第4話(2)ビニールハウスにて

「ここは……」


 張り紙の示す順路に沿って進むと、校舎の近くにある畑がたくさん並ぶところにたどり着いた。超慈が首を捻る。


「学校に畑?」


「なにもおかしい話ではない……ここは農業科の校舎だからな」


「あ、そうなのか……それにしても随分と広い畑だな」


「ここと大学の農学部が耕作する田畑で、この広い学園都市の米、野菜、果物などはほぼ賄えるという話だ……」


「ス、スケールのデカい話だぜ……」


 亜門の説明に超慈は感心したように頷く。亜門が呟く。


「それでここまでやってきてしまったが……」


「おっ! そこのイケてるお兄さん2人!」


 作業着姿の女子生徒が元気よく声をかけてくる。超慈は照れながら答える。


「いや、そ、そんな、イケてるって……」


「見え透いたお世辞は結構、ここにはイケてる男は1人しかいません」


「……どういう意味だよ!」


「そういう意味だ」


「お前なあ~」


「なんだ? やるか?」


 超慈と亜門が顔を近づけ睨み合う。女子生徒が慌てる。


「ちょ、ちょっと、落ち着いてちょうだいよ! 私が原因なら謝るよ!」


「貴女に謝ってもらう必要はありません……失礼しました」


「し、失礼しました!」


 頭を下げる亜門に合わせ、超慈も勢いよく頭を下げる。


「わ、分かってくれたのならいいんだ……お兄さんたち、ここに来たってことは張り紙を見てくれたってことだよね?」


「ええ……『特別メニュー発売中』だとか……」


「あの張り紙に気づくとは……なかなか目ざといね~」


「い、いやあ~それほどでも……ありますけど!」


「あるんかい!」


「「あっはっはっは!」」


 超慈と女子生徒は声を揃えて大笑いする。亜門が冷めた口調で告げる。


「……それで、その特別メニューとは?」


「なんだよ、ノリ悪いなあ~」


「ノリを合わせる意味がない……」


「いや、世の中は九割方ノリで出来ているんだぞ?」


「それならば俺はマイノリティーで構わん……」


「あ……今、ノリとマイノリティーで『ノリ』を掛けたんすよ、こいつの得意なエリート気取りギャグです!」


「あ、ああ……そうなんだ……」


 超慈の説明に女子生徒は苦笑する。亜門がいら立ち気味に声を上げる。


「人のギャグを説明するな……いや、待て、そもそも俺はギャグなど言っていない!」


「まあまあ、そんなに怒るなよ……」


「貴様が怒らせているんだ!」


「えっと……そうだ! 特別メニューってのはどこなんですか?」


 超慈は亜門を宥めながら、女子生徒に尋ねる。女子生徒も気を取り直し、説明する。


「あそこに見えるのがこのエリアで一番大きいビニールハウスだよ。あの中で販売しているの。農業科自慢の一品だよ!」


「へえ……」


「さあ、行こうか!」


 女子生徒が超慈たちをビニールハウスへと誘う。超慈が戸惑い気味に尋ねる。


「普通科の俺らが入って良いんですか?」


「全然大丈夫! さあさあ、奥の方までどうぞ!」


 超慈たちは奥に進む。亜門が呟く。


「……作業中のようですが?」


 亜門の言葉通り、亜門たちの進む道の両脇では生徒たちが忙しく作業を行っている。


「ああ、気にしないで、私も作業中だったし! それよりもお客さんの対応だよ!」


「はあ……」


 亜門は顎をさすりながら頷く。超慈たちはビニールハウスの奥の方に着く。そこにはテーブルが置いてあったが、特別メニューというものが見当たらなかった。超慈が首を傾げる。


