第15話
*砂塵に混じる朱*
あたりが橙一色になる頃、アナスタシアは目的の場についた。 地についてから、フードをツノにかけて被る。中々に、壮観だと思いながら歩き見る。
そこは、古来に砂の竜、岩の竜が通った跡だと言われる渓谷であった。
地上は砂漠で、移動以外は外に出るとワームなど魔物からの被害を受けない、外気から守ると言う理由のため人々はこの谷に住まう様になった。
またその竜が通ったとされる渓谷はいくつかある。そこをコロニーと呼んでいた。
アナスタシアが、宿までの道を観光がてら歩きみたところ、コロニーから魔石発掘できるせいか、ここの住人は裕福だった。
見るにコロニーの壁を掘り、そこを家としており、広く、魔石のおかげで温度調整灯もある。
——まるで蟻の巣だな。
と観光しながらアナスタシアは思う。
コロニーの中央はちょっとした滝となっており、そこに土の竜の像がおいてある。
付近には社もあった。
この砂漠地帯が魔石のおかげで裕福なため豊穣、商業の竜としても有名らしく、アナスタシアは商人たちと多くすれ違った。更にこの砂漠地帯を囲う様に港の国がある。そう言う観点からこの大陸はある意味で潤っていた。
——もし土竜に、会ったら世間話と共にこの街や隣の港の変わり具合。どう思っているか聞いてみたいな。
と、思いながらアナスタシアは歩き見た。
この渓谷に住み始めた経緯には、魔石と危険な魔物たちが彷徨いているから。
その一つにワームがいた。ワームたちも土の竜の眷属の一つみたいだし、明日にでも接触しておこうと、思いながら人たちのワームに対する不安を他所に思った。
そうして観光がてら歩くと宿がいくつか見えて来た。
——どこでもいいが……鬼人のフリしているし。大丈夫なところがいいかな。
と思い比較的獣人や人、種族の多く入っていく宿にはいった。
鬼人という種は、基本的にどの国でも忌み嫌われている。獣人や魔族さえもいい顔はしない。
その
最初宿の者も一瞬怪訝な顔をしたが、
「いらっしゃいお一人かい」
と、普通の対応をしてくれたのと素泊まりでも良さそうでホッとした。そして、
「ああ、一部屋頼む」と手続きした。アナスタシアは翼さえうまく隠せば鬼人というツノのある魔人にみえる。
——むやみに人に関わる必要がない。
それがめんどうだったから鬼人で行ったが、杞憂だったか……。
と、アナスタシアは思いながら、部屋に行く。
明日は地上に出て、一気にある遺跡に向かうつもりだったので湯浴みし腹を満たした。
まだ、心身共に調子が良いことに安心しつつ寝にはいる。
遺跡と言われてはいるが、本人や眷属はたまに来ているみたいだし、帰りは飛べばいい。
と思い眠りについた。
朝。
砂漠の暑さにやられない様、一目憚る様に、早めに出、目的の神殿まで行く。太陽が登りきらない頃、神殿に着いた。オアシスになっているようで、地下水が湧き出ている。
——竜たちの飲み水か?
と、それを横目に見ながら、竜が移動しやすいような、高さになる神殿に入った。
天井はかの竜が入りやすいように、全て開けていて、神殿が白一色なお陰で視界が明るい。
開けている割にそこまで熱くないのは、半地下になっていることと水の行き来があるのもあるだろう。
しかしこの神殿の持ち主であり、訪れた目的の竜。天竜。不在のようだ。
「不在か」
とアナスタシアが呟いた途端、「何用かな。竜王様」と空から声がした。
——なんだ、いたのか。
と、思いながら着陸するその竜を見ながらアナスタシアは眩しそうに眺める。
羽毛、羽根を何枚も生やし、更に背中には天使の輪にも羽が生え、体も竜種にありがちな鱗ではなく毛が生えていた。
見た目は竜というより猫に近いその竜――天竜にアナスタシアは答えた。
「あなたに会いに。そう、人に復讐したくはないかと思いまして。
契約者、人間に殺されたのでしょう?」
と、さっさと挑発するように本題に入る。
「どこでそれを?」
天竜は睨む様にアナスタシアを見、答えた。帝国の宰相と同様の『契約』を、この渓谷の向こう海沿いの国の王子と交わしていた。
魔石とは別に魔法を使う手段として竜との大昔から契約があった。これは竜が建国の礎になっていたり神話となっているためと言われていた。
今は教会に存在を抹消されているものだった。
アナスタシアもこれは全て血から見えた邪竜の記憶。もしくは彼が食らった者から。自分以外の記憶からと答えていいものか、アナスタシアは返答に迷っていた。結局、
「風の噂で……」と曖昧に答えた。
竜本人は「ああそうだな」としか言わないのと目を合わせない辺り、まだ生存しているのかもしれないとか敢えて隠しているのかと思いながらも聞くことはせずに話を合わせた。
「知っていたのか?」
と、アナスタシアは少し驚く。
しかし話が早いと眷属も含め参戦してくれないか交渉をした。契約者の事があるようだが、中々渋る天竜に別の話を振った。
「……ところで、邪竜と面識あるのか?」
「まあ、過去お茶した事は幾度かある。
どれも他の者に誘われただけだが、優しすぎるな、とは思ったな」
「優しすぎる…?」
「彼の最期どうだった?」
「いや、俺も無我夢中だったので……よく覚えていません。奴の安心した顔が意外だったのは覚えているくらいで…」
「……そうか」と、天竜の声を聞いてからアナスタシアは、これ以上説得しても後はこの竜の意志だしなと思い帰ることにした。
「では、邪魔しました。
もし、来るなら夕暮れ時に……あ、今度戦う時わかりやすいように夜俺が狼煙を上げることになっているので」
と言ってから、口元を押さえる。
デジャビュ、昔誰かにも言ったような…
アナスタシアが既視感を感じながら歩いている内に、
「考えておこう」
それを後ろで聞いてから、飛び立った。
帰り際、ワームたちが砂から上半身だけ出してこちらを見ていた。可愛らしいなと思いながら、そちらに飛び寄り、撫でてあげた。
そのワームたちの主でありどこかにいる砂の竜に天竜と同じような内容を言伝して夕日に向かって飛んで行った。
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