第26話

*黒き竜。赤に負ける*


 


 

 

 荒廃した土地。

 何もない所に、湧く砂塵。

 そして、轟音。

 

 ———…ドオオォォン 


 ——ドオォン



「…っっ‼︎

 ——……ぐぅっ‼︎」


「まだまだですね。

 アナスタシア様」

 

 と、黒い竜が地に降りながら人型に変わる。

 変化した時の目線がちょうど倒れたアナスタシアなため、必然的に下になり見下された気分がして、

 

「こいつ……」

 と、アナスタシアは内心舌打ちする。

 

 

 当の竜は、

 倒れた主に手を差し伸べて立たせる。


 当の本人は服の土埃を叩きながら

「……別に鍛えることないだろ」

 と、むくれる。

 

「竜の息吹やら爪やらに普通の剣で対抗出来ると思ってるのか」

 と、ぼやき、


「……血剣なら

 負けない……」

 と、自分の能力を呟く。更に仕舞いには聞き取れないくらい小さい声でぶつぶつ文句を言っている有様。


 負けず嫌いだな、と思いながら黒竜が


「天使族の能力だと短期戦しかできないでしょう?

 だから、ただの剣で戦う術を、と思ったのですが…」

 と、黒竜の言う言葉を適当に耳に入れる。


 向こうでは本を読む弟エリザベートの姿が見えた。彼がこちらの特訓が終わったのを見計らってか手を振る。

 それを見る様にプイッと顔を背ける。


 ——こうも不貞腐れては困る

 こうなるとこちらの言を聞かないのは、いつものことなので黒竜は諦めた。

 

 ——せめて自衛を能力無しで出来て頂けたら…

 と毎度思って剣術以外もやった。しかし大抵アナスタシアが負けて拗ねて終わる。

 

 この黒竜。アナスタシアの悪戯も、

 はあ、と空返事して終わる事が多く、呆れられた事は数えきれない。そう言うことがありつつ、良く頼まれ事をしていた。

 

 相性がいいのか悪いのか……だからこそ、側近の様な形で己が選ばれているというのもあるが…


 

「シェン」

 

「それがおまえは馴染みが深いのは知ってるがな

 俺は嫌いだぞ」

 と、そのあとに「わざとか?」と聞こえるか否かのトーンでアナスタシアが、弟イザベラの隣に座ってから言う。

 

 

「ナーシャ、傷」と、拳を口に突っ込むイザベラ。


「んぐっ⁈」

 血をあげているのはわかるが、と思いながら少し舐めとる。


「あ、あれ?」と、弟の血をある程度飲んでから、疲労感と、擦り傷がなくなったのに気づいた。

 まさかと、アナスタシアが弟の顔を見ると「えへへ」と、頭を撫でていた。

「え⁉︎能力発動してたんだな」と、はしゃぐ。

「おまえ聖女だな」「パーティ開かないと」「今日からしばらくお祝い会だな」「誰を呼ぶ?」

 と、まるで自分のことの様に嬉しそうにした。

「じゃあ、お祝いしないとな」と続ける。


「また始めますか?」と黒竜。しかし、

「「今日は終わり‼︎」」とハモって告げられた。

 黒い竜が、夕焼けを眩しそうに見た。

 

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