第34話

*ブラッド・ドラグニル*


 

 ——図書館のいつもの隅っこはすぐバレる

 と、誰も通らない様な階段の隅っこ、大樹の根っこが少し突き出た所が最近のお気に入りの読書、勉強場所としていた。

 

 彼、イザベラの従者であるフローゼはイザベラが場所を変えても特定していた。

 

 今日も、見抜かれ教会内部についての相談された。

 

「天人内で変なお酒が流通しておりまして……」と、フローゼ。

 

 イザベラは「また教会行かなきゃかな」と言いたそうな顔をした。

 そんなイザベラの反応を見て、

 

「ま、まあまあ

 聞いてください」

 と、宥めてから、少し言いにくそうに

 

「——……言いづらいのですが

 そのお酒、ブラッド・ドラグニルと言いまして……

 その後、パーティにてそちらのボトル何本か確認されました」

 と、頬を掻く。少し困った様に微笑む。

 

 ——はああああ

 ナーシャだ……

 と、頭を抱える。

 それを察知してか否かフローゼが続ける。

 

「そ、そのっ、もちろん

 父や私、宰相のおじさまがどうにか弁明しまして、今のところお兄様やイザベラ様、竜人族へ目は向けられていないかと思います」

 

「ありがとう」

 と、イザベラが冷や汗を拭うように目を擦る。

 

 

 

 イザベラも何となく嫌な予感はしていた。

 というのも、数日前。

 崖の白い家にて。

 

「ふふふ……」

 と、兄アナスタシアの不敵な笑い声が居間から聞こえた。次いで鼻歌も。

 居間、二階のフロアは壁がなくオープンでよく響く。だからイザベラは

 

 ナーシャがまた何か悪戯でも仕掛けるのかな

 なるべく引っかからないようにしないと

 などと軽い気持ちで思っていた。

 

 途中、

「やっと俺は奴の毒を制御した‼︎とかやっと趣味だった園芸再開できるっ」とか嬉々として独り言をまるでイザベラに話す様に言っていた。

 

 と、数日前の事を思い出す。

 

「な、兄さんには注意しておくから‼︎」

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 その後。

 本人に問いただすと

「敵だしな

 そりゃ楽な方が良い

 

 血毒を制御出来てきてな

 、酒と混じれば酔わせて狩れる

 

 痛みも苦しみもない……

 一番優しい殺し方だ

 彼らからしてみれば一番嬉しい筈なんだがな」

 と、続けて「不老不死も可哀想だろ」

 

「ははは」と、笑う。

「笑い事じゃないよ……」と、イザベラが少し引きながら伝える。

 

「だってほら、水の席だったか?何千年と生きてるんだろ?」とアナスタシア。

 

 イザベラの就いている風の席——

 これは教会に所属する魔法の力を持った天人を統べる四天王の様な存在。四元素を基礎とした魔石が多く、それにちなんで四人選出している。

 

「そ、そうだけど……会ったことないし」

 

「まあ、ローゼンベルグさんの父上殿にでもあげておけば良いか」と、悪びれもせずアナスタシアが言う。

 

 それにガッと肩を掴み、イザベラは

「ダメ‼︎と、とにかくだめっ」と、念を押す。

 

 

「はあ……」と、ため息をつき、「おまえみたいに血で回復できる能力だったらよかったのに」

 

 と、イザベラの能力を羨ましそうに呟いた。

 彼は最近やっと自分の天使族としての血の魔法の能力を開花させた。

 少し恥ずかしくなってさっきの必死さはどこへやら「へへ」と笑う。

 

「いよいよ俺の出番も無くなりそうだな」

 

「何言ってるの?これからだよ

 ほら、海底のお魚の人たちと職人さんたち楽しそうだったし‼︎

 僕らも頑張らなきゃ……!」

 と、にっこり笑い、「だから、さっきの事はもうやめてね」と、釘を刺された。

 

「わかったわかった」と、若干適当に同意した。

 

 

 

 

 

 その後、また何度かその騒動が起きては弟にこっ酷く怒られた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る