第24話
*The Dragon Tear*
マリア、
ソフィア、
デヴィッド、
サラ、
アナスタシア、
……アナスタシア?
……——あ、————様…?
「アナスタシア、様?」
と、覗き見、少し心配そうにする黒竜がいた。
竜そのままの姿に対して驚きもなく、
「あ、ああ…」
寝ぼけながらアナスタシアが返事をする。ベッドに投げ出されるように寝ていたようで靴は履きっぱなし。
正装のまま。
昨晩覚えてらっしゃいますか?と、黒竜。
よく覚えていないようで、
うーーーー
と、唸りながらアナスタシアは頭を掻く。
チラッと見るとビンが倒れているのだけ見えた。
「もう少し寝る」
と、人型に変化し片付ける竜に告げる。
ここは自分の故郷やイザベラと過ごす崖の白い家とは別の、竜人たちだけが住む滝。渓谷。そこから木が生え、そこに彼等は居を構えている。
だから、竜用の客室——今アナスタシアがいる、広い部屋もあった。
俺には広すぎ…
と思いながらゴロゴロ。
人間では到底到達し得れない場所。
だからこそ、ゆっくり寛げるんだ
と、思いながら寝返りをうつ。
広いとはいえ、アナスタシアくらいの背丈の者用に天蓋付きのこのベッドがあるため中々快適らしくまたうつらうつらしていると、
「今日、ワイン出来ると言っていたではないですか?
…飲みたくないので?」
「飲む」と、アナスタシアが寝たまま天井に向かって返事する。
「では、」
と、あらかた片付けを済ませた黒竜がため息をつきながら「行きますよ」と介抱してあげる。
結局、おんぶしてそこまで行くことにした。
この竜人の地。
崖とそこから生えている大樹に家を建てている。
標高も高く、飛んででしか辿り着く事ができないので、大抵は渡鳥の獣人や魔族が羽休めで宿代わりに訪れる事が多い。
その大樹の上に、葡萄が実っている。
これが、珍しくオレンジ色のもので毒はなく、商品にしたらいいと提案したのが数年前。
とうとう出来上がったと報告があって、今回アナスタシアが来ていた。
飛竜や空竜と言った竜たちの交流も兼ねていた。
今も上に向かっている途中途中で小さな竜がアナスタシアの周りを楽しそうに飛んでいた。
それをくすぐったそうにふふと、笑う。
目的地に着くと、空が待っていた。
テラスから雲海を眺める形のそこ。
既に空竜が今か今かと座り待っているのが見えた。
アナスタシア様、こちらに
と、その隣に促す。
ああ、
と二日酔いもどこへやらウキウキで座る。そして竜人がオレンジ色のワインをグラスに注ぐ。見れば見るほど、
エリザ、オレンジジュース好きだし、悪戯にこれ仕掛けるのにいいな…
と思いながら、
「本日はお招き…」と、アナスタシアが畏まり挨拶するも「砕けてもらって構いませんよ」と、空の竜に遮られる。
「このワイン、あなたの考案ですか」と、アナスタシアに問う。
「はあ……人間たちの中で葡萄酒を好んで飲む者も料理の調味料として使う者も多いので提案したまでです」と、アナスタシア。
心の内では、「まあ、俺が飲むためもあるんだが」と思いながら。
「へえ、それはいい
これを機に獣人種と人間たちが共存してくれると良いのに……」と、独り言のように呟く。
「ああ、人間ならもっと上手い方法を教えてくれるかもしれませんしね」と、アナスタシア。
——そうなれば、その道のプロを絶対連れて行くと心に決めながら、たわいもない話をする。
大抵は人の世の事、他の竜の事。
「まだ、火竜は墓守してるのか」と聞かれて、
「まだ?」と思いながら同意し、「また会ってやらんとな。彼奴は寂しがり屋さんなのでね」と、空竜。
飲みながら、話が一通り終わったのを見計らって、
「あなたも参戦ってことでいいのか…?」
と、グラスを持ち、傾けながらアナスタシアが空竜に問う。
「ええ、
もちろん。
もう、備えてあります」と、凛として空が答える。
「せめて我が子らの為に爪痕を残しましょう」
と、寂しそうに。悲しそうに、覚悟を伝えた。
目に光るものが見えた気がしたアナスタシアはそれを見ないように、手に持つ夕陽色のワインを一飲みした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。