「あ、あの……特別メニューというものが見当たらないのですが……」


「これだよ」


「い、いや、それはこのビニールハウスで獲れたての野菜ですよね? さすがに昼食で生野菜を買って帰るというのは……」


「タダであげるよ」


「ええっ⁉ そ、そういうわけには……」


「遠慮しないで……代わりに君たちの魂力を頂くから!」


「うおっ!」


「⁉」


 女子生徒がテーブルにあった物を手に取って、超慈に斬りかかるが、超慈はこれをかわす。


「はあっ! ⁉」


 男子生徒が後方から斬りかかるが、亜門が魂旋刀で受け止める。


「ふん……」


「ば、馬鹿な、すでに魂道具を発現しているだと⁉ い、いつの間に?」


「……ビニールハウスに入ったころからだ……」


「な、何故気づいた⁉」


「作業をしているというわりに誰の手も汚れていなかったからな……既にバトルフィールド内に入っているのだと考えた……!」


「くっ!」


 亜門は魂旋刀を力強く押し返し、男子生徒は転倒し、手に持っていたものが転がる。


「それが貴様ら『合魂同好会』の主な魂道具、『大魂だいこん』か……」


「なっ⁉ そ、そこまで知っているの⁉」


 女子生徒は超慈に驚きの視線を向ける。超慈は咳払いを一つして答える。


「……当然、リサーチ済みですよ」


「嘘つけ! お前は全然警戒していなかっただろう!」


 亜門が呆れ気味に声を上げる。超慈は言い返す。


「だって、部長さん、教えてくれないんだもの!」


「極度の放任主義だということに気づけ! 重要なことは自分で調べろ!」


「魂~道~具!」


 超慈も魂択刀を発現させる。亜門が頭を抑える。


「だからいちいち叫ぶな、やかましい……」


「これは俺のルーティンみたいなもんだ! で? こいつらを倒せば良いんだな!」


「まあ、そういうことだ!」


「ちっ! 皆包囲しなさい! ……完璧なはずの計画が狂ったわ」


「完璧……大した大根芝居でしたよ」


 亜門が相手を煽る。


「! この……やってしまえ!」


「『繰り出し』!」


「うおおっ!」


 亜門が振るった刀の刀身が伸び、包囲していた者たちの足を払って勢いよく転倒させる。


「そら! お持ち還りだ!」


 超慈が的確に追い打ちをかけ、同好会の者たちの魂力を吸い取る。亜門が笑う。


「ふっ、所詮は雑魚か……」


「ビニールハウス、壊しちゃったな……」


「気にするな、バトルフィールドのことは現実には影響しない」


「そうだっけ?」


「それくらい覚えておけ……」


「それなら良いんだが……どうするこれから?」


「……同好会のトップには因縁がある。この際、一気に片を付ける……」


 亜門が歩き出すのを超慈が慌てて止める。


「ちょ、ちょっと待て! 一旦部長のところに戻った方が良いんじゃないか⁉」


「そんな悠長なことは言っていられん。先手必勝だ……」


「で、でもよ……」


「戻られても面倒だし、相手をするのも面倒だけど……」


「⁉」


 声のした方に超慈たちは振り返る。赤茶色のミディアムボブの髪型をした作業着姿の女性がだるそうにベンチに腰をかけている。亜門が前に進み出る。


「同好会のトップはどこだ?」


「それを聞いてどうするの?」


「愚問だな。倒すだけだ」


 亜門は魂旋刀を構える。女性はため息をつく。


「はあ……ウザ……やっぱりウチが相手しないとならないじゃん……」


「貴様は確か……」


 記憶を辿ろうとする亜門の前に女性は手を突き出し、手を左右に振る。


「ああ~そういう探り合いとかいらないから、面倒くさい。さっさとケリをつけちゃおう?」


「……同感だ、魂力を吸い取らせてもらう!」


「……」


「どわっ!」


 女性が手をかざすと、突っ込んだ亜門が豪快に転倒し、頭部を強打した。


「お、おい! 大丈夫か!」


「……!」


「! ぐっ、ぐは……」


 亜門に駆け寄ろうとした超慈の横っ面を何かが殴り、超慈は倒れこんだ。


「……威勢のわりには大したことないね。警戒し過ぎたかな? さて……」


 女性が端末を手際よく操作する。


「……最悪の結果ですよ」


「こちらも確認した……」


 端末を見た四季の言葉に、姫乃は端末画面を見ながら頷く。仁が尋ねる。


「あ、あの……? 超慈たちになにか?」


「……敵の手に落ちた」


 姫乃は壁に張り付け状態になった超慈と亜門の画像を見せる。


「ええっ⁉」


 仁と瑠衣が声を揃えて驚く。

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