……」


 仁の言葉に爛漫も同意する。


「……まんまと心が折られてしまったか。ほぼ織田桐の思惑通りだな」


 各人の様子を見て、姫乃が頭を抑える。


「……部長」


「ん? なんだ優月?」


「あの生徒会を打倒するのが、部長の目的なんですか?」


「まあ、そうだな。最終的な目的は別だが……」


「最終的な目的?」


「ああ」


「それはなんですか?」


「今は詳しくは言えん……強いて言うなら、『合魂の向こう側』……だな」


「合魂の向こう側……」


「そうだ、その先に見えてくる景色がある」


「その景色を追いかけているんですね?」


「そうだ」


 姫乃は深々と頷く。超慈が笑う。


「良かった……」


「良かった? 何がだ?」


「いや、部長の目的が『この学校のテッペンを獲りにいく!』とかだったらどうしようかと思っていまして……」


「人をベタな不良漫画の主人公みたいに言うな」


 超慈の言葉に姫乃はふっと笑う。


「『合魂』とはお互いの魂を合わせ、魂から生じる波動を導く……これこそが『合導魂波』だと説明会で部長はおっしゃいましたよね?」


「ああ、よく覚えていたな」


「合魂の向こう側とは、波動が導かれる先……ということですね?」


「……そのように言い変えてもいいかもしれんな」


「……俺、見てみたいです! その先を!」


「⁉」


 超慈の発言に姫乃は目を丸くする。超慈が問う。


「? どうかしましたか?」


「……いや、驚いたのだ」


「何を驚くんですか?」


「貴様、あの織田桐の力を見ても心が折れていないのか?」


「え? 全然大丈夫ですよ」


「ほ、ほう……」


「むしろ逆に燃えていますよ!」


 超慈は力強く拳を握る。姫乃が戸惑う。


「も、燃えているのか……?」


「はい!」


「なにがそこまで貴様を突き動かす?」


「合魂を突き詰めれば……織田桐みたいにあんな美女を複数人どころか、美少年やマッチョまで侍らせることが出来るんでしょう⁉」


「え?」


「これこそ男のロマン! 憧れないわけがない!」


「ちょ、ちょっと待て……」


「というのは建前でして、本音は合魂道を極めたいんです!」


「本音と建前が逆になっているぞ!」


「ええっ⁉ し、しまった!」


 姫乃の鋭いツッコミに超慈が慌てる。姫乃が呆れる。


「ったく……」


「す、すんません、今の無しで……」


「……ぷっ、あっはっはっは!」


「はっはっは!」


 姫乃や他の合魂部のメンバーがどっと笑い出す。超慈が戸惑う。


「あ、あの……?」


「なかなか面白いね、眼鏡君♪」


「超慈っち、動機が不純過ぎてウケる~」


「欲望に忠実だし……」


「だからこそ心が折られなかったのでしょうか? 興味深いです」


「いや、竹村先輩、こいつはただのアホですから考えるだけ無駄ですよ」


「参った! 俺よりドアホがいるとはな!」


「驚いたな……あれ? 外國君、泣いていない?」


「いや、男まで侍らせたいとか言い出すから、色々拗らせ過ぎて気の毒になってきて……」


「待て! 仁! 同情の涙はやめろ!」


「あっはっはっは!」


 超慈と仁のやり取りに再び笑いが起こる。姫乃が超慈に優しく語りかける。


「バカだ、アホだ、ドスケベだと思っていたが……今は貴様に救われた」


「酷い思われよう!」


「各人、目に光が戻ってきたようだが……どうだ? 今一度私に力を貸してくれないか?」


「はい!」


「良い返事だ! よし! 合魂部、反撃準備開始だ!」


 姫乃が凛々しく号令をかける。

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