第28話

*竜王と風の守護者の工作*


 


 『——吸血鬼、人狼族はその戦いで滅んだと言う。

 彼ら血を使った魔法を使う。血での魔法を使う者たちを高位種と呼び、他の獣人とは一線を画す。

 現在は天使族と…』


 ふう…と、自分の種族の話になり、イザベラは我に返った。

 朱色の光に眩しくなり、本を閉じる。


 タイミング見計らったかの様に、

 イザベラ様と呼ぶ声が聞こえた。そう彼を呼ぶのはフローゼという従者くらいだ。


「任務です」と、一言。


 嫌そうな顔をするイザベラを「いつものこと」と、無視する様に続けて、「獣人の反乱分子を抹消せよ…とのことですが

 大丈夫でしょうか?」と、聞く。


 彼女はイザベラが天使族という、鳥の獣人から派生した種族だということを認知しており、また、内緒にしてくれている。


「多分、大丈夫だよ」と、返す。

 

 教会自体人族主義な訳で、所属している以上きっとこういうものもくるだろうことは予想していた。

 …フローゼもどちらかというと穏健派、抹殺よりも保護を選ぶ。

 そうイザベラは思ってある作戦を立てていた。


「ナーシャと打ち合わせしたあれで行けるかな?」


「シュミレーションでは行けましたし、後はお兄様と影竜様、虹竜様たち次第でしょう」と、フローゼ。


「ただ、騎士団にはバレないよう、イザベラ様、うまく立ち回ってくださいね」と、イザベラが一番苦手な事を添える。それを察し、

「その辺私は得意なので、大丈夫ですよ」


「そ、そうかなぁ…」

 と、イザベラが心配そうにした。





 ***





 ようやく見えて来た廃屋たち。

 昔、蒼玉の竜が治めていたという国。

 獣人と人間が共存していた時代。

 その忘れ物。


 あれが?と、イザベラが思う。


 一人で

 出来るかなぁ…

 と、不安になりながら、またその亡国を探検したいという若干の楽しみと共にやってきた。


 兄アナスタシアから竜を借りて、ここまでひとっ飛びし、楽だと思ったのも束の間、


 ーーーーゴウッッ


「——っわわ‼︎‼︎」

 と、イザベラが叫ぶ。

 廃墟群がはっきり見えた途端、炎の弾が幾つか飛んできて、竜がかわしていく。


「離さぬ様に」と、声が聞こえ、チラッと見ると炎の弾が幾つも放たれているのが見えてしまった。


 ——わかったよっ…!

 と、心の中で返事をし、落ちないようにする。


 …–––––っっ‼︎‼︎



 –––––––––…ゴウッッ



 更に追加の炎が舞い、竜が旋回しながら下降していく。そして、威嚇用に息吹と咆哮を数回。



 ————ゴウゥッ

 

 

 「っっ⁉︎」炎が横を通り、

 おそらく魔力が底をつき、炎が止んだのを確認してから竜とイザベラは地に降りた。

 

 蒼玉の地面はまだキラキラと砂埃の中煌めいていた。その地を見ていると、向こうから獣人たちが恐る恐る出てきた。そして、戦闘の意思の無いイザベラにホッとしたのか、


「あ、あんた教会のもんだろ…?でも、匂いが人間じゃねぇが、どういうことだ?」

 と、鼻が効く獣人が訝しむ。


「あぅ、えっと……」

 イザベラが慌てていると、竜が「此奴は御主等を逃す為、工作に来たのだ」と、補足してくれた。


「イザベラ、竜王様だ」と、自分の影からにゅっと黒いモノ——影竜が伝達してきた。



 彼は、

「そういうのが得意だ」と、宣言した為、雷竜や伝の竜を押し退け参加していた。


 影竜のそれと同じくらいに空間に穴が開く。

 そこから兄アナスタシアが来、

「お疲れさん」と労って獣人たちに説明してあちらに行かせた。

 

「大丈夫なの?」と、それを見守りながら聞く。


「前、獣人の国に行った時

 迫害や命の危機が迫っているもの…そういう者たちがいるならここに逃していいか聞いたからな

 ま、それは気にするなよ」と、アナスタシア。

 

「うん。でも……

 いつかは分かり合えると良いね

 海の人たちみたいに」

 

 そう喋っていると、獣人は残りリーダーらしき者のみとなった。彼が、感謝の言葉を伝えてから穴へと潜っていった。

 

 それと空の竜たちが来たのを確認してから、

「じゃ、俺も行くから、また後でな」と、アナスタシアも続けて潜る。

 

 


「ナーシャ‼︎」

 と、イザベラが穴をくぐる兄を止める。


「ん?」


「ぁう……い、いや…何でもない」

 と、どこか遠くに行きそうな気がして不安になる


「……?

 落ち着け。エリザ

 あの飛竜たちが証拠を消していく

 ブレスで建物破壊して……って感じでな

 で、その辺の魔物の骨でどうにか任務しました感出るだろ」

 そう説明し、「心配するな」と、安心させる様に言って後でなと、くぐって行った。


 そう言う訳じゃないんだけど…

 もう離れていかないでね

 遠くに行かないでね


 と、思いながらその背中を見送った。

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