第45話
*不知火*
「ナーシャ…」
「おれは行く。
見ておけ、イザベラ。
あの狼の青い火のように舞ってやる
お前は見ておけ」
「竜王さま」
「それはやめろ」
と、似なくなった双子の片割れにそう言い返して、夜の空を進んで行った。
曇っているようで月は見えず、そのままイザベラと呼ばれた青年はその片割れを見失った。
竜王と言われた男は、
蝙蝠型の羽をうまく調整する。
そして、自らの血を垂らしながら海に立つ。それは炎となり、そのまま海上を散歩して黒を朱に染めていった。
それを待っていたかのように、
そして追うように、
共に付き添うように、
海竜がとぐろを撒きながら海上に現れた。
そうして垂らす竜王の血が、海に溶けずに、炎となり連なっていった。
彼らと散歩しているようで、竜王は
♪〜 ♪〜
と、鼻歌を歌う。
それが、彼ら竜たちの狼煙であった。各国の地に住む竜たちに知らせていた。
その様を片割れのイザベラは空から海の見える自宅の前に移動していた。
そしてその前で眺めていた。
向こうの空が明るく見えた。
陽が落ち、黒になった世界がまるでまた夕暮れに戻されたかのようだった。
しばらくすると、
沈まない陽の光。
それを人々は訝しんだ。
しかし、すでに遅かった。
黒い竜たちが、その闇に隠れて先陣を切る。
竜たちはそれを見ると隊列を組む。
たまたま起きていた、または情報を聞いていた魔法使いたちが放つ魔法を打ち返り討ちにしていく。
しかし、竜にそれをかわされ、逆に跳ね返してきて、無駄うちに終わった。
そうしていると、あれよあれよとその土地は朱に染まっていった。
そしてその狼煙に反応して、
世界のどこかで山が隆起したように山に擬態していた竜が、
風や水に紛れ隠れていた竜たちが、
そのあとを追うように攻撃を開始した。
と、未だ海を歩く彼に、翼の生えた今は竜の頭の形を模した兜を被る天使族の部下が伝えた。
♪〜
鼻歌交じりで彼は血を垂らしていたが、
そろそろ貧血になりそうだ
と、思ったのと、その部下の報告で上機嫌になった。だから、
一度私は戻る
お前たちは、竜たちが負傷したら手当をせよ
と、命じた。それを聞き、
は、
承知しました
と、言い、紅く燃える地上に飛んでいった。
彼も、それとは真逆の方向に飛んでいった。
先鋒の竜たちによる攻撃で、
遠くに見えるまた別の国も紅く染まっていた。
上々
と、思いながら下を見て、たまに擦り寄る黒竜を
いい子だ
ちゃんと生きて帰ってきなさい
と、撫でてやってから、先へと飛んだ。
この世界の国は大抵建国の礎に竜がいた。その中には亡くなって魔石––––魔力を帯びた宝石。になって、地下に埋もれていた。
その石は属性によっては
風を吹かせ、
空に浮き、
地面で輝き、
炎に焼かれ、
水を生む。
放っておくと、天地を脅かす災害になった。
魔石–––特に建国の竜たちのもの…とはそう言うものであった。
だから人々は魔物由来の魔石を使い魔法をしようした。
狼煙を上げ終え、報告を聞いた竜王であり双子の兄が、
イザベラのいる家に飛び戻ってきた。
血を流したせいか少し顔が青い気がしたが、
無邪気に遊んできた子供にもみえた。
もう反対する気はないけど
と、イザベラは思いながら介抱した。
ふふ
と、笑う彼を椅子に座らせて、イザベラも対面に座る。
兄のガーデニングの趣味もあってその草花と沿岸の朱が映える
ついイザベラは
…っああ
と、感嘆の声を漏らしてしまう。それが聞こえてしまったようで、
「いいだろう?」
と、言われ返事の代わりにイザベラは呆れた顔を返した。
その満足気な双子の兄–––––アナスタシアが落とした朱の炎は数日間消えることがなかった。
ここから数十年ほど朱に支配された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。