第5話

 



 目が覚めるといつもの自室の天井ですでに橙色に染めていた。アナスタシアは起き上がらずに、頭の整理をしながら生えて来たツノを撫でる。そして寝たまま背伸びをする。


「――――ううぅん」


(…………誰かがベッドに運んだのだろうか?

 あの竜との戦い……。多分夢じゃあないよな。

 朧気だからいっそ、夢だったら幾分かよかったのに。体がだるい

 血は飲んだのだが……)


 考えながらダルさからかベッドから起き上がれず、ゴロゴロ寝返りをうつ。

 弟、片割れが目の前で落ちて、亡くなってしまった喪失感。それをかき消すように、布団に埋もれる。少し安心したようで布団の夕日の香りを嗅ぐ。

 そのままアナスタシアがごろごろしていると「失礼します」と、人型に化けた竜が食料を運んできた。竜だとわかったのは尻尾とツノと肌に鱗が見え隠れしていたから。褐色の肌。反射で鱗が光るのをアナスタシアが寝たまま眺めた。

 ベッド傍の机にそれらを置き、アナスタシアに向き合う。


「なぜ……」とアナスタシアが多分こいつが運んだということを察した。また、色々と聞きたい事がありすぎてなぜとしか聞けなかった。

 

「ㇱ、聖竜様、……竜王様はもう自我がなく、暴れてしまっており我らも止めることもできませんでした。

 あなた方天使族には申し訳ないことをしました。

 謝礼にもならないがこれからは天使族たちをお守りしたい」

 と、黒龍という邪竜の眷属であった者が謝礼する。


 謝礼を淡々と語る竜にイライラと対して聞きたかったことが聞けず「…………――っっ、……こちらは弟や一族死んだんだが、な」とアナスタシア。


「申し訳……」

「うるさい」

「とにかく、何かお口に…」

「血は経口したからだいじょ……んむむ」


 押し問答からの無理矢理にでも食べさせようとする。仕方ないとアナスタシアは匙を黒竜から取り、自分で食べ始めた。それを見て胸を撫で下ろした。やっと起き上がって周りを見ると窓から竜が除いていて驚いて噎せてしまった。

 それをまた黒竜が介抱してちょっと上機嫌になったアナスタシアが「折角だから聖竜のことを聞かせてくれ」と聞いた。流石にそれは期待通りの回答が来た。


 回復魔法が存在しなかった。だから魔石を接種して角の生えてしまった鬼人たちの治療が行き届かなかった。そういう状態になった人間は転生しないと言い伝えられていた。

 実際獣人の間ではまだそういう話が伝わっているから事実に近いかもしれない。

 そういう子供を孤児院で引き取っていた人間がその現状を見て耐えられず輪廻の竜と『契約』して自身を竜として転生してもらったという。


 それが聖竜の誕生だと黒竜がいった。

 そういう話をとりあえず満腹になったアナスタシアがまた寝っ転がりながら聞く。

 それを流れで隣りに座った黒竜が頭を撫で始める。最初、アナスタシアは叩いて拒絶したがウトウトし始めてやめた。

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