第14話


*海の歌声*



 海沿いの国は、この渓谷産の魔石を輸出する要の場であった。また、獣人も行き来していた。

 しかし今はその利を望んだ他国により、植民地化していた。また、獣人たちも淘汰され、美しい白い家々以外は面影はない。

 船は白い家々が空と同じ橙色になった頃に、その国に着いた。既に様々な国の商船個人船漁船などが停船していた。


「今日から暫く補給、修理する。お前ら、一か月滞在だ。いいな? イザベラは俺と散策だ」


 と、船長が指示し、皆が「おう」と、返事したところで各々宿や店に行ったようだ。それを見届けてから船長とイザベラが最後に船を降りた。


「船で寝ないの? みんなは?」

「ああ、船のメンテナンス頼んだからな、一か月はこの国に滞在するぞ。大方皆通信系の魔石でいい所を予約したんだろ」

「へー。すごいね」

「集めた魔石は分配してるからな。そういうギルドだ」と、呆れず何度かやった説明をしてあげた。

 それに「ふーん」と、イザベラ。

 興味ないのか……?と、船長は思いながら次はこの国の話を始めた。

 

 海沿いのこの国は、砂漠地帯を囲む様な特殊な方をしており細長い。

 そして向こうの砂漠地帯産の魔石を輸出する要の場であった。昔は獣人たちも行き来していたという。


 しかし今はその利を欲した他国により、植民地化していた。獣人たちも淘汰され、美しい白い家々以外面影はない。


 植民地化する前は、王朝が存在していた様だがもう文献も散り散り。簡潔な年号、何があったか飛び飛びで綴られている程度。詳細は分からない。もしかしたら、向こうの砂漠地帯なら何かあるかも知れない。そういう考古学者や研究者が多くいる。


「ふうん」とイザベラは空返事で返した。ぼんやりした表情だが、その瞳が少し輝くのがわかって更に話を続けた。


(この短い付き合いで、は何となくこいつはこういう話が好きだな…冒険家、考古学者か?流石に王族関係じゃないだろうな)

 と船長がイザベラの事で想像を掻き立てていた。

 そういう事が気になるならこの海賊–––海上ギルドという特殊だが、国々を巡る職業。

 ある意味天職か。こいつの金は管理してやってるし、ある程度貯まったら、学校にやるのもありだな。

 そう船長は思いながら、図書館とか博物館とかに連れてってやると伝えた。

 イザベラがキョロキョロしながら船長についていく。「ほん…どこ?」「とりさん…」とうわ言の様に見るもの見るもの反応した。


「食事を済ませてからだ」とちゃんと教えてあげてから「迷子にはなるなよ、今から行くからな」と、人ごみの中歩き出す。


 前に港に着く度探検しては何度か迷子になった。

 それからは迷子にならないように腰に紐を結んで歩いている。

  ペットかよと思いながらリードしてあげる。案の定イザベラは何度かお店のショーウィンドウに立ち寄って張り付く事が多かった。


 ここにある店は航海する者たちのための土産屋が多い。だからイザベラは大抵お菓子やおもちゃがある所を目敏く見つける。


「ほら、行くぞ」と、促す。「おもちゃならあとで買ってやる」ととどめを刺してやるとすんなり着いてきた。

 飯屋から五分程度で着くはずの図書館が三十分になった。

 ここは図書館というより、元々の国の資料館。ただ前述した通り散り散りであまりない。

 人によっては休憩所、資料館と用途が違う。

 

「やっぱり少ししかないな」と呟く。イザベラの方はそれでもきらきらしていた。サッと本棚に行き、手に取って窓の近くのカウンターに座る。

 足をぶらぶらしながら熱心に本を読む姿を見、

 やっぱり本に囲まれた…それこそ小説家とかの息子とかか? と、船長は考えた。


 待ち時間暇でイザベラに喋りかけるように、しかしその読書を邪魔しないよう窓の向こうの海の音を聞きながら独り言を呟く。


「独り言で聞き流せよ、イザベラ。……昔、船が神隠しに遭うから。まだ出航するな、と地元民から止められてな。セイレーンがどうのとかお岩さまがなんとか…………だのと言っていたのを覚えている。

 だから俺たちはまた数泊したが、その忠告を無視した船は翌日陸近くのちょっとした小島、島というよりあれは大きな岩だったな。…そいつに座礁してた。

 乗組員は無事だった事は不幸中の幸いってやつかな。彼らを助けてから、その後そこの住民に聞いてみたんだ。

 なんでも昔々、海の、魚人とかそういう種族と関わりがあったらしい

 俺がいた時はもう獣人一人いなかったがな。

 彼らの住む海底の国も人の国みたいに竜が司っていた…、その竜の名をセイレーンと呼んでいた、とな。そういえば、ちょっとした廟が建てられていた気がする……」

 

 どうだったかと、顎を擦り思い出そうとする。その間にイザベラがしっかり聞いていた様で、

 

「でも、イザベラ。姫さまって言ってた。……泡姫って」聞き入っていたイザベラが口を挟む。反応が来て驚く船長。もはや思い出すのを諦め、イザベラに答える。

「そりゃ、いくつかあるんだろ海底の国も」

「会いたいな」とにこにこしながら話す。

「その人魚にか?」

「うん、でもせいれーんとも会いたいな。なんでいなくなっちゃったのって聞きたいな」

 と、少し寂しそうに窓の向こう、橙色に光る海の声を聞いた。


 

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