第37話



*クラインの壺に飾るカーネリアン


 

「ローゼンベルグさんとどっか行くの?」

「ああ、獣人たちの国に興味があるって」

「ぼくは?? 連れてってくれないの?」


 天使族の住処の一つ。

 天空の島の上の生家で休息していると、勢いよく扉を開けてイザベラ――弟エリザベートが入ってきた。弟が毎度勢いよく入ってくることに慣れたその兄が拗ねている彼を弁解した。


「元々行くつもりだったし、……エリザは予定あるだろ?」

「学校のなら、いいよ。ほっといても」


 イザベラは大学院生として、研究や教えたりもしていた。

 しかし昔からぶらり旅に憧れていて、天使族の象徴である羽も失っているおかげ(?)か堰を切ったように色々なところへ訪れているという。

 その日もまた学校の件ではなく、助けて貰った人魚に会いに海に行く予定に騎士団の予定に詰め詰めだった。


「だめだ」

「……えーーー、わかったよ」


 そう言いながらイザベラはアナスタシアの隣に座り、持っていた本を読み始める。しかしチラチラとアナスタシアの方を見てくる。その本の内容はきっと頭に入っていない。それにアナスタシアが「っ……」と笑いそうになるのを堪え、そっぽを向く。

 イザベラが再び駄々を捏ねるまで黙っていると、「随分最先端なんだってね。獣人たち魔法使えるのに、機械を作ってるんだって」と目線は本に向いているが予備知識を口々に喋り出す。その様がやっぱりおもしろくてとうとう「ふふ……」と声に出して笑ってしまった。

 無理な事がわかった上で駄々を捏ねるイザベラ。

 任務もあるだろうからと餞別に「ほら」と言って、胸に拳を持っていっていたアナスタシアがそこから出たものをイザベラにあげる。


「わ! ……と。これ、…………魔石?!」

「それは、お守りだ」

「…………へぇ。いや、ナーシャ、魔石取り出せたの?!」

「ああ。前にフローゼと会った時、聞いた。教会の騎士たちはバフ目的であらかじめ自分から魔石を取り出すらしい。出来るものはあまりいないし、微量しか出せないらしいから……結局は別の物を用意しておくらしいけどな」

「えーっ、ローゼンベルグさんそんなこと説明してくれなかったよ?!」

「まあ、まあ」


 再び拗ねながらも嬉しいらしく、「雑誌で見たアクセサリーあんま興味なかったけど……、今ならちょっと気持ちわかるかも」と独りごつ。

 そうしてイザベラは二人と共にお出かけすることを諦めて黒竜と共に迎えに飛ぶ兄を見送った。その手には暁の陽の石を抱いて。

 

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